米国の大手議決権行使助言サービス会社グラス・ルイス(Glass Lewis)は5月2日、英石油大手シェル(Shell)の株主に対し、気候変動対策強化を求める決議案に反対票を投じるよう勧告した。
この決議案は27の投資家が、オランダの物言う株主のフォロー・ディス(Follow This)に提出したもので、石油会社に対し中期的な排出削減目標を2015年のパリ協定に合わせるよう求めるもの。5月23日に開催される1,600億ポンドの年次総会で、この決議案に対する投票が行われる。フォロー・ディスの創設者であるマーク・ヴァン・バール(Mark van Baal)が今年一月に明かしたことによると、この提案はシェルの株式の約5%を所有している英国最大の年金機構ナショナル・エンプロイメント・セービング・トラスト(National Employment Savings Trust:Nest)からの支持も得ている。同機構は英国の労働者のほぼ4分の1の年金を管理している。ネストの責任投資責任者であるディアンドラ・スービア(Diandra Soobiah)は 「我々はシェルに対し、信頼できるスコープ3の絶対排出量目標を設定するよう求める。そうすることで、シェルはリーダーシップを発揮し、事業の転換に真剣に取り組んでいることを示し、現実の世界に変化をもたらす役割を果たすことができる」と述べた。スコープ3ではサプライチェーンの「上流」と「下流」から排出される温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)をも対象としている。換言すれば生産に伴うGHG排出のみならず最終財利用においても排出されるGHGを自社分として算定することを求めている。フォロー・ディスらはシェルに対し、中期的な炭素排出削減目標をパリ協定に合わせるよう求めている。
この決議案は約170億ポンドの資産を保有するフランスの資産運用会社アムンディ(Amundi)や、キャンドリアム(Candriam)、スコティッシュ・ウィドウズ(Scottish Widows)、ラスボーンズ・グループ(Rathbones Group)からの支持を得ている。フォロー・ディスは今年の1月時点、年次総会までの数ヶ月の間に支持が拡大する見込みと述べていた。
木曜日に送られた書簡の中で、最新の決議案に賛同した27の投資家は、他の投資家にも決議案を支持するよう求めた。そこで彼らは「票を増やさなければ、シェルはこの重要な10年間に排出量を削減することはできない」と述べている。
Shell (SHEL.L), opens new tab shareholders should vote against a resolution filed by a group of 27 investors urging the energy company to set tighter climate targets, proxy advisory Glass Lewis recommended on Thursday. https://t.co/VDWoq4clI1 pic.twitter.com/yCJYU9aqZO
— Think Energy Media (@thinkenergym) May 3, 2024
シェルは自分を守ることに必死だ。先月2日にも2021年のオランダ裁判所の判決には法的根拠がなく、気候変動との闘いを妨害する危険があるとし控訴した。
この訴訟はオランダ地球の友(Friends of the Earth Netherlands:Milieudefensie)によって起こされたものである。シェルはその規模と世界的な存在感によって世界中の政府の政策に影響を与え、石油とガスの需要の最も重要な原動力の一つであると地球の友は述べていた。オランダの下級裁判所は地球の友の訴えに対し、2030年までに地球温暖化につながる炭素排出量を45%削減(2019年比)をするようシェルに命じた。シェルはこの判決に不服従を示している。世界の足並みを見出し、自らの都合の良い理論を用いて正当化しようとするこの企業に対し、裁判所はシェル自身の排出量だけでなく、世界中のシェル製品の購入者や使用者によって排出されるGHG量についても言及している。
地球の友のロジャー・コックス(Roger Cox)弁護士は「石油とガスの需要は、真空地帯に存在するわけではない」と述べ「石油・ガスの需要は、シェルとその同業者によって、豊富な供給によって支えられている」とした。コックス弁護士によれば、2021年の判決に抗議した政府はなく、また、エネルギー企業が自ら設定した気候変動目標が世界のエネルギー供給を脅かすものだと言った者はいない。
シェルは、この判決に従えば事業縮小を余儀なくされ、顧客離れを促す一方、他の燃料供給会社に消費者はシフトするだけで全く意味がないと述べていた。シェルの弁護士ダーン・ルンシン・ショイラー(Daan Lunsingh Scheurleer)は、この命令に対するシェルの控訴審の初日、ハーグの裁判所に「この件には法的根拠がない」と語り、「これは、シェルがエネルギー転換において果たすことのできる役割、また果たしたい役割を妨害するものだ」と主張した。シェルの弁護団によると気候政策や目標を設定するのは各国政府であり、裁判所にはその権限がない。
ルンシン・ショイラーはまた、ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機は、政府が液化天然ガスの輸入を増やすために奔走し、エネルギー価格の高騰を家計に補填するために何十億ドルも費やしたことから、化石燃料の重要性が示されたと述べた。「石油とガスは、エネルギー転換期において、供給の安定と価格の安定の両面で重要な役割を果たすだろう」と彼は付け加えた。シェルの弁護士は、非化石燃料の開発への投資やパリ協定への支持を強調するものの、同社製品の総排出量を45%削減するという一般的な命令は行き過ぎであり、より広範な実施はオランダ経済を麻痺させると述べていた。その一方自社の排出量削減目標は裁判所の命令よりも進んでいると述べている。
フォロー・ディスの決議案に対しグラスルイスやシェルの取締役会はこの決議案に反対票を投じるよう促している。グラスルイスは温室効果ガス排出削減目標の設定とその実行は「現時点でこの提案を採択することが、会社や株主の利益になるとは考えていない」。また、「(シェルが)同業他社に大きく遅れをとっていると信じるに足る十分な証拠がない」からだ。
フォロー・ディスは近年、気候変動キャンペーンで支持を得ている。しかし決議案で賛成票を獲得したことはまだない。昨年シェルの株主総会で行われた同様の決議は19.3%の投資家の支持を得ている。
なお、シェルは今年3月、旺盛なガス需要への期待とエネルギー転換の不確実性を理由に、2030年の炭素削減目標を弱め、2035年の目標を廃止し、2050年までに排出量を正味ゼロにするという計画に固執している。
参考資料:
1. Shell says landmark emissions ruling won’t help climate goals
2. Shell investors should oppose climate resolution, Glass Lewis says
3. Shell faces shareholder rebellion over climate activist resolution
4. Follow This Shell Resolution 2023 | sources
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