(Photo:Oscar Guerrero Ramirez/Getty Images)
水曜日の早朝にメキシコの都市アカプルコに襲来したハリケーン・オティス(Otis)の影響は甚大なるものとなっている。住宅、ホテル、ショッピングセンターが破壊され、スタジアムが浸水し、商業港の一部が破壊された。
カテゴリー5のサイクロンとして上陸したオティスはゲレロ州、特にアカプルコを時速260kmの持続風と最高時速315kmの突風で打ちのめし、記録が始まって以来メキシコの太平洋沿岸を襲った最も強力なサイクロンとなった。街の大部分では通信や支援が途絶えており、陸軍、海軍、州兵の出動が命じられている。また、アカプルコの空港も被害を受けたため、人道援助の車列は陸路メキシコシティを出発した。
ゲレロ州のエベリン・サルガド(Evelyn Salgado)知事は、オティスがアカプルコのホテルの80%に被害を与えたと推定し、当局は同地域の電気の復旧と飲料水ポンプの再稼働に取り組んでいると報告した。
ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador:AMLO)大統領は、「アカプルコが受けた被害は非常に悲惨なものだった(…)ここ数年、この国では前例のないことだ」と述べ、政府がホテル経営者や商店主を支援し、被害を修復し、この地域の観光を再開させると発表した。
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ロサ・ロドリゲス(Rosa Rodriguez)治安長官は、当局が被害を受けたすべての自治体に対応していると報告し、ハリケーンの被害が最も大きかった地域では、高圧鉄塔50本が倒壊し、現在も一部通信が遮断されていると説明している。また公立病院にも被害が出ており600人の患者が移送を余儀なくされている。地元メディアによると、一方木曜日の夜までに同州の50%の家庭と企業がすでに電力を回復したという。
普段は信頼できる予測モデルもオティスには太刀打ちできなかった。予想を遥かに超える強力な暴風雨が真夜中に上陸するなどと言うシナリオは気象学者にも予測モデルにも示されていなかった。アカプルコの港にやってくるのはハリケーンの強さを下回る程度の熱帯低気圧であった。しかしオティスはメキシコ沿岸に時速266キロの風を吹きつけ、東太平洋のハリケーンの中で史上最悪の上陸を果たした。オティスは沿岸に近づくにつれ、風速113km/h(70mph)から257km/h(160mph)へと2倍以上の強さになり、新記録を樹立した。そして、暴風雨は上陸前にさらに強まった。これはわずか12時間で起こったことだ。通常、嵐はその速さを12時間で時速数キロ増減するほどだ。流星の場合は「例外的に」1日で時速40キロから80キロ(時速30キロから50キロ)に強まることはある。しかしそのレベルを超している。
マイアミ大学のハリケーン研究者であるブライアン・マクノルディは、オルティスに起こったことはまさにクレイジーだったと語った。しかし、気候変動に関連した水温上昇のために、サイクロンがここ数十年で急速に強まるという記録された傾向と一致している、と科学者たちは語った。
ハリケーンの専門家5人がAP通信に語ったところによると、何がオーティスの勢力を強めたのか、なぜそれが予測されなかったのか、特にここ数年で予報が劇的に改善された後では、まったくわからないという。
マサチュセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)の大気科学教授でハリケーンの専門家であるケリー・エマニュエル(Kerry Emanuel)は、「モデルは完全に間違っていた」と語った。専門家たちは、暴風雨とその周辺に関するデータが不足していること、そして暴風雨がステロイドのように作用する原因が完全には解明されていないことを指摘している。というのも、オーティスの場合、嵐は陸地に向かって移動中であったにもかかわらず、突然非常に激しくなったからである。
この土地に「カテゴリー5のハリケーンが上陸するのは、想定内のことだ。しかし、何も起きないと思っているときにハリケーンが上陸するのは、本当に悪夢だ」と専門家も語る。例えば、マイアミに住むマクノルディは、熱帯暴風雨の予報があれば、「家に軽い家具を運び込んだり、風鈴を取り外したりする。それだけ」であり、カテゴリー5のハリケーンの時とは違う。
米国立ハリケーンセンター(National Hurricane Center:NHC)のマイケル・ブレナン(Michael Brennan)所長は、「これは非常に悪いシナリオだ。人口密集地で、上陸から短い距離の間に急速に強まり、人々に対応する時間を与えない時間枠の中で、影響に関する予想が変わる」と述べた。ブレナンは、オーティスが予想外に強まったのは「我々が予想していたよりもはるかに有利な環境に遭遇した」ためだと述べた。その理由のひとつは海水温の高さであり、もうひとつは、適切な高度で適切な方向に移動する風のおかげで、少々無秩序な暴風雨が素早く構造を発達させ、強まったことだという。
マクノルディは、現時点では科学者が知らない謎の成分があるのかもしれないが、水が重要な役割を果たしていると語った。暖かい水はハリケーンの燃料であり、特に深海における暖かくて深い水は、無限のごちそうのようなものだ、と説明する。
"No tengo nada, todo quedó destruido", señala una mujer de la tercera edad tras el golpe del huracán Otis que devastó el puerto de Acapulco.
