アルゼンチン:貧困と困窮の急増もミレイ政権にとっては他人事

(Photo: @JMilei / X)

インデック(Indec)が木曜日に発表したところによるとアルゼンチンにおける貧困と困窮の状態が極端に悪化している。去年の同時期に発表された貧困率は40.1%で、今では52.9%となっている。これは、貧困にあえぐ人々の数が30%増加したことを意味する。一方、2023年上半期に9.3%だった人々の貧困状態は18.1%へと上昇した。2024年のアルゼンチンでは、人口の20%近くがまともな食事をするための十分なお金すら持ってない。この国における貧困層は非貧困層よりも多くなっていて、貧困率は人口の41.7%、困窮率は11.9%という状態だ。

 

アルゼンチン労働者中央会(Central de Trabajadores de la Argentina:CTA)がインデックから発表された数値をベースに推計した内容によると、全国レベルで貧困状態にあるのは2,480万人で、2024年上半期に比べて500万人以上増加した。一方、極度の貧困状態にあるのは680万人で、前の6ヵ月間に比べて280万人増えている。

年齢別で見ると、子どもたちにとって暗い状況がうかがえる。貧困は子どもと青少年(niños y adolescentes:NNyA)の66%に影響を及ぼしている。これは全国的な傾向と言える。この年齢層の貧困率は2019年から2023年は約52~58パーセントで、困窮に限って言えば子どもと青年の割合は27%であった。興味深い事実は、貧困が増えただけでなく、平均して貧困層が以前より貧しくなっているということだ。これは、貧困ギャップ(貧困ラインに対する貧困世帯の平均収入の差)に現れている。これは、大統領であるハビエル・ミレイ(Javier Milei)とアルゼンチン経済相ルイス・カプト(Luis Caputo)によるメガ・ディスカバリーの後に訪れた夏の食糧インフレのフラッシュと密接に関連している。

地理的に見ると、ブエノスアイレス州の全部または一部に位置する6つの都市集積地の貧困率は、2023年下半期の44.9%から2024年上半期には58.7%へと13.3ポイント上昇し、一方、その他の地域に位置する集積地の平均では38.3%から47.4%へと9ポイント上昇した。

2023年下半期の貧困率は、ブエノスアイレスの都市集積地で6.5ポイント高かったが、2024年上半期には、その差は10.8ポイントに拡大した。これは同州、特にコヌルバノ(2学期の間に貧困率が14.2ポイント上昇し、59.7%に達した)が、以下の経済政策の影響を特に受けていることを示している。

CTAの分析機関のエコノミストであるマリアナ・ゴンサレス(Mariana González)は、「貧困と困窮の増加はとてつもなく大きいが、ここ数ヶ月で明らかになった指標によれば、特に公共部門、年金、社会制度、特に『労働力向上計画(Plan Potenciar Trabajo)』における賃金の低下から予測可能なものである」と説明する。

今年2月28日サンドラ・ペトベロ(Sandra Pettovello)大臣が率いる人的資本省は、「労働力向上計画(Plan Potenciar Trabajo)」を再定義し、2つの専門プログラム(「職場復帰プログラム(Programa Volver al Trabajo)」と「社会的同行プログラム(Programa de Acompañamiento Social)」)の分割を発表しており、18歳から49歳までの人々を対象とし、これらの人々を正規の労働市場に参加させるために、職業スキルを強化し、雇用可能性を向上させるとした。当初発表されていた内容によると、旧計画から受益していた者の約75%が包括的なアプローチを通じ求職、労働仲介サービス、訓練、技能認定、生産的企業の促進における指導と支援の新プログラムに移行する。一方、「社会的支援プログラム」は、50歳代以上と4人以上の子供を持つ母親に焦点を当てており、緊急の支援を提供するだけでなく、能力開発と家族強化のための同行を通じて、これらの人々を力づけることを目指すはずだった。

