映画 “コロニア・ディグニダ” の事実を直視できるのか

(Photo:Xarucoponce/ Wikimedia)

「コロニア・ディグニダ(Colonia Dignidad)」はチリの首都サンティアゴ(Santiago)から南に約350キロ離れたマウレ州リナレス県パラルにあるドイツ系移民の入植地だ。アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)を崇拝するナチスの残党が南米に渡った事は、皆がよく知るところで、ここ、ビジャ・バビエラ(Villa Baviera、公式HP)は、ナチスとの関係で現在もその痛みが払拭できぬほど暗い過去を抱えている。

この地にはキリスト教バプテスト派の指導者でカルト教団のパウル・シェーファー(Paul Schaefer)らによって楽園のような共同体が作られるはずだった。むしろ皆そうだと信じていた。労働・秩序・清廉さといった「規範」に基づいているかのように見えたコミュニティの実態は悲惨で、子供に対する拷問、性的虐待は日常茶飯事だった。独裁者が支配するこのコロニアでは洗脳漬けなった奴隷とも呼べる人々が武器の密輸、殺人を繰り返し行った。 またここは軍事政権の拷問施設とも機能した。当時米国から支援を受けていた共和国政権もまた暴力的で大量の市民を意味もなく殺していった。アウグスト・ピノチェト(Augusto Pinochet)大統領のもとこの共同体の実態が公に知られる事は決してなかった。

むしろこの共同体に関する文書の機密指定を解除すると発表したのは2016年のことであり、それ以来多くの人が事件に注目をしている。なお2016年に新たに発表されることになったのはコロニア・ディグニダに関する1986~1996年の文書で。それ以前の文書は既に公開されていた。

当時資料の公開を明かしたドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー(Frank-Walter Steinmeier)外相は「60年代から80年代にかけて、ドイツの外交官はこの共同体に住むドイツ人を保護するためにほとんど何もしなかった」ことを認めるとともに「(チリの)軍や独裁者と共謀してシェーファーが引き起こした惨事」に対する責任こそないものの、ドイツ市民に対して「助言や支援」を行う義務はあったと認めている。

監督のフロリアン・ガレンベルガー(Florian Gallenberger)が本組織犯罪を知ったのは1981年、彼が9歳の頃である。学校で見たリポート映像がきっかけだった。その土地、その施設から逃げることもできず、この時代においてもなお強制労働が存在していると言うことも信じられなかったと言う。込み上げてくる強い怒りという名の感情が人生において消えることがなかったという。

映画を見たコロニアの生存者は映画の正確性を認めるとともに、事実はそれ以上に悲惨だったことを告げたという。監督も映画とのギャップを認めながらもその理由を、よりリアルにすると恐ろしく暴力的になってしまい、映画を見にこようとする人はいなくなっただろうと語る。事実彼がコロニアでの出来事を生存者に取材した結果、想像を超えるありえないことばかりが次々と出てきたという。このような事実を映画には入れることなど、到底できなかった。映画で描かれている内容自体は再現したものであり、実在の事件ではない。しかし、全てが事実に基づいた内容である。シェーファーが死人を蘇らせようとする儀式すら、生存者から聴取をしている。

悍ましい事象はコロニアのみで発生していたわけではない。例えば命からがらコロニアからチリのドイツ大使館へ逃げ込み、国外退去を求め施設で没収されたパスポートの再発行を求めた人々は「全員」コロニアに送り返された。そしてこのような事象は25年も続いていた。

現代もコロニアは存在している。監督がそこに住む協力者からも衝撃的な話を聞いている。その協力者の両親はシェーファーが児童虐待をしている、つまり子どもたちをレイプしてきたベッドを寝るために利用していると言う。それもそのことをとても誇りに思っていると。

1997年、ナチス残党が築いたカルトのボス シェーファーは様々な犯罪を背景にした訴訟を背後に残したままチリから国外へ逃亡。2005年にアルゼンチンで逮捕された。その後チリでコロニアでの児童に対する性的虐待や武器の不法所持、人権侵害の罪で禁錮20年の有罪判決を受けた。2010年に服役中に死亡した。

なお今年は本作品以外にも「コロニア・ディグニダ」に影響を受け作られた作品『オオカミの家』が夏に公開される予定だ。ストップモーション・アニメーションで作られた作品はチリのカルト施設から脱走した少女の身に起きる、悪夢のような出来事を描いている。

 

Update:

ピノチェとColonia Dignidadとの関係については以下ニュースについても述べられている。

 

フロリアン・ガレンベルガー

1972年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ミュンヘン映画・テレビ大学で映画の演出を学び、短編映画の監督としてデビュー。2000年、『Quiero ser (I want to be …)』で第73回アカデミー短編映画賞受賞。2009年には『ジョン・ラーベ ~南京のシンドラー~』を監督。

 

参考文献:

1. チリの「奴隷制」コミューン、独が文書の機密指定解除 元ナチス党員ら設立
2. カルト共同体「コロニア・ディグニダ」にインスパイアされた“美しくもグロテスク”なアニメ『オオカミの家』8月19日公開決定
3. The Dark History of Colonia Dignidad

 

作品情報:

名前:  Colonia
監督:  Florian Gallenberger
脚本:    Torsten Wenzel/Florian Gallenberger
制作国: Germany/Luxembourg/France/United Kingdom
製作会社:Iris Productions/Majestic Filmproduktion
時間:   110 minutes
ジャンル:suspense & drama
 ※日本語吹き替えあり

 

2023年6月9日から順次日本公開。映画に関する他の記事はこちらから。

 

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