(Photo:U.S. Customs and Border Protection/Flickr)
ジョー・バイデン大統領は5日、ドナルド・トランプ前大統領の特徴的な政策を引き継ぎ、メキシコからの移民流入を食い止めるため、国境の壁を増築すると発表した。建設されるのは約20マイル(32km)にわたる壁でメキシコとの国境沿いのスター郡に建設される予定だ。政府のデータによれば、リオグランデ・バレー地域だけで今年24万5000件以上の越境があり、9月は記録的な数字になると予想されている。
国境の壁の建設自体は、ドナルド・トランプの大統領時代の看板政策であり、民主党は猛反対しているものだ。
2020年、バイデンは当選したらもう1フィートの壁も造らないと公約を掲げ、2021年1月の就任後にも「国境の壁建設にこれ以上アメリカの税金を流用しない」ことと、すでに投入されたすべての資源を見直すことを約束する布告している。しかしここに来て政権側は約束について「記憶がない」とでもいうかの如く、手のひら返しを行った。彼らの「言い訳」は2019年のトランプ大統領の任期中に割り当てられた壁の建設資金は今使わなければならない、「止めることはできない」と述べ、この行動はバイデンの宣言から逸脱していないと述べた。アレハンドロ・マヨルカス国土安全保障長官も声明で、「国境の壁に関して新たな政権の方針はない」。「初日から、この政権は国境の壁が答えではないと明言している」と述べた。マヨルカスによれば、この建設プロジェクトは前政権時代に計上されたもので、法律では政府がその資金を使用することが義務づけられており、今年初めに発表された。「我々はこの資金を取り消すよう何度も議会に要求してきたが、議会はそうしなかった」と述べている。
バイデンは就任早々、包括的な移民制度改革法案を議会で可決させようと試みたが、共和党の反対で進展が阻まれた。しかしながら今回の行動は過去の言説との乖離が甚だしく、言い訳としか映らない。
オハイオ州にあるケース・ウェスタン・リザーブ大学の法学・政治学教授、ジョナサン・エンティン(Jonathan Entin)はBBCに対し、バイデン氏の予算に関する主張は「法的には正しい」ものの、国境の壁建設を可能にする連邦法を放棄する義務はないと語った。また、エンティンは、バイデンは連邦政府の要件を免除することで、共和党議員の主張とは逆に、国境警備に「真剣」であることを支持者に示すことができる、と述べた。
テキサス州にあるライス大学ベイカー研究所のアメリカ・メキシコセンターのトニー・パヤン(Tony Payan)所長も、エンティン氏の評価を支持している。「バイデン政権は、たとえ資金があったとしても、壁に関係する多くの問題で足を引っ張ってきた」。「少なくとも今は、使う必要はない」。
記者からの壁がうまくいくと思うかとの質問には、バイデンは「ノー」とだけ答えた。
米国税関・国境警備局(CBP)も同様に、水曜日の夜にAP通信に声明を発表し、すでに国境の壁のために割り当てられた資金を使っていると今回の動きを擁護している。「議会はリオグランデ・バレーの国境の壁建設に2019会計年度の資金を充当しており、DHSはその資金を充当された目的に使用することが求められている」と声明は述べている。
その建設を承認するために、大気浄化法や安全飲料水法を含む数十の連邦法が免除されている。つまり、SDGsからもの実現からも遠ざかる可能性がある。
この動きは、構造物が絶滅の危機に瀕した動植物の生息地を切り開くという環境保護主義者を怒らせている。生物多様性センター(Center for Biological Diversity)の自然保護提唱者であるライケン・ジョルダル(Laiken Jordahl)は「バイデン大統領が、野生生物を殺す効果のない国境の壁を建設するために、わが国の根幹をなす環境法を脇に追いやり、このレベルまで身を落とすのを見るのは落胆する」と述べまた、バイデンが「受け継いだ」と語った「壊れた移民制度」があるのであれば、それを修復するために、移民の合法的な経路を増やし、国境警備技術に投資するなど、異なるアプローチをとってきたと述べた。
ジョルダールが語るようにテキサス州スター郡に壁を建設するためには多くの法律、規制、その他の法的要件を26個免除する必要がある、これはバイデン国土安全保障省も連邦官報で通知している。
2019年4月24日連邦官報にもニューメキシコ州とアリゾナ州における国境の壁の新設・交換プロジェクトにおいても48の法律免除が行われている。国境の壁建設のためにDHSが放棄した連邦法には、以下のようなものがある:
1.国家環境政策法(National Environmental Policy Act:NEPA)
2.絶滅危惧種法(Endangered Species Act)
3.水質浄化法(Clean Water Act)
4.国家歴史保存法(National Historic Preservation Act)
5.渡り鳥条約法(Migratory Bird Treaty Act)
6.大気浄化法(Clean Air Act)
7.考古学的資源保護法(Archeological Resources Protection Act)
8.安全飲料水法(Safe Drinking Water Act)
