(Photo:CIFOR/ Flickr)
世界銀行は調査を通じブラジルの法定アマゾン(アマゾニア)からの搾取よりも、その土地を保護するほうが「経済的にも」理にかなっていることを示した。熱帯雨林は少なくとも年間3170億米ドルの価値がある。その一方、捕食伐採の価値は年間420億米ドルから980億米ドルにのぼる。
アマゾニアはアクレ州、アマパー州、アマゾナス州、パラー州、ロンドニア州、ロライマ州、トカンティンス州とマットグロッソ州、北東部のマラニョン州の一部からなる。その面積は欧州連合(EU)よりも広く、領土は5億200万ヘクタールある。しかし昨今、大規模な森林伐採が進み森林地帯やアマゾニアは急速にその広さを失っている。
En #Brasil, la selva amazónica en pie vale por lo menos USD 317 000 millones anuales, mientras el valor de la explotación predatoria oscila entre USD 42 000 y USD 98 000 millones por año.
— Banco Mundial | América Latina y el Caribe (@BancoMundialLAC) June 7, 2023
Proteger la #Amazonía es lo correcto y es bueno para la economía: https://t.co/FjRxnqjS9c pic.twitter.com/J0rRias7h2
「アマゾニア」はこの地域の経済的および社会的発展の計画方法を模索するブラジル政府の研究に基づき1948年に定義されたが、この地域の生態系は大きく3つに分かれている。37%がカンポ・セハードに属し、40%がパンタナルである。この地域の主な特徴は、 熱帯雨林の大部分に分布する豊富な熱帯性の植生である。
急速な森林破壊で生態系は破壊され、火災が発生するなど大きな影響が出ている。この土地に住む2800万人のブラジル人は4分の3以上が町や都市に住んでいる。一方30万人以上(170以上の民族)の先住民がここに住み、伝統的な狩猟採集社会を形成しているものもいる。海岸から遠く、森深きこの地域は、入植者が最後に植民地化した地域である。また、アマゾニアに住む人の36%は貧困にあえいでいるとされ、ブラジルの中で最も貧しい場所と位置付けられている。
この土地は元来先住民の領土である。植民時代に土地は不法に占拠され、土地やそこに眠る鉱物は搾取され、森林はなくなり、そこに住む人々の人権は軽視されてきた。その構造は現代も変わらず存在する。
世界最後のフロンティアとされる地域は「経済的事由」で急速に破壊されている。2022年8月17日にアマゾン人間・環境院(IMAZON)が発表した内容によると2021年8月から2022年7月の法定アマゾンの森林伐採面積は1万781平方キロとなった。これは統計開始以来の15年間で最大の面積となった。この数字は国立宇宙研究所(INPE)が同月発表した8590平方キロを上回っている。INPEが報告ように利用するDeter(衛星観察システム)が3ヘクタール以上からしか観測できないのに対し、IMAZONの利用する観察システムSADは1ヘクタールから観測可能と精度が高い。
アマゾニアの大規模破壊はボルソナロが大統領になってから顕著になった。INPEデータによると20年以降は僅かにその量は減少したように見えたがIMAZONの発表では増加傾向にある。ボルソナロは2018年の大統領当選依頼、人権を侵害し続け、ルールを軽視し法定アマゾンの開発や先住民居住区での鉱物採掘などを容認する発言を繰り返していた。その結果伐採面積は拡大し金の不法採掘増加などを招いた。特にアマゾニア南東部の「森林破壊の弧」と呼ばれる地域では、多くの伝統的なコミュニティの生活様式が脅かされるなど、地球環境のみならず、その権利は軽視され、搾取が続いている。
アマゾニアは熱帯雨林の約60%、セラードサバンナやパンタナール湿地帯など他の重要なバイオーム(生物群系)の一部を有している。これらの自然景観は、主に森林に覆われた広大な連続地帯からなり、その多くは過去1万2千年にわたる人類の自然地への進出によって、比較的手つかずのまま残されていた。しかし熱帯雨林の破壊が続き、森林火災は増加し、同地域に住む先住民をはじめとする住民の健康や生態系は脅かされ、また、搾取されている。地球温暖化にも深刻な影響を与えている。法定アマゾンでは既に気温上昇や降水量の減少の他、農作物への潅漑が困難になり、収量が減るなどの問題も起きている。
