エクアドル:CONAIEの新代表の確定とマルロン・バルガスという人

(Photo:CONAIE)

マルロン・リチャード・バルガス・サンティ(Marlon Richard Vargas Santi)が、2025年7月20日にエクアドルの先住民連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)第8回大会で実施された代表選挙に勝利し、次期会長に選出された。49歳のバルガスは617票を獲得し、現職のレオニダス・イサ(Leonidas Iza、540票)を破って勝利した。大会にはシエラ(アンデス山岳地帯)、オリエンテ(アマゾン地帯)、コスタ(沿岸地帯)の先住民族コミュニティから1500名の代表者が出席している。なお、新理事会の正式な就任式は2025年7月28日に行われる予定である。

この役職に立候補したのは、レオニダス・イサ(Leonidas Iza)とバルガスの2名のみであった。イサは2021年から2025年までCONAIEの会長を務めていた。彼が2期連続で再選されるように、同組織はその規約を2024年7月20日に改正している。イサは2025年の大統領選挙にも立候補をしており、3位となっている。

 

以下がマルロン・バルガスのプロフィールである。

経歴

マルロン・バルガスはエクアドルのアマゾン地方パスタサ県にあるカパワリ(Capahuari)というコミュニティで生まれた。彼はエクアドルのアマゾンにある11の先住民ネイションのうちの一つ、アチュアル(Achuar)に属している。

2016年と2020年の2度にわたり、バルガスはエクアドル・アマゾン先住民連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas de la Amazonia Ecuatoriana:CONFENIAE)の会長として選出されている。この組織はアマゾン地域の先住民族を統括するものである。

それ以前は、エクアドルのアチュアル・ネイション(Nacionalidad Achuar de Ecuador:NAE)の副代表およびコミュニケーション担当指導者を務め、組織の統一と強化に貢献した。

エクアドルにおける大学教育や科学技術振興を管轄する政府機関高等教育・科学技術・イノベーション省(Secretaría de Educación Superior, Ciencia, Tecnología e Innovación:Senescyt)のウェブサイトにはバルガスの学歴は登録されていない。

一方、エクアドル監査院(Contraloría General del Estado)の公式ウェブサイトによると、2014年と2015年、ラファエル・コレア(Rafael Correa)政権下でバルガスは国家政策管理省(Secretaría Nacional de Gestión de la Política)のサポート職 1(servidor apoyo 1)として勤務していた。この公的機関はガバナンス政策の設計、調整、実施を担当しており、市町村、県庁、教区政府と戦略的な関係を構築・維持している。

 

2015年に生じた先住民による蜂起「命と尊厳のための行進(Marcha por la vida y la dignidad)」でバルガスはシュアルとアチュアルの権利を守るために抗議活動を行った。その年の蜂起の主な理由は、バイリンガル教育学校の閉鎖、土地法案への反対(同法案が土地へのアクセス問題を解決しないと主張されたため)、およびエクアドルにおける社会組織の運営規則への反発であった。

レニン・モレノ(Lenín Moreno)政権時代の2019年10月に発生したストライキではCONFENIAEの会長としてアマゾン地域のコミュニティの動員を率いた。このストライキは燃料補助金の廃止に反発したものであり、先住民族組織は国際通貨基金(IMF)と合意した経済調整策、特に財政改革に強く反対した。本動員では11日間に及ぶストライキと衝突の結果、11人が死亡し、数百人が負傷した。モレノは先住民族運動との緊迫した対話の末、当該法令の撤廃に応じている。

ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)政権時代の2022年6月に行われたストライキでもバルガスは動員を率いていた。この動員はCONAIEおよび他の社会組織が呼びかけたもので、高騰する生活費や政府の経済政策、具体的には燃料や生活必需品の価格引き上げに反対するものであった。18日間にわたる激しい抗議活動と9人の死者を経て、政府とCONAIEは合意に至った。バルガスは対話の場で発言し、「21世紀においてもなお、政権に自分たちの声を聞かせるために、立ち上がり、蜂起し、行進しなければならないということはあり得ない」と述べていた。

 