9.騒音規制法(Noise Control Act)
10.固形廃棄物処理法(Solid Waste Disposal Act)
11.包括的環境対応・補償・責任法(Comprehensive Environmental Response, Compensation, and Liability Act)
12.考古学的・歴史的保存法(Archaeological and Historic Preservation Act)
13.遺跡保存法(Antiquities Act)
14.史跡・建造物・古美術品法(Historic Sites, Buildings, and Antiquities Act)
15.自然景観河川法(Wild and Scenic Rivers Act)
16.農地保護政策法(Farmland Protection Policy Act)
17.沿岸域管理法(Coastal Zone Management Act)
18.原生地域法(Wilderness Act)
19.連邦土地政策管理法(Federal Land Policy and Management Act)
20.国立野生生物保護区制度管理法(National Wildlife Refuge System Administration Act)
21.1956年魚類野生生物法(Fish and Wildlife Act of 1956)
22.魚類野生生物調整法(Fish and Wildlife Coordination Act)
23.行政手続法(Administrative Procedure Act)
24.1999年オタイ山原生地域法(Otay Mountain Wilderness Act of 1999)
25.カリフォルニア砂漠保護法(タイトルIの第102条(29)および第103条)(California Desert Protection Act, Sections 102(29) and 103 of Title I)
26.国立公園局組織法(National Park Service Organic Act)
27.国立公園局一般権限法(National Park Service General Authorities Act)(National Parks and Recreation Act of 1978, Sections 401(7), 403, and 404)
28.1978年国立公園・レクリエーション法(Section 401(7)、Section 403、Section 404)
29.アリゾナ砂漠原生地域法(301条(a)~(f))(Arizona Desert Wilderness Act, Sections 301(a)-(f))
30.1899年河川港湾法(Rivers and Harbors Act of 1899)
31.イーグル保護法(Eagle Protection Act)
32.アメリカ先住民墓地保護送還法(Native American Graves Protection and Repatriation Act)
33.アメリカ・インディアン宗教自由法(American Indian Religious Freedom Act)
34.信教の自由回復法(Religious Freedom Restoration Act)
35.1976年国有林管理法(National Forest Management Act of 1976)
36.1960年複合利用・持続収量法(Multiple Use and Sustained Yield Act of 1960)
37.1999年軍用地撤退法(Military Lands Withdrawal Act of 1999)
38.サイクス法(Sikes Act)
39.1988年アリゾナ・アイダホ保全法(Arizona-Idaho Conservation Act of 1988)
40.1977年連邦補助金・協力協定法(Federal Grant and Cooperative Agreement Act of 1977)
41.渡り鳥保護法(Migratory Bird Conservation Act)
42.古生物資源保護法(Paleontological Resources Preservation Act)
43.1988年連邦洞窟資源保護法(Federal Cave Resources Protection Act of 1988)
44.国立トレイルシステム法(National Trails System Act)
45.1997年国立野生生物保護区システム改善法(National Wildlife Refuge System Improvement Act of 1997)
46.1939年干拓事業法 第10条(Reclamation Project Act of 1939, Section 10)
47.野生の馬およびバロ法(Wild Horse and Burro Act)
48.2000年10月30日の法律、Pub. L. 106-398, 1, 114 Stat.(An Act of Oct 30, 2000, Pub. L. 106-398, 1, 114 Stat.)