Video de El Sur pic.twitter.com/2UnIC4yhPC
— Joaquín López-Dóriga (@lopezdoriga) October 28, 2023
世界中の海は、8月以来、月ごとの表面水温の最高記録を更新し続けている。アルバニ大学の大気科学者クリステン・コボシエロ(Kristen Corbosiero)は、メキシコ沿岸の表層水温は高かったが「とんでもなく暖かい」わけではなかったと語った。ブレナンとマクノルディによれば、これらの海域の水温はおそらく平年より1〜2度高かった。より深い水深では、水温は通常よりはるかに高く、「今はそこに大量の燃料がある」とマクノルディは言った。しかし、暴風雨は静止したままではなく、その熱を利用している。
世界中の深海の熱量もまた記録を更新し続けている。これは人為的な気候変動によるもので、石炭、石油、ガスの燃焼によって発生する余分な熱の多くを海がスポンジのように吸収しているためだと、マクノルディや他の科学者は述べている。
2015年のハリケーン「パトリシア(Patricia)」、2005年のハリケーン「ウィルマ(Wilma)」という歴史的に爆発的な急速増水した2つのケースもまた深海と海面の熱量が最も高くなる10月中旬から下旬に発生したことをマクノルディは語っている。
数多くの研究により、世界各地でハリケーンが急速に強まるケースが以前よりも増えていることが示されている。急速な強度の公式定義は、24時間以内に時速56kmで強度が増すことである。2020年には6つの暴風雨が急速に強まり、その多くは上陸直前に発生した。2017年には、ハービー(Harvey)とマリア(María)という2つの壊滅的なハリケーンが急速に発生した。先月大西洋では、ハリケーン・リー(Lee)が時速129kmから時速249kmまで加速している。このハリケーンは上陸にまでは至らなかった。
米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration:NOAA)にかつて勤務し、現在はファースト・ストリート財団のフェローである気候学者でハリケーンの専門家、ジム・コシン(Jim Kossin)はより長い時間軸で世界的に起こっていることが、人為的な気候変動によるものであることを示す証拠はあるが、特定のハリケーンについて同じことを言うのは難しいと述べた。
しかし、「これはまさに気候が温暖化するにつれて予想されるようなことだ」と彼は付け加えた。
マサチュセッツ工科大学のエマニュエルは、水温だけでなく、塩分濃度の低さにも要因があるかもしれないと語った。この時期、その地域の表層水は多量の降雨のために新鮮であり、それによって水温の混合が変化する、と彼は言う。通常、ハリケーンは暖かい表層水とその下の暖かい海水を混ぜ合わせる。しかし、表層水がより新鮮になると、嵐はさらに深海から暖かい水を引き寄せ、嵐をさらに煽ると言う。その理論を証明する重要なポイントは、オーティスがその航跡に暖かい水を残すかどうかである。一般的に、ハリケーンはその航跡に冷たい水の跡を残す。エマニュエルは、衛星画像がそれを示してくれることを期待しているが、正しい写真が撮れるかどうかはわからないという。
ブレナンや他の専門家が言及するもうひとつの要因は、気象学者がオーティスの本来の強さを過小評価している可能性があるということだ。というのも、オーティスはもともと強かったからだ。「多くの意味で、東太平洋は巨大なデータの空白地帯である。ブイがない。陸上の観測はほとんどない。メキシコ西海岸沿いにはレーダーもない。だから、ほとんど衛星画像に頼るしかないのだ。
また、上空から嵐を観測する衛星では、何が起きているのか正確に把握できないこともある。「ジグソーパズルを想像してほしい。気象予報士が持っているピースは10パーセントに過ぎないこともある」とブレナンは言う。
自然災害なるものは存在しないと言うのが、昨今の定説だ。災害は人間の行動によって引き起こされる。被害が甚大化した理由には人間が作った予測モデルや、それに与えるべき情報が不足していたこともあるかもしれないし、そもそもオルティスの強度を見誤っていた可能性もある。暴風雨に対する備えのみで、ハリケーンの可能性を考え準備できなかったのか、など。見直すべきこと、復興に向けた早急なる取り組みなど現地でも色々とやらねばならぬことはある。
しかしこのような惨事の原因の多くを作っているのは特に先進国と呼ばれる国に住む人間である。今一度このことを認識するとともに、気候変動に向けた行動を個人レベルでも見直す必要がある。
以下オティス通過前後の衛星画像となる(情報源Maxar/Reuters&AP)。
ハリケーン・マリアについてはこちらの記事を参照のこと。
参考資料:
1. El huracán Otis tomó por sorpresa a México y a meteorólogos; los científicos desconocen el motivo
2. Las imágenes satelitales que muestran el antes y el después de la destrucción dejada por el huracán Otis tras su paso por Acapulco
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