(Photo:@walkwithamal/X)
メキシコ議会上院(元老院)は16日、シリア難民の少女を象徴し、難民の人権を守る闘いのシンボルとなっている高さ3.66メートルの人形「小さなアマル(La Pequeña Amal)」を受け取った。アナ・リリア・リベラ(Ana Lilia Rivera)議員はこの人形を共和国上院に歓迎し、他の議員たちとともに子どもたち、特に紛争や迫害、貧困によって居場所を失った子どもたちの権利保護に対するコミットメントを再確認した。「メキシコはこれまでも、そしてこれからも、困窮する人々の避難所であり、その前提は私たちの歴史と文化の一部であり、共感とホスピタリティというメキシコ国民の価値観に深く根ざしている」・そして「私たちはこの価値観を繰り返し、祖国さえもなく何も持たない人々の代弁者となることを約束する。自分たちのものが奪われ、すべてを失った人たちの故郷となるように」「リトル・アマル、あなたの訪問は私たちに名誉を与え、すべての少女と少年が、愛され、守られ、食べさせられ、保護され、幸せに平和に暮らせる未来のために働き続ける意欲を高めてくれます。たとえ小さな子どもであっても、人間の精神にある強さと勇気を思い出させてくれてありがとう」と語った。アマルはメキシコの7都市を5000キロ以上移動する。16日の元老院でのレセプションは、彼女にとってメキシコシティでの最初の活動となった。
アラビア語で希望を意味する「アマル」の名を持つ人形は何千キロも旅をし、訪問先の都市で危機や戦争、弾圧のために祖国を離れた人々に希望と連帯のメッセージを伝えている。そして11月、ラテンアメリカで初めて訪れるメキシコにやってきた。「ウォーキング・ウィズ・アマル(Walking With Amal)」プロジェクトによれば、プロジェクトが始まった2021年7月以来、人形はヨーロッパと北米の14カ国、120都市を訪れ、100万人の人々に歓迎されてきた。また、約18,000キロを歩くワールドツアーの中でアマルはフランシスコ法王(Papa Francisco)、アミナ・モハメド(Amina Mohammed)国連副事務総長、俳優のジュド・ロウ(Jude Law)とベネディクト・カンババッチ(Benedict Cumberbatch)、ファッションデザイナーのダイアン・フォン・ファステンバグ(Diane von Furstenberg)、市長、英国議会議員、欧州理事会のメンバーなど、さまざまな分野の公人から歓迎を受けてきた。最も重要なツアーのひとつは米国で、40都市を回り、何千人もの人々の目に彼女は映った。米国は、新たな機会を求める難民や亡命者、ラテンアメリカからの移民の主な目的地のひとつである。
「アマルは、母親を探し求める移民少女を象徴している。両親や家族を求めてこの地域を横断する同伴者のいない子供たちの数は非常に多い。この状況を研究する人々にとって、彼らは目に見えない存在なのです」とアナ・バジェ(Ana Valle)のような移民の権利活動家は活動後に説明した。2012年にトルコのシリア難民センターを視察した際にデビューしたこのフィギュアの製作者であるザ・ウォーク・プロダクションズの共同設立者兼ディレクターのデイビッド・ラン(David Lan)はこの人形のデザイナーによればメキシコのモヒガンガ(mojiganga)にインスパイアされたものだと語っている。モヒンガはもともと、カーニバルにおける茶番劇をルーツとする。ベラクルス州のサン・アンドレス・トゥクストラ(San Andrés Tuxtla)では11月28日と29日にモヒガンガが祝われる。そこにおけるモヒガンガでは、サトウキビと紙を用いて人形が登場し、守護聖人サン・アンドレス・アポストル(San Andrés Apóstol)を祝って、音楽に合わせて町の大通りを練り歩く。
アマルはメキシコシティの主要な集会所政府(上院)、社会(ソカロ)、宗教(グアダルーペ聖母マリア大聖堂)を訪問した。メキシコシティ南部のトラルパン地区の中心部にある「人道支援と平和構築のための集会センター(Centro de Encuentro para Acompañamiento Humanitario y la Construcción de Paz:Ceahpaz)」ではあらゆる年齢の子供たちがピニャータを割ってアマルと遊んだ。3人が操る人形は、シンクロしたステップを踏み、生命と魔法をもたらす。無視することはできない。人形は優しくくねくねと動き、まぶたをスムーズに開閉する。彼女は両手を広げ、彼女を迎える難民の子どもたちを、その大きな手で抱きしめる。そして彼女は祈りや感謝の印として手のひらを合わせる。この祝祭的な雰囲気は、おそらくここで暮らす家族や、走り回る18人の難民の子供たちに久しぶりの笑顔をもたしたことだろう。
「難民には食料や毛布も必要だが、尊厳や声も必要だ。このキャンペーンの目的は、難民の悲惨な状況だけでなく、その可能性を強調することであり」「リトル・アマルの身長が3.6メートルあるのは世界には大きく彼女を迎え入れてもらいたいからだ。彼女には、大きく考え、大きく行動するよう私たちを鼓舞してほしいのだ」と、ザ・ウォークのアーティスティック・ディレクター、アミル・ニザル・ズアビ(Amir Nizar Zuabi)はプロジェクトのウェブサイトで説明している。
La Pequeña Amal llegó a #México con un mensaje de esperanza y unión que conmovió a todos los corazones que presenciaron su paso por #Tijuana.
