ハリスコ・カルテル(Cártel Jalisco Nueva Generación:CJNG)とシナロア・カルテル(Cártel de Sinaloa)の抗争により 、メキシコの中でも魅力的である観光地として人気の高いチアパス州では聖週間の間、国内外からの観光客が減少した。ホリデーシーズンには昼夜を問わず何百人もの人々が闊歩していたサン・クリスとバル(San Cristóbal)のグアダルパノの遊歩道も、今では例年と違って人通りも少なく、バーやレストランでワインやビールを飲んだり食事をしたりする場所もなくなっている。
観光客を相手に商売をする人も悲鳴をあげる。レストランの店内は閑散としているし、手工芸品を売るツォツィル族の女性も一日100ペソ(900円)分の商品すら売れなかったと嘆いている。
30年前にサン・クリストバルにやってきて、地元客や外国人観光客が集まるバーで演奏していたミュージシャンのカルロス・ガジェゴス(Carlos Gallegos)は、カルテル間の抗争に加え、ツォツィル族ギャングのグループ間で、市場や広場の場所、麻薬の売買をめぐる争いが 2年以上続いていると、観光客の減少理由を語っている。
聖週間は3月25日(月)未明、パン・アメリカン・ハイウェイとオコソコアウトラ-ラス・チョアパス・ハイウェイの交差点での対立で幕を開けた。2人が死亡、1人が負傷、8台のバン、2台のトレーラー、1台のトラックが燃やされ銃撃された。これらの道路もまた数時間閉鎖された。
その日以来サン・クリストバルとグアテマラ国境の町コミタン(Comitán)とを結ぶパンアメリカン・ハイウェイは、フロンテラ・コマラパ(Frontera Comalapa)自治体のチャミック(Chamic)コミュニティにある犯罪組織の支援拠点が維持する封鎖のために閉鎖されている。このパンアメリカン・ハイウェイの閉鎖によりサン・クリストバル・デ・ラス・カサスと グアテマラの間の交通が遮断されている。
ガジェゴスによると、観光客の減少の結果、ミゲル・ユトリリャ通りとベニート・フアレス通りの間の200メートルの区間で、レストラン、バー、様々な商品を販売する店など、少なくとも6つの店が閉店した。
サン・クリストバルで2年以上続いている暴力事件は、「モトネトス(motonetos)」と呼ばれるギャングのメンバー同士の対立や、パレンケに向かう道路での絶え間ない道路封鎖の結果、観光客の減少につながっている。
12月のクリスマスシーズンには回復するだろうと思っていた観光客数は、残念ながら戻らなかった。2つの犯罪組織の抗争は結果として年末のホテル予約の大量キャンセルを招いた。「12月24日以降は改善されるだろうと期待していましたが、25日、29日、30日、31日が過ぎても何もありませんでした」とグアテマラへの旅行を扱う観光輸送会社の責任者でもあるガジェゴス付け加えた。今年の聖週間には、犯罪組織間の紛争による暴力の結果、サン・クリストバルへの観光客の流入が35%になると、このサービス業者は予測している。サン・クリストバル・ホテル協会のグアダルーペ・モグエル・ゴメス会長によると今シーズンのホテルの稼働率も40%程度となっている。
カルテルについては多くの人がその存在や暴力活動について知っていることだろう。しかし数年前からチアパスを問題の土地としたモトネトスについてはどうだろうか。
モトネトスまたは「モトパンディリェロス(motopandilleros)」は、サン・フアン・チャムラの先住民による犯罪集団で、 麻薬取引や殺人などをはじめとした犯罪活動を行っており、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスの住民の間に恐怖を広げている。この犯罪集団は、政治団体や個人が紛争を引き起こしたり、政府に拘束者の釈放を迫ったりするためのショック・グループとしても利用されている。
2022年11月8日にはこのグループのメンバーがリーダー パブロ “N”(José “N”)がチアパス州検事局によって10月28日に逮捕されたことで暴動を起こしている。モトネトスは空に向けて発砲し、車を燃やし、少なくとも2つの政府庁舎(市議長府と司法宮殿)を破壊した。同年9月25日の夜にはモトネトスがサン・クリストバル・デ・ラス・カサスの中心部とさまざまな地区で発砲しており、市北部のサン・アントニオ・デル・モンテでは、流れ弾が家族の家のトタン屋根を貫通、マリソルという7歳の少女が死亡した。
