COP28気候変動サミット:石油原産国による開催は何をもたらすか

(Photo by United Nations Photo/Flickr)

今年の国連気候変動会議(UNFCCC COP28)はアラブ首長国連邦で開催される。期間は11月30日から12月12日である。

COP27では脆弱な国のための損失損害基金という資金調達メカニズムの形成が合された。しかし過去に合意された事項「先進国は2020年から毎年1000億ドルを気候変動対策、生態系移行、排出削減のために割り当てる」といった未だ履行されていない気候基金の合意もあり、実行のたしからしさが疑わしい。合意しただけでは基金が創設されるわけでも、その資金がそれを必要としている人に届くわけでもない。そもそも損害賠償基金とはどのようなプロセスになるのか、どの国が利用できるのかが不明である。唯一決まっているのは、「この基金の明確なロードマップを持ってCOP28に臨むということであり2023年3月末までに会合すべき移行委員会を設置する」ということのみとなる。COP27におけるサメ・シュクリ(Sameh Shukri)外務大臣は「シナイ半島の砂漠と紅海の間にあるエジプトのリゾート都市、シャルム・エル・シェイク(Sharm el-Sheik)の適応のためのプログラムで、2030年までに最も気候的に脆弱な地域に住む人々の回復力を向上させる」ことを発表、国連気候変動常設委員会の財務担当委員会に対し、適応資金の倍増について報告し、今年のCOPで検討するよう呼びかけてはいた。

 

ラテンアメリカにおける気候変動融資への取り組みはどうだろう。

世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)のマネージング・ディレクター兼プログラム担当副社長であるクレイグ・ハンソン(Craig Hanson)によると、「10月の選挙で勝利したルラは、特にアマゾンでの森林破壊対策に重点を置いた意欲的な環境政策を打ち出し、一気に期待を高めた」。ルイス・イナシオ・ルラ・デ・シルバ(Luís Inácio Lula da Silva)のCOP27への参加(詳細はこちら)は「ロックンロール・バンドに匹敵するようなホットなチケットになった」と振り返り、「これから6ヶ月間、それをどう活用するかが私たちの課題だ」と、気候問題の分析を行うハンソンは語った。ハンソンは労働党(ルラの政党)が議会で多数派を形成できていないことから「森林破壊を食い止めるという約束を迅速かつ早期に示す必要がある」とも述べている。WRIのCEOアニ・ダスグプタ(Ani Dasgupt)は「ルラは、既存の法律をどのように執行するかを考えなければならない。ブラジルの森林破壊の98%は違法だ。森林を保護するためにはるかに多くの資金が必要だ」と述べ、ラテンアメリカが2030年までに緩和資金の必要量を達成するためには、6倍の資金が必要だと述べる。現在、途上国にとって大きな問題となっているのは高金利であり、一部の国では借入コストが10%を超え、プロジェクトの実現が不可能になっていると同氏は指摘する。

コロンビアのグスタボ・ペトロ(Gustavo Francisco Petro Urrego)もまた森林破壊に強い関心を持つ指導者の一人であり、一方ロシアによる影響が、ロシアがウクライナ戦争を通じて「エネルギーの兵器化」をおこなったと語るダスグプタは、その戦争が世界のエネルギー転換を加速させるのか、それとも天然ガスへの投資が続く中で減速させるのか、まだわからないと語っている。事実ドイツは昨年、ロシアのガス輸入削減と引き換えに電力用石炭の使用量を増やしている。

 

COP28議長が世界最大級の国営石油会社のトップ、スルタン・アル・ジャベール(Sultan Ahmed Al Jaber)であることは、会議参加の世界組織(400以上)にとって懸念される問題である。2021年に1日あたり270万バレルの石油を汲み上げ、2027年までに生産量をほぼ2倍の日量500万バレルにすることを目指している同CEOが本気で気候危機への取り組みに専念できるのだろうか。

アドノック(Adnoc)のウェブサイトには、「我々は新興の上流企業であり、UAEの未開発の石油とガスの可能性を探ることに専念することを使命としている」と書かれている。スルタン・アル・ジャベール2027年までの目標を2カ月前の2030年から前倒しもしている。そもそもCOP27においてはこの手の石油をネタに大儲けをする団体の参加者数は過去最多となると共に、最も大きな集団を築き、必死にロビー活動を行なっている。スルタン・アル・ジャベールの就任は「がんの治療法に関する会議の監督にたばこ会社のCEOを任命するのと同じこと」と化石燃料の使用を完全に止めることを求める350.orgのグローバルキャンペーン責任者であるゼイナ・カリル・ハジ(Zeina Khalil Hajj)は語る。

アムネスティ・インターナショナルの気候アドバイザーであるチアラ・リグオリ(Chiara Liguori)も「COP28で炭素排出量の削減と気候正義の実現に向けた迅速な進展が期待されているすべての人々にとって、残念な人選である」と述べた。

アル・ジャベールは国営石油企業アドノックのCEOのみならず、もう一つのミッションも持っている。それは現在40カ国以上で活動している再生可能エネルギー企業マスダールの会長でもあると言うことだ。2006年に設立されたマスダール(Masdar)は、主に太陽光発電と風力発電のプロジェクトに投資しており、その総容量は15ギガワット、年間1900万トン以上の二酸化炭素排出量を削減することが可能だ。アドノックと同様、マスダールも野心的な計画を持っており、2030年までに発電容量を100ギガワットまで増やし、さらに数年後にはその2倍にすることを目指している。なおアル・ジャベールはUAEの産業・先端技術大臣も務めている。UAEは、石油やガスの生産で経済が成り立っている国としては珍しく、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを公約に掲げている(UAEは1110億バレルの原油埋蔵量が確認されている)。なおアル・ジャベールは10月に開催されたアブダビ国際石油展・会議での講演で「世界は、得られるすべてのソリューションを必要としている。石油とガス、そして太陽光、風力、原子力、水素、さらにまだ発見され、商業化され、配備されていないクリーンエネルギーのことだ」と述べている。彼のCOP28への意気込みは「我々は、気候変動と低炭素経済成長のための変革的進歩を実現する、実用的、現実的、解決志向のアプローチをもたらすだろう」という言葉によっても表れている、そう語るのはUAEである。

 

産業革命以前の水準から気温上昇を1.5℃に抑えるという目標を達成するには、2019年比で43%近い削減が必要だと科学者が述べる一方、昨年の国連の評価では、現在の政策では2030年までに排出量が2010年比で11%増加することが示されており、会議の開催はもとより、早急なる行動の実行が必要だ。

原油の国際指標である北海ブレント原油先物は3月3日、前日比3%下落し一時1バレル82ドル台となった。これは米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がUAWの石油輸出国機構(Organization of the Petroleum Exporting Countries:OPEC)からの脱退可能性を伝えたことによる。背景にイエメン情勢についてOPECを主導するサウジアラビアとの対立があるとされている。

 

気候変動サミットに関する情報はこちらから。

 

参考資料:

1. Temas pendientes para la COP28
2. Lula seen leading LatAm’s climate financing push
3. Los cuestionamientos a la COP28
4. COP28: Why has an oil boss been chosen to head climate summit?

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