チリ共和国上院は2025年5月16日、マプチェと実業家や地主の利益と対立するコミュニティに対する犯罪化政策の一環として、憲法上の例外的非常事態の南部を延長する新たな要求を承認した。これによりアラウカニア地方、ビオビオ地方のアラウコ県とビオビオ県における憲法上の例外的非常事態は、さらに30日間延長される。採決では27票が賛成、1票が反対、3票が棄権した。これは、2022年から継続されている国家による軍・警察の展開を伴う措置であり、同地域のマプチェのコミュニティに対する弾圧政策の一環とされている。この措置は当初、地域で発生していた火災の鎮火を目的として制定されたものである。
今回の延長は、5月29日に終了予定だった前回の延長措置の後を引き継ぐ形で発効する。上院の承認後、最終的な施行には下院(Cámara de Diputadas y Diputados)の承認が必要とされている。今回の延長決定は、下院での審議を経て正式に発効する予定だが、治安の名の下に軍事力が常態化していることに対する国内外の懸念は高まりつつある。今後、国際社会の監視や人権機関の介入が求められる中、チリ政府の対応姿勢が問われている。
REPLICAMOS
— La Izquierda Diario Chile (@LID_Chile) May 15, 2025
hacemos un llamado al pueblo mapuche y al pueblo chileno y no mapuche consciente a participar de la convocatoria a Marcha Contra el Estado de Excepción a realizarse el viernes 16 de mayo de 2025 desde las 17:00 hrs desde la plaza del hospital. pic.twitter.com/dfRxIkuDQA
上院議員の見解と治安政策への評価
上院議員のホセ・ガルシア(José García)は、国防委員会および治安委員会が得た情報の重要性を強調し、「今後に向けた対応、また大統領に提出された『平和と理解のための委員会(Comisión de Paz y Entendimiento)』からの提言」についての議論が行われたと述べた。また、カルメン・グロリア・アラベナ(Carmen Gloria Aravena)上院議員は、非常事態宣言の継続によって「完全ではないが、ある程度の平穏な生活」が可能になっているとしつつも、「テロ行為が依然として続いている」と指摘した。さらに、彼女は「理解しがたいことに、未だに若者が戦闘員として徴用されている」と非難し、現在占拠されている地域に対する新たな介入戦略の必要性を訴えた。
マプチェに対する「非常事態」の意味
この非常事態宣言は、2022年5月16日に初めて発効されて以来、3年目を迎えた。これは、チリ共和国において最も長期間続いている非常事態措置であり、批判的視点からはマプチェに対する国家的弾圧・軍事化政策の象徴とされている。特に、同地域では森林資源の収奪、土地所有権を巡る衝突、大企業・大地主の利権が絡む中で、先住民族の権利回復運動が展開されており、それに対して国家が警察・軍事力を行使する形で応じてきた。国際人権団体や先住民族支援団体は、この措置を「先住民族の正当な領土要求運動に対する不当な犯罪化」と批判しており、地域社会における深刻な人権侵害や軍の暴力行為が報告されている。
マプチェ、抗議の全国行動を呼びかける
これまで合計56回の延長が行われており、マプチェのコミュニティに対する弾圧と犯罪化を合法化する手段として機能してきた。この地域では、企業家や大土地所有者(ラティフンディスタ)による先住民族の土地収奪に抗して、マプチェが抵抗を続けている。
マプチェ、5月16日に全国行動を呼びかける
政府の対応に対する抗議として、マプチェは5月16日に「国家的抗議の日(Jornada Nacional)」として、講義を呼びかけている。この行動の目的は、以下の要求を政府に対して明確に突きつけることである。マプチェによる要求は以下である:
- マプチェの主権の尊重
- 軍の占領撤退
- 政治犯の釈放
特に、マプチェの指導者であるエクトル・ジャイトゥル(Héctor Llaitul)は、先住民族の権利を主張したことで23年の禁錮刑を言い渡されており、同民族はこれを「不当な投獄」として強く非難している。彼には「暴力の扇動と称賛」、「暴力的な不法占拠」、「木材の窃盗」、「公務執行妨害」といった罪が適用されたが、マプチェ側はこれらの罪状を政治的弾圧に基づくものと見なしている。
エクトル・ジャイトゥルの逮捕
2022年8月24日(水)、チリ国家捜査警察(Policía de Investigaciones)は、マプチェの組織アラウコ・マジェコ調整委員会(Coordinadora Arauco Malleco:CAM)のウェルケン(スポークスパーソン)であるエクトル・ジャイトゥルを、チリ南部で発生した一連の林業企業に対する放火事件への関与容疑で逮捕した。これは、テムコ保証裁判所(Juzgado de Garantía de Temuco)が彼に対して逮捕状を発行したことを受けたものである。