貧困におけるインフレの役割に関してゴンサレスは、重要なのはインフレそのものではなく、実質ベースの所得の増加であると説明し「夏のピーク時に比べて相対的インフレ率が低下していることを支えている政策は、恒久的なものだとは言えない。この状況は、高インフレが社会情勢悪化の直接の原因であった前政権末期の状況とは異なる」と説明した。

アルゼンチン経済政策センター(Centro de Economía Política Argentina:CEPA)のエルナン・レッチャ(Hernán Letcher)は、「これがミレイ・モデルの最も顕著な事実だ。ミレイの政策は、能動的・受動的労働者から資本の集中部門に所得を移転させるメカニズムを促進するものの、高所得部門を優遇するために低所得部門から所得を取り上げるという再発的な衝動によって、明らかに逆進的な論理を生み出している」と指摘する。

「貧困が11ポイント増加したことは、経済的・社会的成果という点で、政府の失敗を示すものである。貧困の数値は、アルゼンチンが経験している社会的、生産的な緊急性を示しているが、一方で政府はウォール街で威張り散らしている。この残酷さには理論的な裏付けがある」と協力文化センター(Centro Cultural de la Cooperación)のエコノミスト、マルティン・ブルゴス(Martín Burgos)は言う。ブルゴスによると大統領自身もその言説を繰り返しているように「誰も飢えておらず、人々はやりくりしており、すべてはミクロ経済学のマニュアル風に選択の問題で解決されている」と大統領は認識をしている。

「最悪なのは、正統派、異端派を問わず、多くの経済学者が、このモデルは外貨を生み出さないし、外貨準備もない、ドルロンダリングで増えたドル預金も使えない、遅かれ早かれ切り下げに行き着き、社会的パノラマをさらに悪化させると考えていることだ。切り下げれば危機的状況に陥るが、切り下げなくても危機的状況に陥る。インフレ率が上がらなくても貧困は増えるてしまうのだ」とブルゴスは続けた。

大統領はこのようなインデックの分析結果に対し何の説明することなく、再びソーシャルネットワークXに避難し、貧困の激増を「湿気のある建物」に例えた珍しい寓話を投稿した。「見事な寓話だ 」とコメントした大統領はこの比較について「今は『崩壊の進行を逆行させる』ことに成功しており、『来るべき(住民の)ために新しいフロアの建設をサポートする』ことさえできる」と述べている。

報道官であるマヌエル・アドルニ(Manuel Adorni)は、「もしミレイが選挙に勝たなければ、貧困率は95%になっていただろう」、「貧困と戦う最善の方法はインフレと戦うことだ」と、まったく意味のわからないことを言い放ち、また、「現実から切り離されていない人がいるとすれば、それは大統領だ」と述べている。アドルニは、「昨日の報告書、その収録時間、そして行われた視察は、少し前に計画されたものである」と正当化し、「私たちは何かを伝えようとしたわけではない」と主張した。報道官は、最新の世論調査で数ポイント下がっている大統領のイメージに、この2つのことが影響している可能性を否定し、「我々は、自分たちがどこへ向かっているのか、どのような結果を望んでいるのか、そしてどのような結果を得ようとしているのか、完全に理解している」と締めくくった。

 

ギジェルモ・フランコス(Guillermo Francos)内閣官房長官はTNのインタビューで、貧困に関するインデックの数字が「憂慮すべきもの」であることを認めた。しかし、彼は即座に珍しい返答を繰り返した。「しかし、第1四半期と第2四半期を比較すると、貧困は減少している」。「インフレ率が下がれば、貧困も減少するのは明らかであるため、この路線は続くと確信している」と付け加えた。しかし現実はそうではない。

野党側からは、議員やウニオン・ポル・ラ・パトリア(Unión por la Patria:UP)とウニオン・シヴィカ・ラジカル(Unión Cívica Radical:UCR)のリーダーもソーシャルネットワークを利用して、貧困の増加に対する政府への強い批判を表明している。

