社会問題:環境配慮とファッション、どちらも重要なのである

ハイドロ・フラスク(Hydro Flask)はいまずもがな、液体保存のためのステンレス製容器のことだ。スポーツ用品店では他の製品と一線を画すほどの人気で、ファッションの一部として、そして環境配慮に向けたファッションアクセサリーとして支持されている。

ハイドロ・フラスクが登場したのはシングルウォールのステンレスボトルとハードプラスティックボトルが主流だった時代だ。ハイドロ・フラスクはプラスチック製品に使われる化学物質ビスフェノールAからの健康被害を懸念し登場した。

ハイドロ・フラスクは、トラビス・ロスバッハ(Travis Rosbach)と当時の彼女シンディ・ウェーバー(Cindy Weber)が開発した。ロスバッハが元々利用していた金属製のボトルが気に入らなかったことによる。彼が持っていたGSIのボトルはかさばり冷凍庫に入りにくく、口が狭いことから角氷も入りにくかった。klean kanteen(クリーンカンティーン)は唇の形が合わず、水が顔に垂れてきたと、彼は振り返る。アウトドア文化が盛んなオレゴン州ベンドに移り住んだ二人は、ファーマーズマーケットで開発したボトルを売り出した。それはキャンプやハイキングに行く人たちから支持され、爆発的に知れ渡るものとなった。ロスバッハは、中国での製造工程を学ぶ必要があったこと、初期の4万本のボトルが錆びたり、断熱材がない状態で届いたことなど、成長過程での苦悩を振り返るが、地元の熱意によって継続できたと振り返る。会社の成功は夫婦の関係を崩壊させた。ロスバッハとウェーバーは別れ、持ち株をベンドの投資家に売却した。ウェーバーは「成長の維持には売るしかない」と考えていたと言う。長年にわたってハイテク企業の経営に携わってきたスコット・アラン(Scott Allan)は2012年に社長兼最高経営責任者に就任した。

スコット・アランの下、ハイドロ・フラスクはヨーロッパでの販売を開始、外出先でも使えるバックパック型の水筒などの新商品を発売した。ソーシャルメディアでの存在感を高め、インフルエンサーによるプロモーションを確保した。2016年になると消費財コングロマリットであるヘレン・オブ・トロイ(Helen of Troy)によて買収された。この出来事はハイドロ・フラスクをより広く世界に知らしめた。当時の買収額は約2億1千万ドルだった。

 

ハイドロ・フラスクをバックパックに入れられることなく。手で持ち運ばれることも多いとされる。ハイドロ・フラスコは、自分のアイデンティティを示す機会であると同時に、主張することとなるからだ。若者は、ステッカーやオリジナルのアートワークでハイドロ・フラスクをパーソナライズする。SNSを通じそれが共有することで、ハイドロ・フラスクのトレンドはさらに加速していった。ジュリアン・ハフ(Julianne Hough)、ジェナ・ディーワン(Jenna Dewan)、ジョナ・ヒル(Jonah Hill)などの有名人もワークアウトの後や街中で同製品を携帯していると言う。

ハイドロ・フラスクの多様な製品群は、すでにそれを持っている人に追加購入の機会を提供する。CJS証券のアナリスト、ロバート・J・ラビック(Robert J. Labick)はハイドロ・フラスクが提供する限定シリーズや、色やアクセサリーの組み合わせは「もう1つだけ」という感覚を生み出すと分析する。専用アクセサリーとして提供されるキャップはボトルの雰囲気を変えるのみならず、希望に合わせた利用を可能とする。

気候変動の影響に対する懸念は、思考停止している大人ではなく、むしろ10代から20代の間で共有され、自分たちの未来を守りたいという思いに突き動かされた活動家の波を生み出している。2019年のワシントン・ポストとカイザー・ファミリー財団の世論調査によると、10代のうち7人以上が、気候変動が自分たちが生きている間に目に見える影響を及ぼすと信じていることがわかった。リサイクルもいいけれど、それは二の次で「まずはゴミを減らすことから始めよう」と呼びかける人もいる。そのようなブームもありハイドロ・フラスコは、アメリカ人の健康やセルフケアに対する注目度の高さからも恩恵を受けている。

 

市場調査会社Mintelによると、健康関連製品およびサービスに対する米国の消費者支出は2013年から2018年にかけて27%急増し、すぐに減速することはないと予想されている。このカテゴリには、医療や精神的な活動だけでなく、運動や健康的な食事、そして十分な水を飲むことも含まれる。

ハイドロ・フラスクは特に保冷力に優れているとして人気がある。ステンレスが二重になった真空断熱構造からなるボディのスペックは保冷で最大24時間、保温は最大6時間となっている。外気の影響を受けにくいので、結露することもない。ボトル表面の特殊なパウダー加工は濡れた手で持っても滑りにくくすると言う工夫によるものだ。上述の通り特別な時に出される絵柄や企業とのコラボレーションが話題を呼んだ。ハワイでものすごいブームを引き起こしたのはパンケーキで人気の「エッグスンシングス」、「ホノルルコーヒー」、フレッシュレモネードを提供する『ワウワウハワイアンレモネード』など、ハワイを代表するショップとコラボレーションしたことによる。かつてスターバックスのタンブラーがそうであったようにお土産として各国に持ち帰られることで世界における認知度が一気に高まった。販売店では自分好みにカラーリングできる「カスタムイベント」なども行われている。ハイドロ・フラスクはその保温性にもならず味移りがないと言う評価も得ている。クロム18%、ニッケル8%(18/8プログレードステンレス鋼)を使い造られたボディはボトルへの臭い移りや味移りも防いでくれる。また、ステンレスの中でも特に錆びにくくて強度も高い。

上述の通りファッション性やアイデンティティを伴う同製品はアウトドア、スポーツショップのみならず、ファッション専門店でも扱われている。2022年にはメキシコ・オアハカをイメージしたカラーのボトルが登場した。例えばDew(デュー)は神秘的に石化した滝のように静かで心地よいイメージを、Mesa(メサ)は美しい崖の深さを表現し、Lupine(ルパイン)では花木やサボテンの多様な風景を表した。

 

参考資料:

1. Hydro Flask started out at farmers markets. Here’s how it got so huge
2.【Hydro Flask® 春夏の最新色】メキシコ・オアハカの神秘的な自然をインスピレーションにした、鮮やかな3色が登場。

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