当時CONAIEは10の要求を掲げていた。例えば、燃料価格の凍結、農産物の公正な価格設定、雇用と労働権利の改善、鉱業や石油採掘のフロンティアの拡大反対などである。政府によると、3か月にわたる交渉の末に218件の合意が成立した。しかし、当時の内務大臣フランシスコ・ヒメネス(Francisco Jiménez)の発表によれば2022年11月中旬時点で、合意のうち実現されたのは74件のみであった。

 

今回、CONAIE代表候補として指名された後、バルガスは自分はいかなる政党にも属さず、あくまで先住民族代表として従事すると述べた。また、組織内の団結を約束するとともに、「領土の防衛のために強い団結を呼びかける」と宣言し、地域のコミュニティからの提案を推進することを約束した。それと同時に、双方向的文化教育(インターカルチュラル・バイリンガル教育)制度の強化、起業支援の拡充、キトにあるインターカルチュラル高等教育機関「アマワタイ・ワシ大学(Universidad Amawtay Wasi)」のさらなる推進を発表している。

 

マルロン・バルガスの公的情報

会社・証券・保険監督庁(Superintendencia de Compañías, Valores y Seguros)によると、マルロン・バルガスはアチュアル航空アエロツェンツァック(Servicio Aéreo Achuar Aerotsentsak S.A.)の株主である。アエロツェンツァック社は航空輸送を事業とし、その他にも観光やパノラマ飛行や、チャーター便(貸切飛行)のための小型飛行機のレンタルもしていた。しかし、この会社は現在解散・清算手続き中である。他の企業で役員職はつとめておらず、また、株主でもない。

 

マルロン・バルガスに対しては4件の告発

・2016年、ディエゴ・ホセ・トレス・サルダニャ(Diego Jose Torres Saldaña)による「市民間の不和を煽る行為」で告発されたが、裁判には至らなかった。
・2016年、同じくディエゴ・トレスから「攻撃または抵抗」で告発されたが、裁判には至らなかった。
・2021年、フランクリン・サミュエル・ノビリョ・グアダルペ(Franclin Samuel Novillo Guadalupe)による詐欺の告発を受けたが、裁判には至らなかった。
・2022年、プラスペトロル(Pluspetrol)社のオペレーションマネージャーであるマルティン・シギフレド・サルマ・トレス(Martin Sigifredo Zaruma Torres)から、2022年のストライキに関連した公共サービスの停止について告発された。

 

また、司法評議会の記録によれば、バルガスは被告として6件の訴訟を抱え、自身も5件の訴訟を提起している。

マルロン・バルガスに対する告発・訴訟

・2014年、リチャード・フランクリン・バルガス・ワシクタ(Richard Franklin Vargas Washicta)への傷害に関して証言を求められ、出頭命令が出されたが、証言後にその出頭命令は取り消された。
・2015年、リチャード・フランクリン・バルガス・ワシクタを殴った件で8日間の拘留刑を受けた。
・2020年、2019年10月のストライキ中に警察官が死亡した事件で警察への攻撃および抵抗の疑いで捜査されたが、証拠不十分のため検察は不起訴を求めた。
・2023年、Confeniaeの代表として、熱帯雨林の合法化と保護プロジェクトのためのスポンサー支払い契約に関し約9,000ドルの支払いを求められたが、訴訟は取り下げられた。
・2022年、2022年6月のストライキに関連し、反政府グループ結成の疑いで捜査されたが、同年3月に国会から恩赦を受けた。
・2023年、テレサ・エステラ・イリャネス・ガルセス(Teresa Esthela Illanes Garces)から3人の子供の養育費未払いで訴えられたが、召喚されず2025年に訴訟は取り下げられた。

 

マルロン・バルガスが起こした訴訟

・2008年、テレサ・エステラ・イリャネス・ガルセスを相手に子供の親権を求める訴訟を起こしたが、2015年に取り下げられた。
・2014年、テレサ・エステラ・イリャネス・ガルセスと協議離婚の手続きを開始したが、2016年に放棄された。
・2015年、リチャード・フランクリン・バルガス・ワシクタへの暴行による8日間拘留を終えたため、釈放を求める申し立てを行った。
・2019年、中央水力発電プロジェクト「ピアトゥア(Piatúa)川の水流権」に関し、ヘネフラン(Genefran S.A.)社に対して保護訴訟を起こし、現在も係争中である。
・2019年、公務員の収賄容疑でアウレリオ・アグスティン・キト・コルテ(Aurelio Agustín Quito Corte)を告発した。キトは1年の禁錮刑を受けている。


