(Photo:Flor Ayala)
米国からエルサルバドルのテロ収容センター(Centro de Confinamiento del Terrorismo:CECOT)に強制送還されたベネズエラ人移民たちの家族は、2025年4月22日(火)、エルサルバドル大統領ナイブ・ブケレ(Nayib Bukele)が提案した囚人交換案を強く非難し、拒否した。
ブケレは4月20日(日)に、ベネズエラ政府に対し、「人道的合意」と称し、エルサルバドルに収容されている252人のベネズエラ人を、同数のベネズエラ国内に収容されている政治犯と交換することを提案している。しかしこの提案は、ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領によって「違法で横暴」だと断じられている。
「交換なんて受け入れる理由がない。そもそも、我々の子どもは犯罪者でもない」と語るのは、44歳のネイリスト ルイスマリ・ゴメス(Luismary Gómez)である。彼女の息子は数週間前にCecotへ送られた。
「息子は、自分にとって最善だと思って強制送還の書類に署名した。しかし罠にはめられた」と彼女は語る。ゴメスは国連のカラカス事務所の前に集まった約50人の親族たちとともに抗議を行った。抗議の場には、「私は息子の声である」と記されたプラカードや、3月15日からエルサルバドルへ送還されたベネズエラ人たちの写真が掲げられていた。
この強制送還措置は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の政権下でおこなわれているものであり、1798年に制定された「外国人敵国法」(戦時のみ適用)を根拠に行われたものである。カラカスはこれを「時代錯誤」だと非難している。
この法律の適用を巡っては、トランプ政権と米裁判所の間で法的対立が発生している。ベネズエラ人の弁護士らは、クライアントが世界的に有名なギャング「トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)」の一員であるという疑惑を否定している。
医療従事者で58歳のアンヘル・ブランコ(Ángel Blanco)は、22歳の息子が「タトゥーがある」という理由で拘束されたと述べており、ブケレ大統領の発言を「息子の誘拐の証明だ」と批判した。「我々の子どもたちは人質にされており、また、人身売買のような扱いを受けている」と彼は訴えている。さらに、「私は息子のためにエルサルバドルへ行ってもいい。息子を帰してほしい。ブケレが奴隷を持ちたいのなら、私を身代わりにしろ。私を連れて行っていいから、息子を返してくれ」と、ブランコは嘆願する。
ニコラス・マドゥロが政治犯と米国から強制送還されたベネズエラ人移民との交換提案を拒否したことに対し、「一貫性がない(incoherente)」と強く批判した。
SNS「X」を通じてブケレは「昨日、あなた(マドゥロ大統領)は我々の囚人交換の提案を受け入れないと発言している。しかし、その拒否には一貫性がない」と主張している。さらに彼は、マドゥロが過去に自身の側近アレックス・サーブ(Alex Saab)との交換のために30人の政治犯を解放した前例を引き合いに出し、現在の1対1の交換提案を拒否するのは矛盾していると指摘した。
外交ルートで正式文書を送付
ブケレ政権はこの提案を正式にベネズエラ外務省に提出しており、その文書には、ベネズエラ人以外の50人の外国人拘束者の解放も含まれると記されている。その対象には、米国、ドイツ、ドミニカ共和国、アルゼンチン、ボリビア、イスラエル、チリ、コロンビア、エクアドル、スペイン、フランス、ガイアナ、オランダ、イラン、イタリア、レバノン、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、ウクライナ、ウルグアイ、ポルトガル、チェコなどの国籍が含まれている。
文書の中で、エルサルバドル外務省は「この提案が実行可能と判断された場合は、技術的な調整と安全な実施のための必要なチャネルを開く用意がある」とも明記している。ブケレが交換対象としてあげている政治犯には、以下の著名人が含まれている:
– ラファエル・トゥダレス(Rafael Tudares):ドムンド・ゴンサレス(Edmundo González)の娘婿
– ローランド・カレーニョ(Roland Carreño):ジャーナリスト
– ロシオ・サン・ミゲル(Rocío San Miguel):弁護士・人権活動家
– コリナ・パリスカ・デ・マチャド(Corina Parisca de Machado):マリア・コリナ・マチャド(María Corina Machado)の母、日常的に脅迫を受け、電気や水道などの基本的サービスが妨害されている
– アルゼンチン大使館に避難している野党政治家4名
– その他の政治犯多数
ブケレ大統領はさらに、マドゥロが以前に発言した「エルサルバドルに収容されているベネズエラ人を解放するためにあらゆる手段を講じる」という言葉に言及し、「あなた自身が『必要なことはなんでもする』と言ったではないのか? それはただのメディア向けの演出だったのか? ミラフローレス宮殿で家族を迎えたあの場面は、偽りの演出だったのか?」と問いかけ、また、「ベネズエラ国民、そして世界の皆さんは(…)これでマドゥロが本当はどんな人物なのかがはっきり分かったはずである」とも述べている。
米政府は、CECOTに送還されたベネズエラ人たちを犯罪組織「トレン・デ・アラグア」の一員と見なしている。しかしBloombergの最近の分析によれば、送還された200人以上のうち約90%は、米国内での前科を持っていない。
カトリック教会もこのような拘束の急増に対し、「エルサルバドルを国際刑務所にしてはならない」と警鐘を鳴らしている。また、米国の民主党議員たちがエルサルバドルを訪問し、キルマー・アブレゴ・ガルシア(Kilmar Ábrego García)や、ベネズエラ人美容師の安否確認を求める場面もあった。
