(Photo:@TSEGuatemala/ Twitter)
2023年6月25日(日)朝7時、グアテマラで総選挙が始まった。1985年の民主化以来、グア10回目の総選挙である。今回は選挙制度、直前に報道されたスキャンダル、選挙に向けた下準備や当日のスケジュールについて記載する。
選挙制度
選挙・政党法(Ley Electoral y de Partidos Políticos:LEPP)によると、総選挙では大統領と副大統領、共和国議会議員160人、市町村議会議員340人、中米議会議員20人が選出される。第1回投票で大統領候補が絶対過半数を得られなかった場合は、2023年8月20日(日)に決選投票が行われる予定だ。
160人の代議士のうち32人が国民名簿選を通じて、 128人は22の県から選ばれる。つまり小選挙区制による選出で、正確を期して言えば選挙区は23(各県とグアテマラ市を擁する自治体)ある。これは2016年の選挙法改正により定められたものである。これは首都を擁するグアテマラ県が特例となっており、同名の市町村が中央選挙区を構成し、残りの市町村がグアテマラ県選挙区を構成する形をとっている。法律によって各選挙区(人口比)毎に代議士の数は決められている。たとえば以下の通りだ。LEPP第205条が参考になる。
19人-Municipios del departamento de Guatemala
11人-Distrito Central
10人-Huehuetenango
9人- Alta Verapaz, San Marcos
8人- Quiché
7人- Quetzaltenango
6人- Escuintla
5人- Chimaltenango, Suchitepéquez
4人- Jutiapa, Petén, Totonicapán
3人- Chiquimula, Izaban, Jalapa, Retalhuleu, Sacatepéquez, Santa Rosa, Sololá
2人- Baja Verapaz, Zacapa
2人- El Progreso
計128人
国民名簿は党が自らの利益に従ってリストを作成し掲示する。元議員で元共和国議会議長のロベルト・アレホス(Roberto Alejos)は、1985年に国民名簿が作成されたとき、それは民主主義の開放性を促進する意図で行われたもので、非の打ちどころのない政治的軌跡をもってイデオロギーに対応する各政党の最良の人物を国民名簿に載せることを意図していたと断言する。しかしその意図は1993年の改革後、コンセプトが損なわれてしまった。党は票をどのような形であっても獲得できる人間をリストに据える。だから買票行為等が発生しないように警戒する必要が出る。
グアテマラ・ビジブル(Guatemala Visible)のプロジェクト・ディレクターである政治学者のコンスタンツァ・アラルコン(Constanza Alarcón)によれば、国民名簿の最初の議席は、実力と適性に基づいて与えられるべきである。加えて、党、そのイデオロギー、価値観の最良の代表者のためのものであるべきだ。政治や行政の分野で準備や経験を積んだ候補者であることは必至で、そのためには、党内慣行を民主化し、新しい指導者を育成して意欲を高め、専門的な訓練を受けさせるよう党は務めるべきと言う。
サン・カルロス大学(Universidad de San Carlos)の政治学者ルイス・ベラスケス(Luis Velásquez)は、全国リストの上位を占めるという指定は、政党の指導者、所有者、資金提供者が個人的な利益を求めて権力闘争を繰り広げた結果であると主張する。
大統領は国家元首であり、かつ グアテマラ軍の最高司令官でもある。大統領や副大統領の任期は4年で大統領の再選は禁止されている。 この国で大統領になるには 40歳以上であること、生まれながらにしてグアテマラ人であること、そして善良な市民である事が求められる。年齢制限は、例えばチリ大統領ボリッチが37才で就任したことを思えば、 「若い者」が着任できないことを意味する。 善良な市民が何を定義するかについては、判断が難しいところだが、少なくとも過去にクーデターに関与していないこと、大統領や副大統領の親族でないこと、 選挙前6ヶ月以内に各省庁の長ではなかったこと、 最高選挙裁判所(TSE)の裁判官でないこと、 そして5年以内に軍人でなかった事が条件となる。
一方、大統領が任命する大臣に関して言えばより曖昧で紳士であること、グアテマラの市民権を有すること、30歳以上である事が条件となる。なお、他国のように政府の家族運営とならないようにするためか、大統領や副大統領の親族を大臣として指名することはできないと規定されている。
直前に報道されたスキャンダル
選挙直前、TSEのブランカ・アルファロ(Blanca Alfaro)判事がミゲル・マルティネス(Miguel Martínez)の贈収賄疑惑を米国に報告したという報道が『ニューヨーク・タイムズ』の記事「今回の選挙では、1票も投じられる前に敗れた候補者もいた」に掲載され物議を醸している。それによると現在は廃止された政府センターの元代表でアレハンドロ・ジャンマッテイ(Alejandro Giammattei)大統領の側近だったミゲル・マルティネスがブランカ・アルファロに賄賂を贈ったというもの。