バイデンの任期中、米国とメキシコの国境を通過する移民の数は記録的で、9月には過去最高を記録した。
上述の通りバイデンは就任当初、トランプの移民政策の多くを撤回することを約束したが、国境捜査官が亡命を求める機会なしに移民をメキシコに追放することを認めた、タイトル42として知られるCOVID-19時代の公衆衛生命令はそのまま維持していた。タイトル42が今年5月11日に失効すると、バイデン政権はそれに代わって、移民が合法的な入国港に近づく前に政府が運営するスマートフォンアプリで予約を取るか、不法に国境を越えると庇護の厳しいハードルに直面することを義務付ける厳しい新規則を導入した。新ルールの発表後、当初移民の数は激減したが、ベネズエラから逃れてきた数千人の移民に押され、ここ数週間で再び増加し始めた。
10月5日に発表されたもうひとつの大きな強制措置では、バイデン政権当局者が、両国の関係が冷え込んでいるため中断していたベネズエラへの強制送還フライトを再開すると言うものだ。過去2年間で、何十万人ものベネズエラ人が、その多くが国内の経済的・政治的混乱から逃れて、ダリエン・ギャップとして知られるコロンビアとパナマの間の危険なジャングル地帯をトレッキングし、アメリカとメキシコの国境に到達している。
移民の増加により、国境やさらに北にある米国の都市は疲弊していることは確かだろう。米国司法省によれば、200万件以上が係争中で、解決に数年を要することが多い移民裁判所では、亡命希望者は国内に釈放されて主張を行うことができる。国境付近の共和党知事たちは、バイデンが入国を阻止するのに十分なことをしていないとして、到着した移民の一部をニューヨーク※やシカゴといった民主党が支配する都市にバスで送っており、現地の民主党指導者たちもバイデンを批判している。ワシントンに本部を置く移民政策研究所によれば、約1100万人の移民が合法的な書類を持たずに米国に滞在している。その多くは何年も、あるいは何十年もこの国に住み、働いている。
ロイター/イプソスの9月の世論調査によると、「移民は生粋のアメリカ人の生活を苦しくしている」という意見に賛成するアメリカ人が54%と過半数を占め、移民問題はアメリカ大統領選の選挙テーマとなりそうだ。共和党員の73%、民主党員の37%がこの意見に同意している。
この決定にトランプ大統領はすぐに勝利を主張し、バイデンに謝罪を要求した。「何千年もの間、一貫して機能してきたものは2つしかない、車輪と壁だ」。トランプはソーシャルメディアにこう書き込み、「ジョー・バイデンは、動き出すのに時間がかかったことを私とアメリカに謝罪してくれるだろうか?」と続けた。
トランプ氏は、2024年の大統領選で民主党のバイデンに挑戦する共和党候補の最有力候補である。トランプは「Build That Wall(壁を作れ)」という集会での唱和で、国境障壁の建設を最初の大統領選挙の中心的な方針とした。
ジョー・バイデン大統領は、同政権がテキサス州での新たな国境の壁建設を発表したことで、共和党と民主党の両方から非難を受けている。バイデンは、ドナルド・トランプ氏が大統領であった間に資金調達に署名したため、「選択の余地はなかった」と述べるも、民主党の議員たちは壁は機能しないと言い、共和党の議員たちはバイデン氏を偽善だと非難した。もちろんこの決定は移民擁護派やさらなる建設に反対する環境保護論者など、左寄りの支持層からの批判にさらされることになる。
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル(Andrés Manuel López Obrador)大統領は毎日の記者会見で、壁はバイデン大統領が以前提唱していたものに「反する」と述べ、この発表を「後退した一歩」と批判した。一方「米国内の極右政治グループから強い圧力があることは理解している」と付け加え、先週だけで毎日1万人が国境に到着したと述べた。
不法越境者の増加により、この問題はバイデン大統領にとって脆弱なものとなっているが、今回の対応もまた彼を内外から攻撃するための格好の材料となっている。
米国税関・国境警備局の提案によると、バリアはコンクリートの土台に埋め込まれた大きなボラード、ゲート、カメラ、CCTV装置で構成される予定であり、壁建設のため野生生物の保護を目的とした法律を含む20以上の連邦法を放棄した。
トランプが作った国境の壁は、環境・文化資源に「重大な損害と破壊」をもたらしたことはすでに監視団によって発表されている事実であり、今回もまたそれが繰り返される。
※移民対策で資金が圧迫されているニューヨークは市長がメキシコ、南米を訪問し移民抑制に努めている(詳細はこちら)。
参考資料:
1. Biden approves new section of border wall as Mexico crossings rise
2. Biden to build more US border wall using Trump-era funds
3. Biden attacked from both sides over new Texas border wall
4. Real ID Waiver Authority Compromises Our Borderlands
5. Biden administration waives 26 federal laws to allow border wall construction in South Texas
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