(Photo by Yzx/Wikipedia)
メキシコ政府は世界で最も有名なホホジロザメのケージダイビングの無期限停止を発表した。カリフォルニア州バハの沖合約160マイルに位置する火山性の離島、グアダルーペ島(Isla Guadalupe)周辺においてはサメに関する観光活動は今後できない。この決定はダイビングのみならず、スポーツフィッシング、ドローンを使った上空からの観察も中止となる。COVID-19のパンデミック前の2019年は、サメ観光に約2,800人の観光客が訪れている。2014年にシャークケージダイビングを提供していた船舶運航会社数は6社だったが2019年になるとその数は10社に増えていた。この観光アクティビティは、この地域に経済的メリットをもたらしている。
2005年、メキシコ政府はグアダルーペ島とその周辺の海域を生物圏保護区に設定している。そのおかげもあり、ホホジロザメの個体数はこの島周辺で増加している。この島の沖合は透明度が高いため、サメと獲物候補が互いによく見える。だから人気が高い。ホホジロザメは現在絶滅危惧種として登録されてはいない。しかし国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature:IUCN)は1996年にレッドリストを通じてサメを絶滅危惧種に指定していた。
ホホジロザメは繁殖能力が低く、成長速度も遅い。また、気候変動や自然の生息地の破壊がサメの生息数に悪影響を及ぼしていた。しかし、ホホジロザメにとっての最大の脅威は、混獲として漁網に引っかかるというものだ。また、トロフィーとして意図的にサメが捕獲されていたという歴史もある。上述の通り漁業から保護するための措置が取られた結果、ホホジロザメは北東太平洋とインド洋で生息数が増加した。一方、北西大西洋と南太平洋では生息数が減少していると推定されている、そうIUCNは述べている。今グアダルーペ島周辺においてオスは毎年、妊娠したメスは2年ごとに秋と冬に戻ってくるようになっている。それはこの島の周辺は温暖で、アザラシやクロマグロなど多様な海洋生物が住んでいる。
ホホジロザメはスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の出世作『JAWS』の主役としても有名だ。これはサメの中でも人を襲った記録が多いことによる。英語圏では「Man eater shark(人喰いザメ)」としても知られる。
生息地、行動、餌場が変化することを避け、種の保護と保全を図ることを目的としたホホジロザメの観察禁止令は2023年1月10日に施行された。しかしこのような施策は初めてのことではない。2022年5月から2022年末まで「持続可能な最善の方法」の情報収集を目的とし政府はスポーツフィッシングとシャークウォッチングを停止していた。
ケージダイビングにおいては賛否両論があった。「管理された環境」におけるホホジロザメの観察はサメの保護活動になると考える人もいる。しかし、他の科学者はサメを使ったケージダイビングには、長年にわたる倫理的な懸念があり、ここでも他の地域でも、まだ適切に対処されていない。サメの行動が変化する理由として、餌付けやチャミングウォーターが指摘されている。
ホホジロザメは個体によって大きさが大きく異なる。上下の長さがほぼ等しい三日月型の尾鰭を持つサメは全長4.0-4.8メートル、体重680-1,100キログラムが平均的な大きさとはされている。その一方体長7メートルに達するものもいる。オットセイ、アザラシ、イルカなど海生哺乳類を食すホホジロザメは体重の30%程度の重量を食べると満腹になるといわれている。ホホジロザメは泳ぎ続けないと呼吸ができない。日頃はエネルギーの消耗回避のために尾鰭を止めゆっくり泳いでいる。しかし狩りの際にはターゲットの真下から時速40キロで一気に上昇し獲物を狙う。なおホホジロザメはニオイと音波を元に200メートル先の獲物をも感知ができる。鋭利な正三角形の歯は皮や筋肉を切断するのに適した形状で、一噛みで約14キログラムの肉塊をも食いちぎるとされている。3列に並んだ歯は再生可能で欠けたり抜け落ちたりすると、すぐに後ろの歯列がせり上がってきて古い歯列を押し出し入れ替わる。
無期限の禁止措置のため各ツアー会社は返金等に追われている。Be A Shark社などは「ケージダイビング船は最も実用的な監視手段であり、独立した観察者や研究者が常に費用対効果の高い方法でサメにアクセスできる」方法だとインターネットを通じ声明を出している。同社は「この極めて重要な場所でホホジロザメの監視を継続できるよう、当局と交渉して方針と手続きを実施する」と述べている。中にはサメ(とその周辺環境)の保護が目的の禁止令はその意思に反してネガティブに働くのではと考える者もいる。海における監視者(ツアーオペレーター)の不足は密猟者を産み、サメの違法搾取につながるのではないかという懸念による。
グアダルーペ島の人たちは、このアクティビティの再開がすぐにもたらされるとは考えていない。決定の変更には何年もかかる。25年以上前に閉鎖されたセドロス島における観光もまた政府は再開の必要性を感じていない。ニュージーランドはサメのケージダイビングの活動を2018年に禁止している。メキシコ同様サメをおびき寄せるための餌やターゲットがサメの行動を変化させており、サメや人にとって危険である可能性があると考えたからだ。野生動物と人間との必要以上の接近は生存含め各々のリスクとなる。
参考資料:
1. Mexico Bans Great White Shark Tourism
2. Mexico indefinitely bans great white shark cage-diving at this tourist hotspot
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