中間層、労働者、年金受給者、最も弱い立場にある人々に対して実施された調整政策の最も痛ましい結果であると述べるUPのブランカ・オスナ(Blanca Osuna)副議長にとって、「これほど残酷で非人道的な所得移転はかつてなかった」。副議長は、「インデックが国内の貧困率52.9%と報告する一方で、政府庁舎はふざけたムードに包まれている。アルゼンチン国民の苦しみをあざ笑う大統領と内閣の残酷さ。これらはすべてミレイが起こしたものである」と述べており、カステリ市のフランシスコ・エチャレン(Francisco Echarren)市長は、「52%の貧困、70%の子どもの貧困、100%の冷笑。彼らは国をボールに変えた。そして、彼らは祝う」と述べている。「貧困率53%、貧困率18%。ここしばらくの間、アルゼンチンのような国にとって受け入れがたいレベルの貧困と困窮が続いている。ミレイから悪化が始まったわけではないのは事実だが、20年間もこのような状態が続いているのは事実ではない。2017年以来、貧困と困窮は右肩上がりだったが、12月以降、ミレイがした唯一のことは、それを加速させたことだ」とパトリア・グランデ(Patria Grande)議員のイタイ・ハグマン(Itai Hagman)は述べ、さらに「彼は6ヶ月間で500万人の貧困者と300万人の困窮者を新たに生み出した。これは偶然ではなく、12月の残酷な切り下げ、退職者の削減、公共事業の全面停止、失業の増加、賃金の全般的な下落が予想された結果である」とした。彼の同僚であるナタリア・ザラチョ(Natalia Zaracho)は、「53%が貧困で、18%が困窮している。(・・・)カーストに反対していた政府は、富裕層に特権を与え、国民を飢えさせ続けている。飢餓は犯罪である」。CGT三役であるエクトル・ダエル(Héctor Daer)はインデックが発表した貧困の数字は「日々購買力が低下しているアルゼンチン人の現実を反映している」と述べている。

「マクリが求めたように、ミレイは同じ方向へ、より速く、より強く進んでいる。そして彼はすでに過去20年間で最高の貧困を引き起こしている」と、UPのエドゥアルド ・ワド・デ・ペドロ(Eduardo “Wado” de Pedro)上院議員は投稿した。セシリア・モロ(Cecilia Moreau)は、木曜日に発表された貧困のデータは、この政府の責任であるとし、「中間層、労働者、退職者、最も弱い立場の人々に実施された調整政策の最も痛ましい結果である」と述べている。

上院議員でUCRの代表であるマルティン・ルスト(Martín Lousteau)は、ハビエル・ミレイの財政均衡の目標は、社会均衡を伴うものでなければならない、「社会は、指導者たちに言い訳を減らし、解決策を求める」と述べている。また、UCRのファクンド・マネス(Facundo Manes)議員は「貧しいアルゼンチン、抵当に入れられた未来。アルゼンチンにおける貧困は、資源の不足だけでなく、希望を奪い、精神を押しつぶす認知税なのだ」、「私たちは、成長だけでは機会のトリクルダウンを期待することはできない。人材に投資する時だ。何百万人もの人々を苦しめている連鎖を断ち切る時だ。国民を忘れた国は、未来を忘れる。貧困との闘いは、アルゼンチンの魂のための闘いなのだ」と語った。

 

現実を受け止めず、その事実を否定し、偽りを再生産し、国民を苦しめる。このような構造はアルゼンチンのみならず世界中至る所で見られる状況といえる。

今年4月時点のインフレ率に関する記事はこちらから。

 

参考資料:

1. Fuerte salto de la pobreza y la indigencia
2. Cambios en el Plan Potenciar Trabajo: los beneficiarios se distribuirán en dos nuevos programas
3. El gobierno recibe las críticas pero no se considera responsable

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