ブラジル大統領選2022 : ルーラが勝てばクーデター、ボルソナロ派の実業家家宅捜索へ

(photo by Jeso Carneiro

 

コロンビアに次ぎ、今年ラテンアメリカで焦点となるのはブラジル大統領選である。選挙管理を担う高等選挙裁判所(Tribunal Superior Eleitoral:TSE)によると、大統領選挙に向けて12人が登録している。今回の戦いは、現職で元軍人のジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)と、2003年から2期8年大統領を務めた左派のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)の一騎討ちとなる予定だ。

選挙運動は8月16日に開始されている。一方政見放送は26日に開始となる。世論調査によると両者の差は縮まってきているものの、ルラの支持の方が現時点では多い。

https://twitter.com/CentralEleicoes/status/1562035545819283456

そんな中、ブラジル最高裁判所判事は24日、10月2日の選挙でルラが勝利した場合にクーデターを起こすとし準備を開始したボルソナロ大統領支持者8名(各々億万長者だが)の操作とネットワークの遮断を指示した。

これらのメンバーはWhatsappグループを通じてルラが勝てばクーデターを起こすとしていた。家宅捜索は、フェイクニュースを流布し民主主義を損なったとして大統領を調査している連邦最高裁判所(Supremo Tribunal Federal:STF)のアレクサンドル・デ・モラエス(Alexandre de Moraes)によって命じられたものだ。判事は高等選挙裁判所の長でもある。

ボルソナロは選挙制度やコロナウイルスの流行について独自の主張を繰り返し、議会や連邦最高裁判所の閉鎖、自己クーデターを求める支持者を正当化したが、彼によるとこれらはすべて「表現の自由」の一環であるということだ。今回の家宅捜査に際してモラエスはまた、ソーシャルネットワーク上で調査対象者のアカウントをブロックし、彼ら全員の銀行とテレマティックスの秘密を破るよう命じ、ブラジルの民主主義への脅威について声明を出すよう命じている。

ボルソナロは自身の支持者によるクーデター計画を「表現の自由」の一部だとした。ボルソナロは側近の一人から本作戦に関する報告を受け取っていた。また、彼自身もTVグローボ(Globo)のニュース番組「Jornal Nacional」40分間出演し、盟友ドナルド・トランプ(Donald John Trump)の真似をし、ルラが勝った場合、選挙結果を無視するという話をしていた。彼が選挙結果を受け入れる条件は選挙が「クリーン」であることだ。なおボルソナロは、2014年の選挙で苦情があった、ブラジルの電子投票箱は「監査する能力がない」などと歪んだ情報を繰り返し、選挙制度に再び疑惑を何度も投げかけている。この番組は国内で最も視聴率が高く、900万人がみている。

 

疑惑の実業家は以下の通り。
名前/企業名
ルチアーノ・ハング(Luciano Hang) /ハバン(Havan)
マイヤー・ジョセフ・ニグリ(Meyer Nigri)/テクニサ(Tecnisa)
アフラニオ・バレイラ・フィーリョ(Afranio Barreira Filho)/ココ・バンブー(Cocobambú)
イワン・ヴロベル(Ivan Wrobel)/W3 エンジニアリング(W3 Engenharia)
ホセ・アイザック・ペレス(José Isaac Peres)/マルチプラン・ネットワーク(Multiplan)
マルコ・レイモンド /モルマーイ(Mormaii)
ルイス・アンドレ・ティソ(Luis Tissot)/シエラグループ(Sierra Group)
ホセ・コウリ(Jose Koury) /バーラワールドショッピング(Barra World)

 

各々詳細を見ていこう。


2022年の「フォーブス」億万長者ランキングでは、ブラジル人富豪の第10位に挙げられている。公開された財産は48億米ドルで、世界の富豪ランキングの586位に位置する。サンタ・カタリーナ州出身の59歳、極右の実業家ハングは2018年から選挙活動に携わっている。バイラルビデオで野党と対立することでボルソナロを支持してきた。彼はドアに自由の像があることで有名なハバンの店を経営している。なおボルソナロの最も強固な擁護者の一人である彼は、COVID-19に対して効果のない治療法に関する虚偽の情報を流した疑いがある。それにより上院のCOVID-10 CPIによる調査の対象になったこともある。

ハングは幼い頃から祖父や両親が働く工場で働いていた。営業マンに昇進し、23歳の時、廃業することになった小さなタオル工場を買収、その後韓国へ行き、生地を輸入した。1986年、24歳だったハングはブルスクにハバン1号店をオープンした。生地の扱いはその後、加工商品も扱うようになった。

 

