エクアドル国会解散:「Muerte Cruzada」後に何が起きるのか

(Photo @Presidencia_Ec/Twitter)

「Muerte Cruzada(刺し違え)」は、行政府と立法府という2つの国家機能の間で相互に制度を無効化する法的制度の口語的名称である。同日午前7時、全国放送のテレビでラッソは、「これは憲法に則っているだけでなく、エクアドル国民、あなた方に、次の選挙であなた方の将来を決める力を取り戻すという意味で、民主的な決定だ」と述べた。

同政令が与える影響とは、そして今後エクアドルにおいてどのようなことが起きていくのだろうかを見ていくこととする。

まず国民議会はただちに解散することとなる。136人のエクアドル国会議員は、その地位を失い、本会議場と立法本部の事務所を去らなければならない。国会議員には、この措置を拒否する権限はない。唯一このプロセスを止めることができるのは、憲法裁判所に「刺し違えの違憲性」を主張し、それが認められる場合だけである。なお、5月17日の朝、立法本部の職員が立ち退いたことが報告されている。

そして全国選挙人評議会(CNE)は7日以内に、大統領、副大統領、議会議員の新しい選挙の日程を決めることになる。民主化法第87条ではCNEの召集から数えて90日以内に選挙が行われるよう手配することができると述べられている。憲法学者のマウリシオ・アラルコン(Mauricio Alarcón)は選挙は召集から6〜8カ月後にそれが実施されるのではないかと予測している。選挙の実施においては政治主体の資格、内部民主主義、資格など、民主主義法典に定められた各段階が尊重されなければならないことが背景だと話す。各政党は予備選挙など内部プロセスを遵守する必要もある。予備選挙の後は、立候補の登録、そして正式な立候補、そして選挙前討論会が行われる。

立法機能組織法第32条によれば、選挙結果をCNEが発表した15日後に新政府が宣誓することになる。なお国民議会がなく、立法権のない数ヶ月間、大統領は憲法裁判所の賛成意見があれば緊急の経済問題について行政命令を出すことができる。ラッソが本権限を通じて最初に降り出したのは2023年5月11日に経済緊急法案として議会提出していた税制改革を伴う政令法である。これは、所得税や起業家・大衆企業向け簡易レジームの変更、さらに特定分野への加算税などを提案したものだ。減税を行い、エクアドルの46万世帯の経済を強化することを目的とする。この対策で約2億米ドルが彼らに還元されるようになる。経済令であるため、大統領は憲法裁判所に送って裁定を仰ぐという。

エクアドル憲法によると大統領が国民議会を解散させることができるのは以下3つの理由がある場合である。 

1)憲法上その権限に属さない職務を自らに課す場合
2)国家開発計画の遂行を繰り返し不当に妨害した場合
3)深刻な政治的危機や内乱が発生した場合

最初のケースに限り、大統領は憲法裁判所の承認を必要とする。2と3においては大統領権限によって実行可能だ。当初政治学者の一部は、ラッソ大統領は国家開発計画の妨害で刺し違えを主張すると予想していた。なぜなら最も主張しやすいものだからだ。

ラッソこの措置を受けベルギーに亡命中のラファエル・コレア(Rafael Correa)前大統領は、それを正当化するための「深刻な政治的・内政的騒動」があるとSNSで異議を唱え、また、エクアドル先住民族連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas de Ecuador:CONAIE)のレオニダス・イサ(Leonidas Iza)は「自己クーデター」と呼んだ。経済学者で憲法起草議会の元議長であるアルベルト・アコスタ(Alberto Acosta)は、DWの取材に対しラッソの行為は「憲法上の法制度に対する人為的な操作であり、憲法裁判所の審理を受ける可能性がある」と述べた。しかし、「『刺し違え』それ自体は独裁的決定ではなく、憲法上の道具である」と強調した。社会キリスト教党も声明を発表し、その中で、議会解散令に対して違憲の訴えを起こすと発表している。

いずれにせよ刺し違えはこの社会が抱える根本的な問題の解決にはならない。経済的な危機、社会的な危機は前政権から拡大し、さらに、暴力事件も増加している。人口10万人あたりの殺人事件の発生率では、すでにコロンビアを上回っている。
アコスタはエクアドルが非常に複雑な局面を迎えていることを直視し「前政権下で蓄積され、パンデミック時に悪化した問題は、緊縮経済政策にもかかわらず、現政府が答えを出せずにいるため、爆発的なシナリオを生み出している」と述べた。

Muerte cruzadaの可能性は数ヶ月前から議論されていた。2023年5月15日、ギジェルモ・ラッソ政権の法務長官であるフアン・パブロ・オルティス(Juan Pablo Ortiz Mena)は、同大統領令の宣言の準備はできているが、いつ、どのように使用するかは大統領次第であると述べていた。最終的にラッソは、国民議会本会議で自身に対する弾劾裁判が始まった翌日の5月17日午前中に適用することを決定したというわけだ。

刺し違えで解任された議員も、民主主義法典で認められている再選挙の制限に抵触しない限りは再び選挙に立候補することができる。つまりギジェルモ・ラッソにもこの選挙に出馬する可能性がある。今回の選挙は早期選挙ではなく、臨時の中間選挙であるとアラルコンはいう。つまり正規の選挙サイクルである2025年にも選挙が行われることになるというわけだ。

CNEは早期総選挙の暫定日程は8月20日と一旦は設定している。

今回のMuerte cruzadaに関する別記事はこちらから。

参考資料:

1. Lasso decreta la muerte cruzada, ¿qué pasará ahora?
2. “Muerte cruzada” en Ecuador: ¿una salida a la crisis?

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