国内歳入庁(SRI)によると、マルロン・バルガスに関する税務情報は登録も第三者からの報告も存在しない。

 

CONAIEの議長に就任するマルロン・バルガスは、組織内部に存在する分裂やダニエル・ノボア(Daniel Noboa)政権との今後の関係という二つの緊急課題を解決しなければならない。まず前者の解決が後者の進展に不可欠であることを、アマゾン出身の指導者は理解している。そのため、CONAIEの総会において「組織の強固な団結を呼びかける」ことを強調し、闘いを続けていく意思を示した。

「私は差別的な言説で基盤を分断し、差別するような代表にはならない」と立候補発表時に述べたバルガスは、前代表であるレオニダス・イサとの距離を明確にした。かつて先住民組織を率いたホルヘ・エレラ(Jorge Herrera)は、イサが率いる現執行部下での一部の行動や決定が不満と分裂を生んでいることを認めている。エレラは、4月13日のエクアドル大統領決選投票でパチャクティク運動と市民革命党との合意に反対した側の一人であり、イサもその選挙に関与していた。このため、先住民派閥の一部に不満が生じた。これらを踏まえ、マルロン・バルガスは、最初に内部の亀裂を修復し、その上で国家権力に対してしっかりとした提案を掲げるべきだと考えている。「我々はいかなる政党の候補者でもない。エクアドル最大組織CONAIEの団結を取り戻すことが鍵だ」とマルロン・バルガスは語っている。バルガスは就任後の最初の行動の一つとして、先住民の領域を直接訪問し、健康、教育、先祖の知恵、そして何よりも鉱業や石油開発に対する闘いに関する提案を集める予定である。さらに、先住民族の領域において、コミュニティや指導者たちが守られていないと訴える「事前・自由・十分な情報に基づく同意」(consulta previa, libre e informada:FPIC)の履行を求めて闘うという。これが彼の闘いの旗印であり、今後3年間における先住民族と政権との関係が調和的になるか緊張状態になるかを左右する要素になると警告している。

 

対話への扉

CONFENIAEの指導者として、バルガスは2019年と2022年の先住民蜂起に際しイサと行動を共にしたことから、運動内では急進派に位置づけられている。その経歴に加え、鉱山開発に対する蜂起を呼びかける決議の承認もあったことから、バルガスは強硬路線なのではないかと囁かれていた。しかし、彼は慎重な態度をとり、先住民基盤との対話を優先して運動の政府に対する姿勢を決めていくとしている。ダニエル・ノボア政権に対する大規模な動員の有無について繰り返し質問されると、彼は「我々は対話を愛する者であり、問題解決のために話し合う人間だ。まずは我々自身の間で対話を学び、それから政権と対話すべきだ」と答えた。ただし、その対話は尊重と透明性のもとで進められるべきであり、先住民の利益を外れた議題の押しつけや服従を伴ってはならないということも明確に述べている。

パチャクティク党の国会議員であり、政府との近さからCONAIEから追放された一人であるセシリア・バルタサル(Cecilia Baltazar)議員は、バルガスの政府との対話路線に前向きな評価を示している。「盲目的な蜂起は成果をもたらさず、過激主義は何の進展も生まなかった。指導者は提案を示す能力を持たねばならない」と彼女は語った。

しかし、バルガスは対話から抗議に移行する可能性についても含みを持たせている。先住民族の要求が具体的な形で実現しなければ、「我々は対話を知っているが、同時に抵抗する術も知っている。権利を主張し、戦いの姿勢を崩さずに立ち続ける」と警告した。

#MarlonVargas #LeonidasIza

 

参考資料:

1. ¿Quién es Marlon Vargas, presidente Conaie?
2. Marlon Vargas, el líder amazónico que desplazó a Leonidas Iza de la presidencia de la Conaie
3. “Sabemos dialogar, pero también sabemos resistir”, dice Marlon Vargas, nuevo presidente de la Conaie

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