(Photo:Ministerio de Defensa / X)
引き渡し審理は有罪判決を下すものではなく、単に一国からの引き渡し要求が法的要件を満たしているかどうかを確認する手続きである。ここではその仕組みについて説明する。
2025年7月8日、アメリカ合衆国はエクアドルの危険な麻薬密売人であり「ロス・チョネロス(Los Choneros)」のリーダーである通称フィト(Fito)ことホセ・アドルフォ・マシアス・ビジャマル(José Adolfo Macías Villamar)の引き渡しを正式に要求した。3日後の7月11日、フィトはオンライン出廷し、引き渡しを受け入れる意向を示した。最終的な引き渡しに関する決定は、エクアドル最高裁判所の大統領であるホセ・スイング(José Suing)弁護士に委ねられる。
エクアドルが市民の引き渡し要求を受けた場合、その国は所定の手続きを守る必要がある。まず、外務省および移住局は、引き渡し要求が法的要件を満たしているかどうかを確認する。その後、要求はエクアドル最高裁判所(Corte Nacional de Justicia:CNJ)の大統領によって審査される。法的要件を満たしている場合、要求された人物は引き渡し審理にかけられる。
この審理において、エクアドル検察庁は引き渡し要求国の利益を代表し、エクアドル最高裁判所大統領に対して、被告に引き渡しに同意するかどうか尋ねるよう求める。例えば、アメリカ合衆国がエクアドルの市民の引き渡しを求める場合、エクアドルの検察はアメリカの代表として行動する。
引き渡し審理とは何か
受動的引き渡し審理(audiencia de extradición pasiva)とは、引き渡し手続きの一部であり、最高裁判所長官が、要求された人物に対して引き渡し要求を受け入れるかどうかを確認する司法手続きである。最高裁判所によれば、引き渡し審理は「制裁的なものではなく、有罪または無罪の判断を下すものでも、罰則を課すものでもない」。単に、要求された人物が引き渡しに同意するかどうかを確認するための手続きである。
引き渡し審理(パッシブ審理)とは、外国の国がエクアドルに対して市民の引き渡しを求める場合の手続きであり、関与する関係者は以下の通りである:
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エクアドル最高裁判所:最高裁判所の大統領が引き渡し審理の裁判官となり、引き渡しの可否を判断する。
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検察: 引き渡しを求める国の利益を代表し、最高裁判所に対して、要求された人物が引き渡しに同意するかどうかを尋ねるよう求める。
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要求された人物: 引き渡し審理に出廷し、引き渡しを受け入れるかどうかを決定する。
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弁護人: 要求された人物の利益を代表し、その権利を守る。
すべての関係者が出席し、要求された人物が自分の情報(ID番号、氏名、生年月日、出生地、両親の名前)を確認した後、最高裁判所の大統領が審理を開始する。この審理は、オンラインで行われる場合もある。
エクアドル最高裁判所長官の質問と手続きの進行
エクアドル最高裁判所長官は、要求された人物に対して、引き渡し手続きについて認識しているかどうかを尋ねる。その後、検察は大統領に対して、要求された人物が他国からの引き渡し申請に同意するか、反対するかを尋ねるように求める。
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引き渡しに同意する場合: 引き渡し手続きは簡略化され、直接的な引き渡しが進められる。
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引き渡しに反対する場合: 検察は引き渡し申請の正当性を説明する。例えば、引き渡しを求める国と引き渡しを行う国との間に国際条約が結ばれており、両国でその犯罪が定められていることを証明する。
要求された人物の弁護人も自身の立場を述べ、引き渡しに反対する理由を説明する。
審理後の手続き
引き渡し審理後、3営業日以内に最高裁判所の長官は書面で判決を下す。この判決では、引き渡しを許可するか、拒否するかが決定される。もし長官が引き渡しを承認する決定を下した場合、最終的な判断はエクアドルの大統領に委ねられる。大統領は、引き渡しを承認するかどうかを決定する。
エクアドルにおける引き渡しの決定と条件
エクアドル最高裁判所が引き渡しを拒否した場合、その決定はエクアドル大統領に対して拘束力を持つ。つまり、最高裁が引き渡しを認めない場合、大統領はその決定を尊重しなければならない。しかし、CNJの決定は最終的なものではない。要求された人物は書面で上訴することができ、再度審理が行われる。この新たな審理は、エクアドル最高裁判所の刑事部門で行われ、その決定は元の判決を確認するか、変更することができる。もし刑事裁判所が引き渡しを確認すれば、案件はエクアドル大統領に送られ、大統領が最終的な承認を行う。大統領の承認を得た後、引き渡しの日時と条件が調整される。
引き渡しの対象者
エクアドル憲法第79条は2024年の国民投票後に改正された。特に、外国からの引き渡しに関して新たな条件が追加され、政治的犯罪に関する例外や、残虐な刑罰に関する規定が明確化されている。この改正によって、エクアドルは特定の条件下で外国への引き渡しを許可する一方で、人権や倫理的な観点から引き渡しを拒否できる状況も設けられた。
なおこの条文は、2024年4月21日に実施された国民投票「Pregunta B」での多数賛成(約64.3%)により承認され、5月9日付の官報(Registro Oficial No. 554)で公示されたものである。
エクアドル憲法 第79条(改正後全文)
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引き渡しの申請および許可について
引き渡しは、本憲法、エクアドルが加盟する国際文書、およびそれらで規定されていない事項については法律に定められる条件・要件・制限・障害に従って、申請され、許可されるものである。 -
許可の要件
引き渡しは、法に定める裁判官によって、権限を有する当局の要請に基づき、エクアドルの法律により犯罪として規定されている行為に関して認められる。ただし、死刑およびその他の非人道的、残酷または品位を傷つける刑罰が科されないことを条件とする。 -
引き渡しが認められない例外
以下の場合、引き渡しは許可されない:-
政治犯罪およびそれに関連する犯罪
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ただし、テロリズム、人道に対する罪、その他国際条約で定められた犯罪については、この例外規定の対象外となる。
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以下が憲法第79条に関する2024年の国民投票前と投票後の違い(まとめ):
項目 | 改正前 | 改正後 |
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引き渡しの可否 | エクアドル人の引き渡しはいかなる場合でも禁止 | 一定の条件を満たす場合、エクアドル人であっても引き渡し可能 |
条件 | なし(全面的禁止) | 国際条約の存在、相互犯罪定義(罪の二重処罰性)、死刑・非人道的刑罰の不適用、政治犯を除外(ただしテロ・人道に対する罪は除外) |
テロ・重犯罪 | 明記なし | テロリズム、人道に対する罪などは政治犯の除外規定の例外として引き渡し対象となる |
法的枠組み | 憲法と国内法 | 憲法、国際条約・国際文書との整合性を重視 |
参考資料:
1. ¿Qué es una audiencia de extradición?
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