米国政府関係者によると、エル・サルバドル人キルマール・アブレゴ・ガルシア(Kilmar Ábrego García)は「誤って」先月メリーランド州からサルバドールの巨大刑務所に送還されている。ホワイトハウスは、それでも米国に戻すことはないとする立場を堅持し、また、彼が米国に戻れば再び送還されると警告している。
アブレゴ・ガルシアはエルサルバドルで育ち、2011年、16歳の時にギャングからの脅迫を逃れてアメリカ合衆国へ不法入国した。2019年には、エルサルバドルに帰国すればギャングによる暴力の危険があることから、移民裁判所によって「強制送還の停止」資格が認められた。この資格により、彼は合法的にアメリカ国内で生活し、就労することが可能であった。2025年に国外退去させられた時点では、彼はアメリカ合衆国メリーランド州において、アメリカ市民である妻および子供たちとともに暮らしており、米国移民・関税執行局(U.S. Immigration and Customs Enforcement:ICE)との年次面談にも適切に応じていた。
ホワイトハウスの報道官カロライン・レヴィット(Karoline Leavitt)が述べるのは「彼は決して米国で生活することはない」と言うことであり、またガルシアがMS-13ギャングのメンバーであるという告発だ。これに対しアブレゴ・ガルシアの弁護士ベンハミン・オソリオ(Benjamín Osorio)や家族の弁護士であるクリス・ニューマン(Chris Newman)はそれを拒否し、また、被拘束者の「生存確認」を求めている。
レヴィットはまた米市民である彼の妻が彼に対して保護命令を提出した記録を引用し、29歳のアブレゴ・ガルシアが「女性の虐待者」であり家庭内暴力の加害者であるとし、非難している。これは国土安全保障省が公開したアブレゴ・ガルシアの妻が2021年に提出した接近禁止命令を背景とする。そこにはアブレゴ・ガルシアが妻を殴ったり引っかいたりシャツを引き裂いたりしたと述べられている。アブレゴ・ガルシアの妻であるジェニファー・ヴァスケス・スラ(Jennifer Vásquez Sura)は、ニュースウィークに対して水曜日に「予防のために命令を出した」と述べ、夫妻は問題を家族で解決し、治療も受けたと付け加えた。ジェニファー・ヴァスケス・スラもまたアブレゴ・ガルシアの帰還を要求している。
メリーランド州の判事パウラ・キニス(Paula Xinis)は、アブレゴ・ガルシアの送還が2019年の法的保護を侵害していたと判断し、米最高裁判所は下級裁判所の判断を部分的に確認し、トランプ政府に対してアブレゴ・ガルシアの解放を「促進」するよう命じている。これに対して政府関係者は、送還が「行政上の誤り」だったことを認めているが、ホワイトハウスは誤りがなかったと主張している。また、ジョセフ・マッザラ(Joseph Mazzara)国土安全保障省の代理顧問は、水曜日に裁判所に対し、「これ以上の更新はない」と報告した。
キニス判事は、アブレゴ・ガルシアを米国に戻すための取り組みについて毎日情報を提供するよう求めた。この判決に対して、ブケレは今週ホワイトハウスを訪問した際に、米国に戻す権限はないと述べている。BBCのベンハミン・オソリオ対する家庭内暴力の告発に対して彼は電子メールで「もし一人が法律を犯したとされるなら、政府はその法律を破っても良いのか?」と答えた。
メリーランド州の民主党上院議員、クリス・ヴァン・ホーレン(Chris Van Hollen)は、水曜日にサルバドールに赴き、アブレゴ・ガルシアと話すことを試みた。しかし取り合ったサルバドール副大統領フェリックス・ウジョア(Félix Ulloa)は刑務所への訪問はできないことを伝えた。サルバドールの首都サン・サルバドルで行われた記者会見で、ヴァン・ホーレンは、アブレゴ・ガルシアが「罪を犯したり有罪判決を受けたことがない一人の男」であり、米国から違法に誘拐されたとサルバドールに解放を求めた。ヴァン・ホーレンへの対応が冷たかったのは、サルバドール当局が、別日にバージニア州西部の共和党議員、ライリー・ムーア(Riley Moore)の刑務所訪問を許可した直後のことだった。ムーアは、満員の独房前で自撮りを公開し、「この訪問は、トランプ大統領の努力を支持する決意を強めた」と述べた。
3月15日に送還されたアブレゴ・ガルシアの事例は、移民問題を巡るトランプ大統領と司法当局の間で高まる対立の中で発生しており、別の事例では、政府が強制送還の飛行機を運航したことに対し、司法府が政府の不服従を宣言する可能性があると述べている。
現在、CECOTには米国から送還された数百人のベネズエラ人移民が収容されている。彼らの多くは罪状が明らかにされておらず、家族たちや人権団体が「不当な拘束」「人身取引に等しい」と非難している。
#NayibBukele #DonaldTrump #NicolásMaduro
参考資料:
1. Familiares de venezolanos deportados a El Salvador rechazan propuesta de canje de Bukele
2. Bukele califica de “incoherente” la negativa de Nicolás Maduro sobre intercambiar presos políticos por migrantes venezolanos
3. La Casa Blanca asegura que el salvadoreño deportado “por error” por el gobierno de Trump a la megacárcel de Bukele nunca volverá a vivir en EUA
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