ジャイトゥルは、ビオビオ地域カニェテ市(Cañete)のレストランで昼食を取っていたところを、民間警察(捜査警察)によって拘束された。彼はテムコ市に移送されたのち、司法当局の管理下に置かれている。検察当局によれば、彼に対する捜査は通常の刑事犯罪のほか、国家安全保障法(Ley de Seguridad del Estado)に基づく処罰対象となる罪状にも及ぶ。
CAMの背景と「武装闘争」の位置づけ
アラウコ・マジェコ調整委員会(CAM)は、マプチェの自治権拡大と祖先の土地の返還を求めることを目的とした組織である。この目的のために同組織は武装闘争、放火、その他の直接行動を通じて、資本主義構造への対抗を掲げている。
CAMによるマプチェ蜂起の原点は、1974年のピノチェト政権下に出された法令第701号(Decreto 701)に遡る。この法令は、チリ南部の広大な原生林を国際経済市場に取り込むことを目的とし、その後10年間で、原生林の大部分が成長の早いラジアータ松やユーカリの単一植林地(モノカルチャー)へと転換された。こうした「ユーカリの独裁」に対する抵抗として、1997年12月1日、創設されたばかりのCAMは、林業大手フォレスタル・ボスケス・アラウコ社(Forestal Bosques Arauco)の木材運搬トラック3台を襲撃し、放火する事件を起こした。
この直接行動は、マプチェの指導者たち—ビクトル・アンカラフ(Víctor Ancalaf)、ホセ・ウェンチュナオ(José Huenchunao)、ペドロ・カジョケオ(Pedro Cayoqueo)、エクトル・ジャイトゥル、アリウェン・アンティレオ(Aliwén Antileo)—による資本主義に対する全面的な領土回復プロセスの開始であり、この運動はアラウコ州およびマジェコ州のマプチェ・コミュニティに広く支持されていった。
1999年までには、ルカニャンコ(Rukañanco)、クインコ(Kuyinco)、トラニクラ(Tranicura)、チョケ(Choque)、コルクマ(Colcuma)、エル・マロ(El Malo)、ミキウェ(Miquiwe)、コイウィンカ・トリ(Coiiwinka Tori)、テムレム(Temulemu)などのコミュニティが、CAMと連携して新たな植民地主義に対抗する闘争に加わった。
領土抵抗組織による「領土解放戦略」
CAMの政治的プロジェクトと綱領は、攻撃対象は決して民間人や入植者ではなく、資本主義的インフラの破壊に限られることを明示している。「領土抵抗組織(Órganos de Resistencia Territorial:ORT)」を通じて、CAMは領土解放戦略を実行しており、その第一段階は「テリトリアル・コントロール(control territorial)」と呼ばれる土地の再占拠プロセスである。この戦略において、CAMのメンバーは、広大な私有地(フンド)に進入し、その土地全体の回復を目指す。具体的には、以下のような活動を行う。
- 植林企業によるユーカリのモノカルチャー植林地への放火
- トラック、倉庫、住宅など林業企業の資産の破壊
- 大土地所有者による農作物の焼却
CAMによる土地回復の次なる段階は、「シエンブラ・プロドゥクティーバ(siembra productiva)」と呼ばれる生産的な農耕プロセスである。彼らはこの回復した土地に、ジャガイモ、トマト、小麦など、マプチェの伝統的な食生活に欠かせない作物を植え始める。これは、自治権構築プロジェクトにおける最初の具体的で実質的な成果である。
これらの「領土回復(recuperaciones territoriales)」は、エクトル・ジャイトゥルの言葉を借りれば、「マプチェのアイデンティティの再構成を可能にする」ものであり、土地の回復は「文化的・宗教的再生につながるより広範なプロセスの根幹をなすもの」であるとされる。このようにして、奪われた土地を回復することにより、以下のような伝統的な儀式や集会がコミュニティの日常に再び根づいていく:
- トラウン(Trawun):マプチェ社会における政治的・精神的議論の場
- パリン(Palin):競技的要素を含む伝統的な儀式的ゲーム
- ニュギジャトゥン(Nguillatun):自然との調和と祖霊への感謝を捧げる宗教儀式
- マチトゥン(Machitun):マプチェの伝統医(マチ)が行う治癒儀式
マプチェ指導者への弾圧と政治犯の実態
