エクアドル：ホルヘ・グラスの逮捕でメキシコはエクアドルと国交断絶

エクアドル警察は金曜日、キトのメキシコ大使館に避難していたホルヘ・グラス（Jorge Glas）前副大統領の逮捕を目的に同建物を急襲した。メキシコはこの逮捕を自国の主権に対する「侵害」であるとし、ラテンアメリカにおける2国間の緊張が緊張が頂点に達した。そしてこのような過去に例を見ない出来事を受け、メキシコはエクアドルとの国交を断絶した。

元副大統領だったホルヘ・グラスは、2つの事件で収賄罪で有罪判決を受けていた。彼はさらなる横領容疑に直面した後、キトにあるメキシコ大使館に逃亡していた。キト北部にあるメキシコ大使館は、グラスの逃亡を防ぐために警察の警備下にあったが、エクアドル警察は今回の行動について逮捕状に基付くものだと説明している。

 

メキシコとエクアドルは数日間緊張が高まっていた。両国の対立は、メキシコのメキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル（Andrés Manuel López Obrador：AMLO）大統領が2023年8月の第1回選挙の数日前に発生した大統領候補フェルナンド・ビジャビセンシオ（Fernando Villavicencio）の暗殺が10月の選挙の投票動向に影響を与えたと主張したことから始まった。エクアドルの選挙では「進歩勢力の候補者が10ポイントほど優勢だった」「そのとき、優勢だった候補者の悪口を言う候補者が殺害され、優勢だった候補者が倒れ、2位だった候補者が躍進した」とメキシコ大統領が述べたのである。ここで彼が優勢だった候補者として意味しているのはラファエル・コレア（Rafael Correa）前大統領（2007～2017年）の政党「市民革命運動（Movimiento Revolución Ciudadana）」のルイサ・ゴンサレス（Luisa González）のことである。「この暗殺事件の後、彼女は（暗殺事件の）容疑者のままであり、非常に困難な状況の中で選挙運動を続けていた」と付け加えた。ゴンサレスは、グラスが同政治組織の大統領候補となることを辞退したことから、市民革命党の候補となった人物である。木曜日、エクアドルはメキシコ大統領によるビジャビセンシオ暗殺事件についてコメントしたことを批判し、メキシコ大使を「ペルソナ・ノン・グラタ（persona non grata/歓迎されない人物）」と宣言した。この発言に対しメキシコは、大使にメキシコに戻るよう指示したと発表した。

殺害された大統領候補の娘の一人、アマンダ・ビジャビセンシオ（Amanda Villavicencio）は、自身のXアカウント（旧ツイッター）でAMLOの発言に対し憤慨し反応した。「私の父のことを話す前に、ロペス・オブラドルの口を洗いなさい。フェルナンド・ビジャビセンシオは、彼がいつも捜査していたギャングに殺された。彼らの何人かは、あなたの大使館や国に亡命している」と述べた。

 

元外交官でエコテック工科大学教授のカルロス・エスタレジャス（Carlos Estarellas）は、エクアドルの決定は「主権を尊重」し、他国の内政に干渉しないという基本原則があるため、「正しい」と述べた。

 

前回選挙に関する話題以外にも明らかに両国の緊張が高まるテーマが他にもあった。それが前副大統領の亡命問題である。これは数ヶ月前から両国間の対立点となっていた。エクアドル外務省は3月、メキシコ公使館に対し警察の立ち入りとグラス逮捕の許可を求めていた。しかしメキシコのアリシア・バルセナ（Alicia Bárcena）外相がこの介入を拒否していた。それどころかメキシコはグラスに政治亡命を承認した。大使館付近ではグラスの逃亡を防ぐべくエクアドル当局の存在が大きくなっていた。メキシコ政府はこれについても避難をしていた。

エクアドル大統領府は声明で、メキシコが「前副大統領を収容した外交使節団に与えられた免責と特権を乱用し、従来の法的枠組みに反して外交亡命を許可した」と非難している。一方のロペス・オブラドル大統領は、メキシコのアリシア・バルセナ外相にエクアドルとの外交関係を停止するよう指示したと述べ、逮捕は「権威主義的」行為であり、国際法とメキシコの主権を侵害するものだと非難した。バルセナ外相はその直後、南米エクアドルとの「即時」外交関係停止を発表し、その後、大使館員はメキシコに戻ると付け加えた。

エクアドルのガブリエラ・ソマフェルド（Gabriela Sommerfeld）外務大臣は記者団に対し、エクアドルは「メキシコ国家が彼に政治亡命を許可する理由はない、という立場を堅持する」と述べ、彼が一般犯罪で判決を受けた人物であることを強調し、逮捕の正当性を訴えた。

声明の中で、国際条約についても触れている。その枠内においてグラスに対し「セーフ・コンダクト（安全な退去）は適用されないし、いかなるセーフ・コンダクトも与えない」と明言している。1954年のカラカス条約では政治亡命希望者に対する政治的庇護が規定されているが汚職で告発されたエクアドルの元大臣マリア・デ・ロス・アンヘレス・ドゥアルテ（María de los Ángeles Duarte）がアルゼンチン大使館に逃げ込んだ後、亡命するさいにもこれは適用されなかった。ドゥアルテもまたラファエル・コレア率いていたアリアンサ・パイス党（partido Alianza País）に対する企業への「不規則な」経済献金「賄賂2012-2016」で、贈収賄の罪で有罪判決を受け逃げていた。

 

 

