(Photo:JOSE CRUZ/AGÊNCIA BRASIL)
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ(Luiz Inácio Lula da Silva)大統領は2月25日にプラナルト宮殿で開催されるイベント 「O SUS e a garantia do a accesso a saúde(SUSと健康へのアクセスの保証)」で、ラテンアメリカ初のインスリン原薬製造工場、鳥インフルエンザに対する国家ワクチンの開発、将来の健康緊急事態への迅速かつ効果的な対応の最前線にブラジルを置くこと、呼吸器合胞体ウイルス(Vírus Sincicial Respiratório:VSR)に対するワクチンなど、国民の新しい健康技術へのアクセスを保証するための基本的な3つの官民パートナーシッププロジェクトを発表した。これは連邦政府が掲げるワクチンや戦略的な健康投入に関連する研究や技術の進歩に伴う国家産業を強化と関連している。現在ブラジルは統一保健システム(Sistema Único de Saúde:SUS)のための新たな解決策を模索している。大統領はまた、「わが国における予防接種とブラジル国民の健康のためのもうひとつの重要な一歩」とも述べた。
Hoje de manhã estive com a ministra @nisia_trindade no evento de assinatura de portarias para investimentos nas vacinas contra dengue (Butantan), contra influenza H5N8 e contra o vírus sincicial respiratório (Butantan e Pfizer), além de investimentos em produção de insulina… pic.twitter.com/0Hgges2vcp
— Lula (@LulaOficial) February 25, 2025
デング熱に対する初の100%国産・単回投与ワクチンの大規模生産に関する合意により2026年から少なくとも6,000万人分の予防接種が保健ネットワークによって配布されることを政府は保証した。需要と生産能力に応じてその量を増やす可能性があり、その目的は、2026年から2027年にかけて、全国予防接種プログラム(Programa Nacional de Imunizações:PNI)の対象人口に対応することである。保健経済産業複合体を通じた保健省の調整のもと、このプロジェクトは、臨床研究の資金調達において国立経済社会開発銀行(Banco Nacional de Desenvolvimento Econômico e Social:BNDES)の支援を受け、2歳から59歳までの人口を対象とする登録申請の分析において国立保健監視局(Agência Nacional de Vigilância Sanitária:Anvisa)の支援を受けていた。
この薬剤は、ブラジルの基準研究所であるブタンタン研究所が、中国のWuXi Biologics社と提携して製造したもので、初期投資額は平均12.6億レアル(約2.21億ドル)である。同機関によると、このワクチンは4種類すべてのデング熱に対する有効性が証明された1回接種のワクチンである。ブタンタン研究所とウーシー・バイオロジクス社との提携によるデング熱ワクチンの場合、保健省の地域開発・革新プログラム( Programa de Desenvolvimento e Inovação Local:PDIL)を通じて製造が行われる。このプログラムは、ブラジルにおけるデング熱との闘いにおいて大きな前進を意味するものである。連邦政府が主導的な役割を果たすことで、100%国産デング熱ワクチンの生産・供給能力は50倍に増加する。
南米諸国では、近年猛威を振るっているデング熱の推定患者数が過去最高の665万人となり、死亡者数も過去最高の6022人となった。2025年現在、402,000人の患者が報告されているが、2024年の同時期より30%減少した。
昨年、ブラジル政府はデング熱の予防接種キャンペーンを推進し、日本の武田から出ているワクチンQDENGAを10歳から14歳までの子供330万人に接種した。2023年に武田から発表された情報によるとQDENGAはデングウイルス感染歴を問わず、またワクチン接種前の感染歴検査を必要としない、ブラジルで承認された唯一のデング熱ワクチンであ離、現地法人の社長José Manuel Caamañoは「ブラジルはデング熱の有病率が高く、医療制度や地域社会におけるデング熱の大きな負担の制御に役立つ有効かつ安全なワクチンの選択肢を必要としている。私たちは、ブラジル政府および医療従事者にワクチンを提供できることを誇りに思い、またこのワクチンが、媒介害虫である蚊の駆除と共に総合的なデング熱対策プログラムの一環として、デング熱と闘うための重要なツールになることを期待している。臨床試験結果によると、QDENGAは、入院を必要とするデング熱を含め、ブラジルにおける症候性デング熱の発症を有意に予防しうることが期待されており、世界の国々にQDENGAを届けることは、武田にとって最優先事項であり、今回の承認は、世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献するというタケダの目的に向かう一歩だ」と述べていた。
ルラ政権は、公共政策として世界で初めてデング熱ワクチンを提供したが、今回、新PACの支援により、より多くの人々にプログラムを拡大することが可能になる。新PACは、ブタンタン研究所をインフラ投資と健康経済産業複合体強化の主な受益者の1つとしている。この措置は、国民が新しい医療技術にアクセスできるようにするため、国営産業を強化することの重要性を示す実例である。また、対象年齢を拡大し、チクングニアワクチンとの同時投与を評価するための臨床試験にも6,800万レアルが充てられる。これらの措置は新産業ブラジル(Nova Indústria Brasil:NIB)戦略に沿ったものである。