ニューヨーク・タイムズ紙が調査を通じ記載しているのは以下の通りだ。
・グアテマラの判事が昨年春、アメリカ大使館で開かれた会議に出席し、多額の現金を取り出したこと
・アルファロ判事は、ジャンマッテイの側近で党の要人であるミゲル・マルティネスから賄賂を受け取ったと米当局者に語ったと、その会合に出席した人物と米当局者が語ったこと
・同席した人物によると彼が持っていた金は50,000グアテマラケツァール(6,000ドル以上に相当)だったこと
憲法学者のガブリエル・オレリャーナ(Gabriel Orellana)は「この疑惑は法廷では証明されていないが、最高選挙裁判所の自治に重大な疑念を投げかけている。しかし、グアテマラ国民であれば誰でも、この機関の公平性に疑念を抱くのは道理である」と述べた。また彼は選挙プロセスが危機に瀕しているため、この状況は大きな懸念であるとも付け加えている。オレリャーナは、「このような状況では、犯罪捜査を開始し、(贈収賄の疑惑が)存在したかどうか、その理由を究明し、責任者の責任を追及することが適切」で「もし事実なら非常に残念なことだ。これは非常にデリケートな問題だ」と語った。
ニューヨークタイムズにはTSEは「独裁政治を推し進め、再出馬を禁じられている保守派のアレハンドロ・ジャンマッテイ大統領に象徴される現状に異議を唱える可能性のある候補者をすべて落選させた」とも書いている。また残る主な候補者は「政治的あるいは経済的エリートの一部とつながりのある人々」であり、投票用紙の彼らの名前の横には、選挙管理当局によってプロセスから除外された4人の候補者を表すいくつかの空欄があるとも記載されている。この告発はアルファロが米政府高官に話したことに基づくとされている。
マルティネスはアルファロへの賄賂を否定し、彼女と会ったことはないと述べた。彼はまた、選挙に参加できなかった人々がアメリカ大使館と「私を何らかの法的な状況に巻き込もうと」努力していることを知っていると主張するとともに「クリーンで民主的な方法で実施されている選挙プロセスに影響を与えようとしている」と述べるとともに、「なぜアメリカ大使館は検察庁に告発しなかったのか、なぜ彼らは今選挙を不安定にしようとしているのか、なぜこの時期にこのようなことを持ち出すのか」と疑問を呈した。
記事には、アルファロの申し立てに関する国務省のクリスティナ・ティルグマン(Christina Tilghman)報道官の回答も掲載されており「疑惑の会議の存在を確認したり、外交的な話し合いの内容を論じたりすることはない」と述べた。また、ティルマンは『タイムズ』紙を通じ政府は「法律や規則に基づく証拠要件を満たす」汚職疑惑を受けるたびに、制裁措置を講じたり、関係者を処罰していると述べた。
各紙がつたえるところによれば、イデオロギー的背景は異なるものの、排除された候補者のうち少なくとも3人は、グアテマラの政治体制にとって不穏な存在であった。そのうちの一人、カルロス・ピネダ(Carlos Pineda)は、自らをアウトサイダーの実業家と位置づけ、TikTokを利用して世論調査の人気者になった。もう一人の追放された候補、テルマ・カブレラ(Thelma Cabrera)はマヤのマム一族出身の左派で、人口のおよそ半分を占めるグアテマラの先住民族を統一した政治勢力に組織しようとしている。三人目のロベルト・アルズ(Roberto Arzú)は、政治家一族の右派の末裔で、グアテマラのエリートたちの敵として自らを位置づけている。
地元紙『El Faro』と『Con Criterio』は本事象の発生は2022年3月22日午後2時、首都のゾーン10にある旧アメリカ外交本部で行われたと詳細に伝えている。記事には「3人の情報筋によれば、TSEの判事が、彼女と他の本会議メンバーが、前年(2021年)末以来、共和国大統領アレハンドロ・ジャマッテイから賄賂を受け取っていたと語った」という。会議に参加した2人の人物と、公式ルートを通じてそれを知らされたワシントンの第3の情報筋が、El FaroとCon Criterioに、会議が行われたことと、そこで話し合われた内容を確認した “と記事は伝えている。さらに「ある時点で、本会議のメンバー全員に2種類の金の受け渡しがあったことを説明した後、彼らは、ニューヨーク・タイムズ紙がすでに発表したように、現金5万ケツァルが取り出されたのち『この金で何ができるのか』と尋ねた」と付け加えている。
両紙はアルファロは賄賂の証拠として大使館に金を渡すことを望んだが、大使館側は拒否したという。アルファロには、大使館の政務部の役人2人と、彼女が信頼する4人目の人物が同行していた。アルファロの腹心の友は、報復を恐れて名前を伏せることを求めたが、判事は数日前に助けを求めに来たという。最初に二人きりで会い、判事は2021年のクリスマス前後に行われた送金について話したという。「彼女は、ジャンマッテイ大統領の代理として判事を夕食会に招待し、ミゲリート(ミゲル・マルティネス)自身が金の入ったプレゼント包みを渡したと言った」と情報筋は言う。
