(Photo:Defensa)
共和国大統領ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)の決定により、警察および軍上層部で構成された「治安ブロック(Bloque de Seguridad)」は2024年6月3日から2025年6月13日まで、すなわち375日間にわたり本部を沿岸都市マンタに移設した。その目的は、マナビ県を襲う犯罪の波を食い止めることであった。この決定により、沿岸部22のカントンにおける治安部隊の存在感が高まり、犯罪組織に対する作戦も強化されてきた。
この件について、マナビ県合同任務部隊司令官クレベル・グアイタリジャ(Kléber Guaytarilla)准将は、「凶悪殺人が完全に止まったわけではないが、治安ブロックの持続的な展開により、顕著に減少したことは評価に値する」と述べた。国家警察の元捜査局長かつ元副総司令官であるフレディ・サルソサ(Freddy Sarzosa)も、次のような見解を示した。「マンタに治安ブロックが設置された初月の評価において、確かに犯罪指標は一時的に低下した。それは理解できることだ」。サルソサはさらに「このように警察と軍の大規模な存在は、組織犯罪グループの移動を引き起こす。いわゆる“風船効果”が生じるのである。それはあらゆる治安介入で起こる現象だ」と述べた。
治安部隊の公式記録によれば、軍と警察の上層部が作戦を開始した2024年6月には、マナビ県で44件の凶悪殺人が記録された。前月の5月には112件の殺人が発生していた。2023年と同じ月を比較すると、2023年6月は84件、5月は79件の殺人があった。2024年の他の月では、マナビ県では月に70件から90件の殺人が記録されており、2023年には月90件から100件の間であった。実際、2023年はマナビ県において過去最多となる940件の凶悪殺人が記録された。2024年は856件となっている。
2025年、暴力的殺人が再び増加傾向
2025年には、統計上も上昇傾向が確認された。1月1日から6月3日までの間に、502件の凶悪殺人が記録されたのに対し、2024年の同期間では388件であった。これは、暴力的殺人が増加していることを裏付けている。さらに、2025年には特筆すべき特徴がある。すなわち、1月はマナビ県の歴史上、最も暴力的な月となり、125件の殺人が記録された。この状況は、「国家生命・殺人・失踪・恐喝・誘拐対策局(Dinased)」の評価とも一致している。同局によれば、2025年の最初の5週間において、2024年と比較して暴力的殺人が急増したという。
マナビ県における軍と警察上層部の駐留評価についてグアイタリジャは、「非常に好ましい結果であった」と述べている。なぜなら、治安ブロックが「マナビ県全域にわたる持続的な軍事作戦を展開し、組織犯罪との闘いにおいて重要な成果をあげた」からである。
暴力の震源地:マンタとポルトビエホ
マナビ県には22のカントンがあり、それらは12の警察管区に分類されている。暴力的殺人の記録を見ると、マンタ管区(ジャラミホ、モンテクリスティを含む)とポルトビエホ管区が、州全体の少なくとも70%の殺人事件を占めていることが分かる。このため、マンタとポルトビエホは「赤地帯(地図上の危険区域)」に指定されている。実際のところ、2025年1月1日から6月3日までの間に、マンタ市では214件の凶悪殺人が発生しており、2024年の同期間には156件だった。一方、ポルトビエホ市では、2025年の同期間中に146件の殺人が発生し、2024年には109件であった。
犯罪組織の抗争と暴力集中の背景
マンタとポルトビエホの2つの管区に暴力が集中しているのは、麻薬テロ組織「ロス・チョネロス」の支配によるものであると考えられている。これについて、国家警察の元捜査部長サルソサは「数年前から続く『影響力』や『覇権』のデータがあると思う。それは、エクアドルが海岸線、特にマナビ県を通じて、麻薬密輸に適した立地であることに由来する。よって、組織犯罪にとって魅力的な場所となっている」次のと述べた。しかしながら、サルソサによれば、現在逃亡中のロス・チョネロスのリーダー、ホセ・アドルフォ・マシアス・ビジャマル(José Adolfo Macías Villamar)、通称「フィト(Fito)」の不在が、対立組織である「ロス・ロボス」やその同盟組織「ロス・ペペス(Los Pepes)」にとって勢力拡大の好機となり、それが殺人事件の増加につながっているという。サルソサは「亡くなっている人々の大多数は、ロス・チョネロスに所属する者たちである。また、ロス・ロボスがロス・ペペスを通じて支配を強めている現象が目に見えてきた」と語った。
「治安ブロック」は根本的な解決ではない
治安ブロックは、警察と軍からなる部隊で、2023年11月末に編成され、組織犯罪に対して情報共有・情報活動・戦術・作戦の計画を通じて共同で対処することを目的としている。また、この部隊は、2024年初頭に大統領令により宣言された国内武力紛争状態(conflicto armado interno)に対処するため、軍と警察の即時動員・介入にも従事してきた。サルソサ元副総司令官によれば、治安ブロックのマンタや現在のグアヤキルへの展開は「根本的解決ではなく、他の領域との連携が不可欠である」。サルソサは次のような対応を提案している:
必要とされる国家的対応と制度改革
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戦略的インテリジェンスの確立
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制度内の粛清