アマゾニアでは、包摂と持続可能な自然資源利用を促進する代替的な開発路線が急務となっている。世銀はこの点において4つの戦略的アクションに焦点を提唱している。これはアマゾンの人々がより高い所得を得るための道を提供すると同時に、自然林と伝統的な生活様式を保護することを目指す多角的アプローチ、バランスである。本報告書に書かれている4つの施策とは以下の通りだ。
1. 農村部と都市部の両方で構造改革を行い、生産性を高めることで、アマゾンの人々の福祉を向上させる
2. 既存の法律の施行(コマンド&コントロール)を含む土地と森林のガバナンスを強化することにより、森林を保護する
3. 立木に関連する自然資本を開放し、貧困層や伝統的な生活様式を保護することで、持続可能な農村生活を促進する
4. 測定可能な森林減少に関連する保全資金を集め、公的・私的資源や市場ベースの解決策を活用する
アマゾニアはブラジルの民のみならず、地球のバランスを保つためにも最重要な存在だ。それは各国も認識をしており、連帯を進めている。例えば今年1月30日、マリナ・シルバ(Marina Silva)環境・気候変動相はアマゾン森林保護など社会・環境問題解決に向け欧州諸国から2億300万ユーロを受領することを明らかにした。同金額のうち、3,500万ユーロは1月1日にルラ政権の下発足したアマゾン基金の運営に充てられる。政権は1月2日付の政令11.368号で同基金への寄付金を公募していた。また、3,100万ユーロは、「アマゾン森林減少阻止・管理計画(PPCDAM)」の推進に向けられる。同計画は、2004年の第1期ルーラ政権下で開始されたもので、森林破壊の減少逓減や持続可能な開発を目指す目的で設立された。同計画のうち537万ユーロが産業界および運輸部門における再生可能エネルギーの促進に充てられるとも伝えられている。
アマゾンの熱帯雨林の年間価値は、少なくとも3,170億米ドルと推定されている。世界の気候を調整し、既知の陸上生物多様性の25%を保有するアマゾニア、そしてアマゾン川は南米の農業と水力発電にも不可欠である。ティッピングポイントに到達するリスクは、森林破壊のコストを劇的に増加させることも調査で分かった。そのためアマゾンの森林を保護することが緊急だと世銀は警鐘を鳴らす。
世界銀行のブラジル担当ディレクターであるヨハネス・ズット(Johannes Zutt)は、「特に一次産品『以外』の分野での生産性を重視することで、国全体の開発が促進され、アマゾンの経済が活性化し、自然林への負担が軽減されるだろう」と述べている。 また生産性の向上には、製品・要素市場の歪みの除去(補助金改革を含む)、人的資本、持続可能なインフラ、物流の促進を含む連邦・州レベルの改革が必要であるとした。フロンティアの拡大は経済を活性化を逆行させるものである。つまり、自然の富の破壊以外の何者でもない。報告書では都市と農村の生産性、森林保護、持続可能な農村生活を同時に促進する開発モデルの下で生活水準の向上と立木の保護は補完し合うことができることも強調されている。
アマゾニアにおける未指定の広大な公有地の指定、森林法の実施、効果的な指揮統制介入(違法森林伐採への対策)など、土地と森林のガバナンスに強く焦点を当てる必要がある。生産性と森林保護の両方への投資などといった補完的な策を用いながら森林の価値を引き出し(例えばバイオエコノミーなど)、ニーズに合わせた社会保護プログラムを通じて、農村部の貧困を削減することも可能だ。保全金融は、地域の価値の一部を収益化することで、ブラジルのアマゾン州の新しい開発モデルの資金調達に重要な役割を果たすことができる。森林減少の測定可能な削減を条件とするパフォーマンスベースの資金調達にさらに焦点を当てることで、市場ベースのメカニズムを含め、官民両方の資源を活用することができる。炭素市場は、ブラジルのカーボンプライシング強化の取り組みと同様に、ますます重要な役割を果たすことができる。
今回世銀が示した報告では森林破壊に対するマクロ経済的要因や、ブラジル政府が進めるアマゾニアの成長モデルに疑問も投げかけ、そのギャップを喚起するものとなった。世銀はバランスの取れた構造改革と森林保護のためのより強力な制度をより重視することを求めている。本報告のより詳細なる内容は別の機会に記載することとする。
2023年3月におけるINPEの報告内容はこちらから。
参考資料:
1. A Balancing Act for Brazil’s Amazonian States – An Economic Memorandum
2. 《ブラジル》法定アマゾン=伐採面積は1万平方キロ超=Imazonの調査で判明=15年間で最大の数字に
3. アマゾン森林保護などに欧州諸国が2億300万ユーロを支援
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