エクアドルのアフロ系住民の諸団体および民族集団は2024年12月10日、同国の国家統計・国勢調査機構(Instituto Nacional de Estadística y Censos de Ecuador:INEC)に対し、「統計的民族絶滅(etnocidio estadístico)」を犯したとして保護措置の申し立てを行っている。これは2022年に実施された最新の全国国勢調査における民族的自己認識(autoidentificación étnica)に関する設問とその集計結果に起因するものである。国勢調査はわずか4.8%の国民が自らをアフロ系と認識していなかったと発表している。
アフロ系住民は法的手段を通じて、INECが作成した国勢調査の結果が無効であると認めさせることを求めている。全国人口約1,700万人のうち、アフロ系エクアドル人(afroecuatoriano)コミュニティが推定約81万4千人に過ぎないという結果に対し、過小評価であると主張している。
この訴えを推進する指導者たちは、人権擁護地域財団(Fundación Regional de Asesoría en Derechos Humanos:Inredh)の支援を受けており、このデータは「重大な国勢調査上の省略」を引き起こし、アイデンティティの権利、平等および差別の禁止、そして民族としてのアフロ系エクアドル人の自己決定権など、複数の権利を侵害していると訴えている。
INECによれば、アフロエクアドル系住民は推定81万4,000人でありその人口は2010年から2022年の間に227,091人減少した。合わせて総人口に占める割合もまた7.2%から4.8%にまで下がった。これは、メスティソ(77.5%)、先住民(7.7%)、モントゥビオ(7.7%)を下回る数字である。
「この国勢調査は民族集団としての私たちを消し去った」と語るのは、全国黒人女性組織協議会(Coordinadora Nacional de Organizaciones de Mujeres Negras:Conamune)のメンバー、イルマ・バウティスタ(Irma Bautista)である。
「私たちは認知されることを求めている。2022年の国勢調査結果を認めるのではなく、2010年の結果を有効とし、新たな国勢調査など、私たちが受けた被害を償う措置が必要である」と彼女は説明している。
一方で、アフロ系エクアドル人社会文化開発財団アスカル(Fundación de Desarrollo Social y Cultural Afroecuatoriana Azúcar)」のディレクターであるソニア・ビベロス(Sonia Viveros)は、INECの所長およびエクアドル国家に対し、引き起こされた損害を認めるよう求めた。「この違憲訴訟は、私たちは最後まで闘うつもりだ。国際的な場まで持っていく覚悟もある」と彼女は警告した。
公共政策への影響
この国勢調査による最も深刻な影響の一つとして、アフロ系エクアドル人団体は、自らのコミュニティに対する公共政策の構築においても差別を受けていると主張している。「今日まで行ってきた公共政策が、アフロ系住人の発展を後回しするという劣悪なものだったと我々はエクアドル国家に対して訴えている」と語るのは、全国アフロ系エクアドル人連盟(Confederación Nacional Afroecuatoriana:CNA)メンバーであり弁護士のアロディア・ボルハ・ナサレノ(Alodia Borja Nazareno)である。同氏はまた、「アフロ系エクアドル人の発展のための公的機関が国家には存在しておらず、現実的でもない」と述べている。さらに、「アフロ系エクアドルとしての民族の権利は軽視されており、国家機関は民族絶滅および抹殺のプロセスを生み出している」と深刻な批判を展開した。
「致命的な誤り」
アフロ系団体が指摘するもう一つの「致命的な誤り」は、エクアドルの諸民族・国民発展管理庁(Gestión y Desarrollo de Pueblos y Nacionalidades de Ecuador)の書記官であるマルコ・グアテマル(Marco Guatemal)による発言である。彼はスイス・ジュネーブで開催された「人種差別撤廃条約(Convención para la Eliminación de la Discriminación Racial:CERD)」で、「多くのアフロ系エクアドル人はもはや自分をアフロ系とは感じておらず、白人やメスティソとして認識している」と述べた。
この発言に対し、ボルハ・ナサレノは「エクアドル国家が我々を国家の一部として認めていない証拠だ」と反論している。「このプロセスは今日始まったばかりであり、終了の日付は決まっていない。我々にとって利益となるプロセスが実現されたその日が、終わりとなるだろう」とも語った。
一方、ビベロスもまた「諸民族・国民庁および民族諮問評議会は、なぜ我々の市民権を否定するのか説明すべきだ」と強調している。この取り組みに参加している市民団体は、アフロ系エクアドル人人民連合(Unión del Pueblo Afroecuatoriano:UPA)、エスメラルダス北部エクアドル自治区(Comarca Ecuatoriana del Norte de Esmeraldas:CANE)、アスカル、全国黒人女性組織協議会、全国アフロ系エクアドル人連盟であり、上述の通り人権擁護地域財団の支援を受けている。
人種差別撤廃委員会の反応
この告発を受けて、人種差別撤廃委員会は、エクアドル国家政府が考慮すべき観察事項および勧告を共有している。CERDは先住民、アフロ系、モントゥビオなど歴史的に周縁化された集団に対する自己識別調査の制度的・技術的・方法論的欠陥を指摘し、また、2022年国勢調査においてこれらの集団が適切に反映されていないと懸念している 。人口統計における一貫性と公正性にも重大な疑問を投げかけている 。
CERDによる対応勧告とは以下のようなものである :
- 政策課題:調査方法の公平性(特定の集団が正式調査から排除されている可能性に基づく)
推奨措置:調査設計への関与・調整、周縁化されている集団の所感やニーズを反映し、包括的で信頼できるデータ収集を実現すること。また、先住民、アフロ系、モントゥビオの代表組織や市民社会と協議し、自認に関するカテゴリや調査手法を見直すこと。 - 政策課題:データの矛盾(アフロ系人口の大幅な減少が人口統計と整合していない)