またEl FaroとConCriterioの報道によると、TSEの5人の判事のうちの1人(身元は明かされていない)は、「ラファ」が行った別の金の受け渡しについても語っている。なおラファとは、2021年8月までTSEの総裁を務めるラヌルフォ・ラファエル・ロハス(Ranulfo Rafael Rojas)のことである。
なお、アルファロに関しても述べている。それによると、同判事は同僚たちから孤立しており、2023年の初めには、弾劾プロセスで彼女を罷免するために必要な票を共和国議会で集めようとする試みさえあった。ブランカ・アルファロ判事は、人民解放運動(Movimiento para la Liberación de los Pueblos:MLP)の大統領二人組の登録を承認しなかった決議において、「私は、テルマ・カブレラ・ペレス候補とジョルダン・ロダス・アンドラーデ候補の登録は認められるべきであると考え、判事総会が下した決定に同意しない」と言ったことについても語っている。
グアテマラ政府は各紙の報道に対し「非現実的、架空、仮定的、虚偽の事実に直面する立場ではない。共和国大統領が最高選挙裁判所の判事といかなる会合も行っていないことを明らかにする必要があり、したがって、わが国の民主主義を弱体化させようとする、傾向的で悪意ある方法による根拠のない非難を拒否する」と述べるとともに「あなた方のメディアが誹謗中傷を助長することは卑劣である。誹謗中傷を助長することは卑劣であり、無責任であることを強調する」と言葉を結んだ。
アルファロは「私は30年間この州にいて、このような問題は何度もあった。人生において、役人を特徴づけるべき第一のものは、真面目さ、国民に対する敬意、公職に対する敬意であり、今、私がすべきことはただひとつ。選挙プロセスを見守り、人々が安心して投票に行けるようにすることだ」と述べ、「これは裁判所に対する攻撃の一部であり、我々は他の攻撃と同じように受け取っている(…)我々が知っているのは、これは全くのデマであり、この問題に関して我々はこのような意味での関係はない」と表明しているという。
このような状況だから国民は「誰が大統領になったところ汚職はやまないし、我々の生活は変わらない」と考えてしまうのだ。これが投票率を下げる理由としても注目されている。
2023年総選挙の投票所スケジュールや持ち物
当日のスケジュールは以下の通りだ。
・すべての投票所は7:00から開場し、18:00に閉場する。
・長蛇の列ができた場合、開門時間が延長される可能性がある。
選挙に行くには忘れず行ったり、持っておくべきものがある。まずは有権者名簿への登録が必要で、登録がない場合には投票することができない。登録がなされていることを確認した後6月25日(日)に投票所へ行くこととなる。当日の持ち物はDocumento Personal de Identificación (DPI)、つまり身分証明書のみである。なおコピーや写真は不可となっている。万一DPIの有効期限が切れていたり、劣化していたりしても、心配はいらない。TSEはそのようなDPIであっても投票を許可しているという。また、DPIを更新したり、新しいDPIを申請したりする必要がある場合には全国人名録(Renap)が用意した特別な時間に行えば45分でDPIを取得することができるようになっている。
外国に住んでいる有権者はどうなるのだろうか。たとえば2023年米国にはグアテマラ人90,000人以上が投票を行う予定でいる。有効なDPIを取得し3月26日以前に登録済み、または詳細情報を更新しているものはdondevotas2023.tse.org.gtのサイトから米国内の投票所を検索することが可能だ。なお、登録の確認は、+502 2236-5600に電話するか、+502 2236-5000(WhatsApp)を通じメッセージを送れば照会可能だ。
米国での投票も現地時間の午前7時から午後6時に行われる。米国は現在各州に15カ所の投票所を用意している。
なお6月25日の現地の天候は晴れるが嵐になりやすいという予報が出ているという。
今回選挙に関するその他の記事はこちらから。
参考資料:
1. Diputados por listado nacional
2. Martínez se retracta por audio de Alfaro; se comunicó con la magistrada
3. NYT asegura en publicación que magistrada Blanca Alfaro habría denunciado a EE. UU. supuestos sobornos de Miguel Martínez
4. ¿La comunicación o relación Martínez-Alfaro amenaza independencia del TSE?
5. Alfaro contradice a Martínez, pero no explica cómo tienen su entrevista con el NYT
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