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犯罪経済に対する財務監視
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社会的介入の実施
つまり、治安部隊だけでなく、国家のあらゆる機関が参加し、社会の織りを再建する必要がある。また、警察や軍の上層部が各都市に本部を置くことについても、現地での意思決定の迅速化、制度間の連携強化、作戦計画の向上、脅威評価の迅速化、そして組織犯罪に対する国家の「断固たるメッセージ」の発信という点で効果的であると述べた。
2024年、治安ブロックはマンタのフィトの縄張りに設置された犯罪組織の監視カメラを無力化する作戦も実行している。さらにサルソサは、警察官の社会経済的背景を分析し、不正に増加した財産の有無を検証する必要性を指摘した。最後に、治安ブロックの導入は「犯罪現象に対するリアクティブな対応(対症療法)」であることを認め、介入地域を放置すれば、犯罪が他地域に移動(いわゆる“風船効果”)する可能性があるため注意が必要であると警鐘を鳴らしている。
暴力の傾向は依然として危機的
サルソサは「この意図的殺人の傾向が続く場合、我々は悲観的・楽観的の両シナリオの中間の頻度での発生率に位置している。つまり、警察や軍の努力が善意に基づくものであっても、将来的に危機的な局面に到達する可能性があることを意味する」と警鐘を鳴らす。一方、犯罪学の専門家ルイス・ララ(Luis Lara)も「死者数は今後も増えるだろう。なぜなら、海岸部では犯罪組織が住民支配を狙っているが、国家がそれを許さないため対立が発生しているからである」と指摘している。
治安ブロックによる短期的成果と暴力の副作用
マナビ県の紛争地域にある海水浴場では、8月10日の祝日期間に向けて治安ブロックによる防備体制が敷かれる予定である。陸軍准将グアイタリジャは「麻薬・武器・弾薬の押収、犯罪組織の幹部や構成員の逮捕などにおいて、目に見える成果が出てきている。しかし、その一方で、これらの武装組織は互いに激しく報復し合い、一時的に暴力水準が上昇する傾向がある」と述べた。
国際協力という出口
フレディ・サルソサは、犯罪対策における捜査部門の重要性を強調する。すなわち、犯罪組織の特定、所在の確認、解体などのためには、捜査の強化が不可欠であるという。そして、国際的な警察間の連携や協力の必要性についても言及する。「エクアドルは、犯罪組織にとって麻薬輸送の要衝であるため、コロンビアやペルーとの継続的な連携が必要である」。「エクアドルから消費国に向かう輸送には、最短で7〜8日しかかからない。この間に出荷のトレーサビリティ(追跡可能性)が問われる」。サルソサによれば、コロンビアは麻薬生産国であり、その構造は以下のような流れである。
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コカインがエクアドル北部から流入する。
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車両の隠し場所(カレータ)を使って陸路で輸送される。
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沿岸部の農場や住宅などに一時保管される。
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そこから海路で出荷される。
組織犯罪の主軸は麻薬取引
エクアドル犯罪組織観測所(OECO)の報告によると、同国における犯罪組織の主要な活動は以下のように分類される。
犯罪行為 | 全体に占める割合 |
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麻薬取引 | 23% |
資金洗浄(マネーロンダリング) | 17% |
国家機関における腐敗 | 16% |
武器取引 | 10% |
麻薬と関連する石油製品の密輸 | 9% |
これにより、麻薬取引は国家レベルで最も支配的な犯罪形態であり、他のさまざまな犯罪との連携(コンバージェンス)を生み出しているとされている。
国際連携の必要性:ペルーとの関係も鍵
サルソサは、ペルーとの連携の重要性についても「ペルーは、密輸を通じてエクアドル領内に武器を供給する国のひとつである。この点から見ても、両国の連携は不可欠である」と言及した。さらに彼は、国際的な犯罪組織は麻薬の対価を必ずしも金銭で支払っているわけではないと指摘した。彼の指摘は「彼らは麻薬の対価として武器を提供することもある。それゆえに、国際的な連携の重要性が生じる」という事だ。
捜査部門の強化こそが急務
サルソサは、治安維持のための新たなアプローチの必要性について「これ以上街を警察官で埋め尽くすべきではない。今必要なのは、明確な方向性を持った政策であり、それによって捜査部門を強化することが重要である。この捜査軸こそが、組織犯罪に属する人物たちに対して決定的な打撃と無力化をもたらす鍵なのである」と強調した。
参考資料:
1. Reducción temporal de la violencia y migración de grupos criminales: Estos fueron los resultados del Bloque de Seguridad en Manabí
2. ACCIONES DEL BLOQUE DE SEGURIDAD CONTINÚAN DANDO RESULTADOS A ESCALA NACIONAL
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