セアラ州最大級のレストランチェーン「ココ・バンブー・グループ」を経営しているフィーリョは同州出身。祖父が所有していた古い邸宅を改装し、貸し部屋や店舗、夫婦で作った小さなパティスリーなどを備えた商業エリアとしてスタートしたシーフード専門店だ。2001年にオープンしたこのビジネスは、現在では17州数十店舗を展開。100万ドルの利益を上げるブランドへと発展している。食の世界に入る前は教育分野で長年働き、会社員として、そして建設会社のオーナーとして働いていた。

 


リオ・グランデ・ド・スル連邦大学(Universidade Federal do Rio Grande do Sul:UFRGS)を卒業した医師は1970年代に衣料品とサーフィン用品を取り扱う会社モルマイを設立した。現在のブランドは、この分野では世界最大級だが、ライセンスやフランチャイズ(30店舗)にも力を入れている。2011年には、州議会から「サンタ・カタリーナ市民」の称号を授与されたが、4年後に取り消されている。

 


ショッピングセンター「マルチプラン」の創業者である実業家は、リオデジャネイロの南地区イパネマ出身で、22歳のときに最初の会社である不動産開発会社ヴェプランを設立した。当時は、旧国立経済大学(現リオデジャネイロ連邦大学経済学部)の学生だった。

ペレスが不動産投資を始めたのは、ブラジルで不動産業がまだ黎明期だった頃で、当初は、都心から遠く離れた場所での事業に賭けていた。例えば、サンパウロの「イビラプエラショッピング」、ベロオリゾンテの「BHショッピング」、リオデジャネイロの「バラショッピング」、リベイラオプレトの「リベイラオショッピング」、ブラジリアの「パークショッピング」などを作った。また、中南米初の投光式ゴルフコース、サイクリングコース、ヘリポート、レジャークラブを備えた高規格住宅コンドミニアム「バラ・ゴールデン・グリーン(Barra Golden Green)」をバラ・ダ・ティジューカ(Barra da Tijuca)に立ち上げたている。2022年4月、リオデジャネイロ商業協会によるアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

 


土木技師のマイヤーは1977年にサンパウロに設立された不動産会社「テクニサ」の創業者である。2007年2月に上場した同社はこれまでに730万平方メートル以上の企業を270件立ち上げ、4万戸のフラットを含む46,500戸以上の住宅を供給した。

 


ポーランド系ユダヤ人の家系の子孫である実業家はリオデジャネイロの南部地区を中心に開発を行う建設会社W3 Engenhariaを1977年に設立。同企業はショッピングセンターや商業施設、住宅など、100以上のプロジェクトを手がけてきた。

 


高級家具チェーン「シエラグループ」の創業者は、セラガウチャの木製品製造の伝統ある家系に生まれた。ショールームがあるグラマド市では、観光とともにビジネスが発展していった。1990年にイタリア人デザイナーによる高級家具の輸入代理店としてオープンしたSierra Móveis社は、現在ではチェア、ソファ、アームチェアなどを製造している。国内に70以上、チリ、アルゼンチン、パナマなどの国々にも販売拠点がある。

2018年、シエラグループは訴訟の対象となった。労働公社(MPT)へ選挙強制があったことによる。MPTによると、この実業家は従業員に投票意思を表明する手紙を転送し、自分の支持する候補者に投票する理由と他の政治的潮流の候補に投票しない理由を記載したそうだ。

 


リオデジャネイロの西地区レクレイオ・ドス・バンデイランテス(Recreio dos Bandeirantes)にある商業・レジャー施設「Barra World Shopping」のオーナー。ここはエッフェル塔やビッグベンなど「各国の建築物や主要なモニュメントを再現した世界初のテーマ型ショッピングモール」を自称し、400以上の店舗が出店している。

 

大統領選は10月2日に行われる。万一1回目の投票で過半数を獲得する候補者がいなかった場合、10月30日に決選投票が実施される。ルラ・ダ・シルバは次期大統領として依然有力だ。しかしルラとボルソナロの差は徐々に縮まってきている。8月1日に発表されたDatafolha世論調査によると、労働者党のルラ・ダ・シルバが47%で1位、自由党ボルソナロが32%で2位となっており、その差は現在15%ポイントだ。7月末の時点で両候補の差は18ポイント、5月には21ポイントあった。万一両者が決選投票にまわればルラとボルソナロは各々54%、37%の支持を得られるという結果が出ている。

 

ボルソナロ大統領に関する記事はこちらから。

 

参考資料:

1. Allanaron a 8 empresarios bolsonaristas por preparar un golpe en Brasil
2. ‘Já imaginaram se eu cassasse todos que me xingam no Whatsapp’, diz Bolsonaro sobre operação contra empresários
3. Quem são os empresários que defenderam golpe de Estado em mensagens de WhatsApp e viraram alvos de mandados do STF
4. Quem são os empresários alvos da PF após mensagens sobre golpe
5. Elecciones en Brasil: Bolsonaro mejora en las encuestas

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