保健省は、デング熱への取り組みにおいて、ワクチンは引き続き優先事項であると繰り返し述べている。しかし、集団予防接種が実施されるまでは、死亡を回避するために不可欠な予防とサーベイランスの強化、ケアネットワークの整備が基本であることに変わりはない。現政権は、ウォルバキア(Wolbachia)法や幼虫駆除剤散布ステーション(Estações Disseminadoras de Larvicidas:EDL)などの新しいデング熱予防技術の使用を拡大する責任を負っている。この病気と闘うために利用可能なすべての手段は、国内で最大限に活用されている。
インスリンの国産化:年間7000万ユニット
連邦政府はまた、保健省の生産性開発パートナーシップ・プログラム(Programa de Parcerias para o Desenvolvimento Produtivo:PDP)の一環として、インスリン製剤グラルギンの国産化を発表した。このプロジェクトでは、フィオクルス社(バイオ・マンギニョス社)による原薬の国産化と、インスリン・グラルギナの製造登録を受けたバイオム社による最終製品の製造拡大が行われる。
原薬製造はエウゼビオ(Fiocruz em Eusébio:CE)のフィオクルズ工場で行われ、健康経済産業複合体(Complexo Econômico-Industrial da Saúde:CEIS)を強化し、地域開発を促進する。これはラテンアメリカ初のインスリン原薬生産工場となり、ブラジルにSUSに供給するための完全な生産チェーンを提供する。
保健省、BNDES、研究およびプロジェクトの資金提供者(Financier of Studies and Projects:FINEP)を通じて、バイオムのインスリン生産量はプロジェクト終了までに年間7000万ユニットに達する可能性がある。このパートナーシップによるSUSへの最初の供給は、2025年後半に予定されている。
呼吸器合胞体ウイルス(VSR)ワクチン年間800万回分
保健省の生産性開発パートナーシップ・プログラム(PDP)は、ブラジルにおける呼吸器合胞体ウイルスワクチンの内製化も目指している。ブタンタン研究所とファイザー社との提携により、年間最大800万回分の生産が可能となり、SUSからの現在の需要を満たすとともに、対象者を高齢者層にまで拡大することができる。プロジェクトの総投資額は、2023年から2027年の間に12億6,000万レアルである。
RSV合併症による年間28,000人の入院が回避されると推定されている。SUSへの最初のワクチン供給は2025年後半に予定されている。保健省が採用した戦略には、生産者との価格交渉、未熟児への抗体投与、妊婦へのワクチン提供などが含まれる。
先週の木曜日(13日)、全国統一保健システム技術導入委員会(Comissão Nacional de Incorporação de Tecnologias no Sistema Único de Saúde:Conitec)は、赤ちゃんの重症呼吸器感染症の主な原因の一つである呼吸器合胞体ウイルスによる合併症を予防するために、2つの技術の導入を勧告した。
推奨される技術は、未熟児および合併症を持って生まれた2歳までの子供を守るために適応されるモノクローナル抗体ニルセビマブと、生後数ヶ月の赤ちゃんを守るために妊婦に投与される呼吸器シンシチアルウイルスAおよびBに対する組換えワクチンである。VSRに感染した小児の5人に1人が外来治療を必要とし、50人に1人が生後1年以内に入院すると推定されている。
H5N8(プレ)パンデミックインフルエンザワクチン3,000万回分
今回のパートナーシップの発表により、H5N8型インフルエンザワクチンの技術革新と入手が保証され、ブラジルは将来の緊急事態に迅速かつ効果的に対応するという点で、世界の最前線に立つことになる。戦略的備蓄の構成が保証され、国の生産と技術革新能力の準備と加速が強化され、病原体の進化に伴うワクチン処方の迅速な調整が可能になる。
上述の通り2024年同時期よりデング熱の感染者数の減少があるように見えるものの、油断はできない。事実ブラジル南東部サンパウロ当局は、デング熱の発生率が世界保健機関(WHO)の基準である人口10万人あたり300件を超えたことから、金曜日にデング熱の流行状態を宣言した。これは市町村による資源の収集と支援インフラの動員を促進することを目的とする。保健当局によると現在は人口10万人あたり303人のデング熱患者が発生しており、金曜日の時点で134,798人がデング熱に感染し、126人が死亡した。ほとんどの症例は州内陸部で報告されており、サンパウロ市では最も発生率が低く(人口10万人あたり52.5症例)、死亡者は1人、今年に入ってからは6,004症例が報告されている。
「デング熱をはじめとするアルボウイルス症例の増加に対応するためには、州や市町村との統合が不可欠である。連邦政府は、サンパウロの住民に迅速かつ適切なケアを提供するため、物資の配給、検査の拡大、SUS全国部隊の派遣、資格認定サービスに投資している」と保健省は報告した。
ブタンタン研究所は、元々ペストワクチン生産を目的に設立された生物学研究センターとして知られる。解毒血清の研究および生産や各種ワクチンを生産しており、現在では世界的に権威のある研究所の一つとなっている。両者はCOVID-19パンデミック中にも連携をしており、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発した新型コロナウイルスワクチン「コロナバック」の緊急使用をブラジルは承認し利用した。
参考資料:
1. Governo Federal anuncia primeira vacina 100% nacional e de dose única contra a dengue
2. Declaran situación de epidemia por dengue en São Paulo, Brasil
3. Brasil anuncia primera vacuna contra el dengue y otras afecciones
4. Governo anuncia vacina 100% nacional contra a dengue no SUS em 2026
5. QDENGA(4価弱毒生デング熱ワクチン)のブラジルにおける承認取得について
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