両国が加盟している1954年の外交亡命条約と1933年の政治亡命条約によれば、メキシコは「ホルヘ・グラスを司法の法廷に引き出せるよう引き渡す義務がある」とエクアドル外務省は主張している。さらに、賄賂、公金横領、不正な結社の罪で、全国裁判所が発行したグラスの有罪判決と逮捕状を同国にも送っている一方での、メキシコによる亡命の許可は、司法逃れを支援し、不処罰を助長する「許可する国家による違法行為にあたる」と指摘している。

エクアドル外務省からの声明の数時間前、メキシコ外務省はコミュニケの中で、12月中旬から外交本部に滞在していたグラス大使に亡命を許可したメキシコの決定を「尊重しなければならない」と主張していた。

なおメキシコはこれまでにも、汚職で告発されたラテンアメリカ諸国の元政府高官を政治亡命させ、地域内に摩擦を生んできた。2019年にはボリビアの前大統領エボ・モラレス（Evo Morales）に、2022年にはペルーの前大統領ペドロ・カスティジョ（Pedro Castillo）の家族に亡命を許可している。

 

両国間の外交的緊張について、メキシコ外務省はセルル・スメケ（Raquel Serur Smeke ）大使の追放を「不釣り合い」とみなしている。エクアドルのガブリエラ・ソマフェルド外相によれば、同大使は72時間以内に出国しなければならないとしている。ロペス・オブラドルは、エクアドルとの「関係を断ち切るつもりはない」と主張し、空軍に「大使を連れ戻す」よう指示を出したと述べている。この件について質問されたエクアドルのゾンマフェルド外相は、「我々はまだ要請を受けておらず、処理中だ」と答えた。

 

サンフランシスコ大学の教授で国際アナリストのダニエル・クレスポ（Daniel Crespo）はAP通信に、メキシコ大使の追放は「内政干渉への不満を示すもので、外交関係を悪化させる」と述べ、メキシコが「外交的互恵関係から」同じことをする可能性が高いと警告した。また、「日常生活や商業活動には影響はない」としながらも、政治的な会話、例えばメキシコを経由してアメリカへ向かうエクアドル人の不定期移民については、「確実に中断されるだろう」と付け加えた。

グラスの国際弁護士であるソニア・ヴェラ（Sonia Vera）は電話で、彼のチームは米州人権委員会（Inter-American Commission on Human Rights：IACHR）と米州人権裁判所、そして国連安全保障理事会と総会に米州レベルでの協力を要請していると述べている。

エクアドル軍によって連行されたグラスはグアヤキルにあるラ・ロカ刑務所に到着している。刑務所などでグラスが命の危機にさらされるのではないかという不安は付きまとう。

なお、日本メディアなどが報じる今回の大使館に対する突入をきっかけに緊張感が高まったという報道は上述の通り間違いである。両者の緊張は少なくとも数ヶ月続いており、この1週間で極限に達したという状況。

なお、今回のエクアドルの行動に対し、ブラジル、キューバをはじめとしたラ米諸国はグラスに対する人権侵害に対してというよりも、エクアドルの主権侵害に対しメキシコへの連帯を表明している。なお、エクアドルがこのような行動を起こすのは歴史上初めてのこと。

 

ホルヘ・グラスとは

54歳のグラスはエクアドル前大統領ラファエル・コレア長期左翼政権下でいくつかの閣僚を務めた。最も重要な役割は副大統領でコレア大統領時代には2013年から2017年までその役を担っている。その後のレニン・モレノ（Lenín Boltaire Moreno）率いる政権でも副大統領を努めたが。その任期はわずか数カ月だった。

2017年依頼グラスは２つの汚職事件で実刑判決を受けている。まずは建設大手オデブレヒト（Odebrecht）をめぐる汚職スキャンダルである。不正な結社の罪で6年間の有罪判決を受けた。1350億ドルにも及ぶ不正な金の動きはラテンアメリカの現・元政府高官を巻き込み、その政治体制を揺るがしている。

2020年にも贈収賄事件への関与で有罪となっている。この事件は極めて注目度が高かった。2012年から2016年にかけて公共契約を結ぶ代わりに金銭を受け取ったものの中にグラスがいたということのみならず、最終的に約800万ドルの賄賂を受け取ったとして有罪判決を受けた者の中には、この国の磁性的だが分裂的な前大統領であるコレアも含まれていたことによる。コレアとグラスはともに懲役8年の判決を受けたが、コレアは政治的動機によるものだと主張して、現在逃亡中である。

グラスは2022年11月に早期釈放されたが、弁護士は獄中では安全ではなかったと主張している。グラスに対しては別の汚職事件で予防逮捕状が出ており、政治的所属のために迫害されていると訴えている。しかしエクアドル政府はこれを否定している。今年初め、判事は大地震で被災した2つの州の復興資金を横領した疑いで、グラスに新たな服役命令を出したが、前副大統領はすでにキトのメキシコ大使館の敷地内に滞在していた。12月にメキシコ公館に逃げ込んで以来彼は4月5日の逮捕に至るまで、ここに滞在していた。

#ビジャビセンシオ 　#ホルヘ・グラス　#ペドロ・カスティージョ

 

参考資料：

1. Este evento causó que México rompa relaciones diplomáticas con Ecuador
2. ‘Outrage against international law’: Mexico breaks diplomatic ties with Ecuador over embassy raid
3. México da asilo a exvicepresidente Glas, Ecuador lo rechaza en medio de tensión diplomática
4. Mexico breaks relations with Ecuador after embassy stormed
5. Who Is Jorge Glas, an Ecuadorean Politician Arrested at Mexico’s Embassy?
6. Hija de Villavicencio a López Obrador: “Lávate la boca antes de hablar de mi padre”
7. México lamenta la declaración de persona non grata a la embajadora en Ecuador, Raquel Serur Esmere

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