2011年、マプチェ指導者エクトル・ジャイトゥルとラモン・ジャンキレオ(Ramón Llanquileo)は、それぞれ20年と8年の実刑判決を言い渡された。これは、彼らが地域内での放火攻撃の首謀者であるとされたこと、および2008年に検察官マリオ・エルゲタ(Mario Elgueta)の襲撃をしたとされる容疑によるものである。チリ政府はこれらの囚人に対して公式には政治犯(presos políticos)としての地位を認めていないが、実質的にはその扱いを認めている。コンセプシオン市(Concepción)にある最高警備刑務所「エル・マンサーノ(El Manzano)」では、彼らを含むマプチェの囚人のみが収監される特別な監視区域が設けられている。2024年4月、過去数年にわたって行われた囚人によるハンガーストライキが政府に圧力をかけ、ジャイトゥルの刑期は15年、ジャンキレオは8年へと減刑された。しかし、政治犯だけでなく、マプチェ全体が今なお制度的・体系的に犯罪化、非人間化、疎外され続けている。ワリマプ(Wallmapu:マプチェの伝統的領域)が依然として資源搾取の対象であり、チリ国家の植民地主義的入植政策が続く限り、北はビオビオ川から、南はトルテン川までのマプチェの地からは、こうした抑圧に抗する戦いの叫びが響き続ける。
マプチェの自決権の侵害が国連で再び提起される
2025年3月20日、エクトル・ジャイトゥル・カリジャンカはジュネーブ第三世界研究センター(CETIM)の支援を受けて、弁護士アルベルト・エスピノサ(Alberto Espinoza)を通じ、チリ国家を相手取った新たな告発を第58回国連人権理事会に提出した。告発の主な内容は、ウォリマプ(Walmapu)と呼ばれる領域に暮らす先住民族マプチェの人々に対し、チリ国家が国際人権法を著しく侵害しているというものである。これ以前にも、アラウコ・マジェコ調整機構(CAM)とCETIMは、2017年および2018年にもマプチェの権利侵害について訴えている。
チリ国家の形成期、さらにはスペインの支配下にあった時代から、マプチェは支配に抗い、自らの領土を守る闘争を続けてきた。それがゆえに、制度的かつ広範な迫害、差別、レイシズム、犯罪化の対象となってきた。この闘争は単に土地の奪還だけでなく、上述の通り土地に根差した文化的実践の保存を意味している。マプチェにとって土地とは、主権、自治、生命、社会的統合、そして固有の世界観と密接に結びついた政治的・経済的・文化的価値を持つものである。
マプチェの人々は、国家による支援を受けた入植者によって奪われた土地の回復を求める闘争のなかで、弾圧を正当化する制度構築と軍事化政策の犠牲となってきた。ウォリマプの先住領土では、国家憲法に基づく非常事態が宣言され、マプチェの自決権が無視され、その文化は資本主義的・収奪的経済モデルに従属・服従させられている。こうしたモデルは、マプチェの生活様式や民族としての主権に甚大な影響を及ぼしている。
本来農業用地でありウォリマプの一部であった土地は、現在では林業企業の所有となり、マプチェは領土、水、天然資源へのアクセスを奪われている。
チリ国家は、軍事独裁政権から継承された法制度(反テロ法や国家保安法など)を用いてマプチェを弾圧し、行政府、立法府、司法が一体となった抑圧的機構が構築されている。これにより、ILO第169号条約(先住民族の権利に関する条約)の適用を無視したまま、マプチェへの人権侵害が継続されている。
その典型がエクトル・ジャイトゥルに対する個別的かつ執拗な迫害である。彼はピノチェト独裁政権下でも拘束・拷問を受けた経験を持ち、現在はマプチェの領土・文化的自治を主張する言論を理由に、暴力の扇動容疑などで合計23年の禁錮刑を受けている。このうち15年は発言内容のみによる有罪判決である。現在ジャイトゥルは、非人道的かつ屈辱的な拘禁環境の下に置かれ、生命、身体的・精神的な健全性、文化的権利が直接侵害されている。この政治的迫害は彼の息子であるペレンタロ・ジャイトゥル(Pelentaro Llaitul)にも及んでおり、チリ検察庁とボリッチ政権の内務省は、彼に対して最長100年の懲役刑を求刑している。エクトル・ジャイトゥルおよびCETIMは、チリ国家に対し、国際人権条約に基づく義務を遵守するよう強く求めた。また、ウォリマプの軍事化の即時停止、全てのマプチェ政治犯の釈放、非人道的な拘禁制度の廃止を求めた。さらに、国連人権理事会に対して、マプチェ民族の自決権などの基本的権利を確保し尊重する措置を講じるよう要請している。この要請は、CAMとしても全面的に支持されている。
マプチェの戦いの言霊 マリチウェウ(MARICHIWEU)、つまり「我らは十度勝利する」と叫びながら彼らは自らの権利回復に向け主張を続けている。
参考資料:
1. Continúa represión contra la Nación Mapuche: Chile aprueba nueva prórroga de estado de excepción en el sur
2. FREE HÉCTOR LLAITUL!
3. Chile: Violations of the Rights of the Mapuche Raised Again at the UN
4. CAMとCETIMによる2017年・2018年の活動とマプチェ民族の権利尊重に関する提言:
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