今年2月にはサン・クリストバル・デ・ラス・カサスのボスケス・デル・ペドレガル地区でモトネトスとのリーダー、フアン・エルナンデス・ロペス(Juan Hernández López)、別名エル・ファジョ(El Fallo)と名乗る男が処刑されたと警察筋は伝えている。情報筋によると、エルナンデス・ロペスは他の車かバイクに道を妨害され、銃器を持った2人組の男に襲われた。逃走したものの、被害者が車から降りようとしたところ銃弾に倒れた。彼が殺害された後、バイク乗りのグループは、加害者の居場所を突き止めようと、仲間に動員を呼びかけた。モトネトスのメンバー50人以上がサン・クリストバル・デ・ラス・カサス北部地区を回り、リーダーの殺害に抗議した。
このギャングたちの行動はサン・クリストバル・デ・ラス・カサスの少なくとも4つの教育機関は活動を停止させた。犯行グループのリーダーが殺害された後、バイクに乗った人々が銃を 乱射しながら周辺を走り回ったことから、生徒を危険にさらさないようとの処置が取られたと言うわけだ。
当時モトネトスは2023年9月に地域の平和を損ない暴動を発生させようと、住民に自由教科書を燃やすよう奨励した疑いで逮捕されたマルコ・カンシノ(Marco Cancino)前市長の釈放も求めていた。サン・クリストバル・デ・ラス・カサス市長は2015年から2018年にかけて、住民に公教育省(Secretaría de Educación Pública:SEP)の論争の的になっている書籍を燃やすよう呼びかけていた。
彼らは恐喝やその他の犯罪に関与しているが、彼らがメディアで目立つようになった主な理由は、バイクを使用することと、サン・クリストバルの通りで大規模な武装パレードを行うことである。バイクが使われるようになったのは、道が狭く、交通量がほとんど常に密集している街で、車と車の間を移動する必要性からきているのかもしれない。公に行われたパレードはおそらく、権力を誇示することによって暴力的な「評判」を築くために行われたものだと考えられる。こうすることで、恐喝や誘拐の可能性に直面しても、住民が要求を呑みやすくなるのだ。モトネトスは業者に対する政治的支配権を行使し、恐喝金を受け取ることを目的として活動を行うが、敷地内で違法な製品や麻薬を販売することもある。こうした行為に参加する代わりに、彼らはバイクや武器、資源を受け取り、若者たちはバイクや金を受け取るとされている。
サン・クリストバル・デ・ラス・カサス在住の人権専門家(匿名希望)は、メディアの報道には人種差別的な傾向があり、それはモトネトスという軽蔑的なニックネームに反映されているとメディア デ・ライズ(De Raíz)に語った。モトネトス は、貧しい、若い、先住民、よそ者として認識されている。モトネトスは「コレトス(coletos)」と同義ではない。コレトスとは、元々サン・クリストバル出身のメスティソの人々、つまり先住民族以外の移民に対して使われるニックネームであった。
参考資料:
1. Lucha entre el CJNG y Cártel de Sinaloa provoca caída en turismo de Chiapas
2. Quiénes son “Los Motonetos”, el grupo criminal que causó disturbios en San Cristóbal de las Casas
3. Asesinan a líder de los motonetos en San Cristóbal de las Casas
4. Chiapas se queda sin clases por asesinato del líder de “Los Motonetos”
5. “Los motonetos”, el nuevo grupo criminal chiapaneco en San Cristóbal de las Casas
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