推奨措置:自認分類の見直し・改善 - 政策課題:公共政策への影響(不正確なデータに基づく政策対応がなされる可能性)
推奨措置:正確で反映力のある統計の確保
1月24日午前10時に始まったINECに対する保護措置訴訟の第2回目の公聴会は、5時間にわたって行われた。原告らは、2022年の国勢調査の結果において「統計的民族絶滅」が行われたと訴えている。この公聴会は、女性および家庭に対する暴力を扱う第1司法ユニットで再開され、エディソン・キシュペ(Edison Quishpe)判事の主導により開会の挨拶から始まった。このセッションでは、INEC側による証拠提出、ならびに原告および提訴者側の反論が行われた。
証拠提出の段階において、INEC全国局長のロベルト・カスティジョ(Roberto Castillo)は、2022年国勢調査の運営を弁護し、計画から結果の公表に至るすべての段階において透明性をもって実施されたと主張した。カスティジョは、それぞれの段階の実施を裏付けるとされる文書も提出している。
しかしながら、原告である諸団体はこの主張に異議を唱え、INECの提出した文書は、国勢調査の過程においてアフロ系エクアドル人の権利が保障されたことを示していないと主張した。彼らにとって、アフロ系住民の包摂や諮問の欠如は重大な義務違反であり、単なる技術的手順の提示では正当化できない。
公聴会には、2022年の国勢調査に関与した国家機関も出席しており、大統領府、経済・財政省、国家計画事務局が含まれていた。これらの機関は、国勢調査は国家計画のための道具として用いるべきではないと主張し、自らを本憲法訴訟の対象から除外するよう判事に要請した。彼らは、いかなる憲法上の権利も侵害されていないと主張した。
一方で、国家法務庁(Procuraduría General del Estado)は、いかなる権利の侵害も存在せず、証明されてもいないとの見解を維持し続けた。また、民族・国民の平等のための国家評議会(Consejo Nacional para la Igualdad de Pueblos y Nacionalidades)も、保護措置の訴えは不適切であり無効とされるべきだと主張した。
その後、反論の段階において、弁護士のディアナ・サロメ・レオン(Diana Salomé León)とエロディア・ボルハ(Elodia Borja)は、「国勢調査の脱漏(omisión censal)」が、アイデンティティの権利、平等の権利、教育へのアクセス、差別からの保護といった基本的権利を侵害していると述べた。彼女たちは、この脱漏がアフロ系エクアドル人の自決権に直接的な影響を及ぼしていると強調し、判事に対し保護措置を承認し、アフロ系住民の正当な権利を認めるよう要請している。この発言の中で、Inredhの弁護士であるディアナ・レオンは、アフロ系の人々に有利な保護措置を認める必要性を判事に訴えた。レオンはまた、INEC側の弁護士が提出されたすべての証拠に適切に注意を払っていないように見受けられると指摘している。「これが差別でなく、これが人権侵害でないというのであれば、一体何がそれにあたるのか」と彼女は述べた。また、レオンは、32万5千人以上の人々が国勢調査から除外されたことを指摘し、これを「統計的民族絶滅」と断言した。
レオンは、この件について、行政訴訟に訴えることは不可能であり、除外された人口を含めるには不適切であると強調した。彼女は、これは自決の結果ではなく、調査計画段階から結果公表までの一連の組織的行為の結果であると述べた。「統計的民族絶滅が行われた」と彼女は繰り返し、960ページの先行文書および360ページの追加文書を含む1,000ページ超の資料を提出したと説明した。レオンはまた、INECが提供した情報は繰り返しに終始し、適切に社会的共有が行われず、アフロ系住民の積極的な参加が否定されたと主張した。
これに加えて、国家の多民族性の承認に関する議論が行われた。レオンによれば、INECは公聴会中に提出した文書により、エクアドルが多民族・多文化国家であることを否定したことになると述べた。「これが差別でない、権利の侵害でないというのであれば、この国家は500年以上にわたるアフロ系の人々の歴史的存在を認識できていないということになる」と彼女は語った。
最終的に、公聴会の終了にあたり、エディソン・キシュペ判事は、すべての当事者の反論を聴取した後、公聴会の終了を宣言した。彼は、憲法的権利および司法的保障に関する有機法第12条に基づき、判決が出される前に提出されたすべてのアミクス・キュリエ(意見書)を考慮に入れることを説明した。さらに、提出された証拠が膨大であることから、それらを適切に評価するために新たな期日を設定して審議を再開する予定であると述べている。
なお、アフロ系フェミニストであり反人種差別の活動家であるフアナ・フランシス・ボネ(Juana Francis Bone)はこのような制度的危機は、黒人、アフロ系、シマロン(逃亡奴隷の子孫)コミュニティにとって目新しいものではない。この国では構造的な人種差別が引き続き多様な形で現れ、国家の諸制度を通じて道具化されている。そしてもっとも直近に起きたのがこの「統計的民族浄化」である。ボネはこれらの団体が提起した保護措置は、国勢調査の誤りを正すだけでなく、エクアドルにおける構造的な人種差別との闘いにおける先例となることを目指すものだと説明している。訴えは、国家がこれまでに犯した人権侵害を認め、アフロ系住民に対する平等と正義を推進する公共政策の実施を保証することを要求している。この法的措置は、アフロ系住民の尊厳、権利、そしてエクアドルの歴史における地位を守ろうとするレジスタンスと闘争の証しとして立ち上がったものである。
参考資料:
1. El pueblo afro de Ecuador acusa al Estado de un «etnocidio estadístico» en el último censo
2. Reinstalación de la Audiencia por el etnocidio estadístico de la población Afroecuatoriana
3. Etnocidio estadístico: el reflejo del racismo estructural en Ecuador
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