En sus primeros días en tierras mexicanas, esta figura gigante de una niña siria se convirtió en un símbolo de solidaridad. pic.twitter.com/PIpTQ69a8C
— Little Amal (The Walk) (@walkwithamal) November 8, 2023
メキシコは近年、深刻な移民危機に見舞われている。ラテンアメリカを目指す中米からの移民の通過国であるだけでなく、他の移民たちの目的地ともなっている。国連難民高等弁務官事務所が今年初めに発表した報告書によると、メキシコでは2022年に「ベネズエラ人、キューバ人、ニカラグア人の庇護申請者数が顕著に増加」した。しかし最も多いのはホンジュラス(26%)で次にキューバ(15%)、ハイチ(14%)、ベネズエラ(13%)、ニカラグア(8%)と続く。申請者の半数は成人男性、29%が女性、10%が女子、11%が男子であった。2022年、国家難民支援委員会(Comisión Mexicana de Ayuda a Refugiados:Comar)はニカラグア人から8971件の難民申請を受理した。つまり、これはメキシコに正式に難民申請した人数である。しかし、移民の専門家は、メキシコを通過するニカラグア人の数はもっと多いと主張している。Human Rights Collective Nicaragua Nunca Másが作成した報告書「強制移住させられたニカラグア人の状況(Situación de las personas nicaragüenses desplazadas forzadas)」によると、少なくとも605,043人のニカラグア人が国を離れている。これは全人口の9%に相当する。この国外脱出は、中米の国が直面している経済悪化と、ダニエル・オルテガ(Daniel Ortega)とロサリオ・ムリジョ(Rosario Murillo)の権威主義によって引き起こされた。
https://twitter.com/walkwithamal/status/1724907915767918955
国際移住機関(International Organization for Migration:IOM)メキシコ代表のダナ・グラバ(Dana Graber)は、避難民の子どもたちが人身売買の犯罪被害者でもあり、飢えや寒さに苦しみ、教育や保健を受けられないという事実を糾弾している。また、移民、難民、避難民の子どもたちの保護を促進するようグラバは立法府に働きかけるとともに、その歴史、国籍、出自にかかわらず、こうした子どもたちや青少年をケアすることは政府や国際機関の義務であるとも述べている。
メキシコの難民申請数が9月末時点で12万2960件と過去最多を記録し、2021年通年の難民申請数12万9780件を更新する見込みであることを踏まえ、国連職員は、地域的な取り組みと、避難所、難民申請処理、労働支援など、受け入れ国としてのメキシコの場合、財政能力を倍増させるよう呼びかけた。
人の移動という現象に構造的に対処する必要があるイニシアティブは、地域的または世界的なものでなければならない。保護と労働力の包摂と移動のための代替手段のニーズに応えるのは、一国だけで、それぞれが独自の規模と能力を持つということはありえない、国連職員は強調した。
国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees:UNHCR)メキシコ代表のジョバンニ・レプリ(Giovanni Lepri)は、戦争、暴力、貧困、気候変動により、世界中で1億1千万人が避難生活を強いられていると述べた。UNHCRの報告書によると、強制的に避難させられた人々の41%が子どもと青少年であり、これは世界人口の30%に相当する。これらの人々は虐待、暴力、人身売買、児童婚、武装集団への勧誘など、さまざまなリスクにさらされ、そこから逃げてきた。
アマルは11月6日から26日にかけて、メキシコの7都市ティフアナ、モンテレイ、グアダラハラ、サポパン、メキシコシティ、オアハカ、タパチュラのメキシコを訪れ、子どもたち、若い移民や難民、そして団体や当局に会い、戦争や暴力、迫害のために故郷や家族を追われた何千人もの人々への寛容と連帯を呼びかける。メキシコでの5,000キロにわたる旅は移民事象に対する認識を高めることに寄与する。このツアーは11月26日にチアパスのスヒアテ川で終了する予定である。
メキシコは今年の第78回国連総会においても移民・難民に対する人道支援について演説をしている(詳細はこちら)。
参考資料:
1. Amal, la marioneta de los refugiados, recorre la Ciudad de México con un mensaje de esperanza
2. Amal, la marioneta refugiada llegará en noviembre próximo a México
3. Senado mexicano recibe a muñeca gigante Amal, símbolo de lucha por derechos de refugiados
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