エクアドル:投資ポートフォリオに水力発電所10基を追加

(photo by Discasto

エネルギー鉱山省が8月26日(金)に発表した声明によるとエクアドルは10基の新しい水力発電所プロジェクトを立ち上げる予定だ。これには、約15億2200万の投資を必要とする。
25〜150メガワットの中容量のものを建設予定で、アマゾン地帯に5つ、太平洋岸の斜面に5つあり、合計で640メガワットを出力する。

https://twitter.com/RecNaturalesEC/status/1563272869819207683

 

エクアドルのエネルギー・鉱山大臣であるハビエル・ベラ(Xavier Vera)は、ポートフォリオの説明にあたり「エクアドルの電力システムの安全性を保証するため、電力生産の望ましい補完性を可能にするプロジェクトを国内のさまざまな地域で開発することが計画されている」と述べた。また、エネルギー鉱山省は、この国における水力エネルギーのポテンシャル評価が40年ぶりに更新されることを発表した。40年前の調査は国立電化研究所(Instituto Ecuatoriano de Electrificación:INECEL)が実施した。それによると少なくとも6,000メガワット以上の水力発電のポテンシャルが確認されている。さらに出力25メガワット以上の水力発電所の開発に適した場所として、108カ所が特定された。選定された土地からリスク変数や既存プロジェクトを除外し、技術、経済、社会環境、リスク、全国相互接続システムとの相互接続の観点を加味した結果、設置場所として最適な20のサイトが優先的に選択された。そのうち10件がこの度経済・環境分析が行われプロファイルが作成される。本調査はエクアドル電力公社(Corporación Electrica del Ecuador:CELEC EP)がエネルギー鉱山省と連携し、エクアドル国民に安定した電力サービスの提供を今後数十年保証することを目的とし実施された。新規発電プロジェクトの開発計画の一環とである。

エクアドルは排出する温室効果ガスの削減を目指している。2016年の気候変動に関するパリ協定においても同国は2025年までに総排出量を2010年比で9%削減することを目標としている。そのための政策が汚染の激しい熱電発電所の代わりとして水力発電所を作ると言うものだ。 水力発電はエクアドルのエネルギーセクターにおいて最も費用対効果が高く、低排出量の技術の一つであることは調査でわかっている。

しかし今回の発表に際しては国内外の科学者は水力発電所設置に際する同国を取り巻く気象条件に関する変数が十分加味されていないのではないかと警告している。つまり気候変動の影響に関する不確実性が水力発電の能力を阻害する可能性があると考えているのだ。

その一人が、キト・サンフランシスコ大学環境工学科(Ingeniería Ambiental de la Universidad San Francisco)のレネ・パラ(René Parra)教授で、昨年4月に発表した「エクアドルにおける電力CO2排出係数抑制のための非再生可能エネルギー源の貢献度(Contribution of non-renewable sources to limit electric CO2 emission factor in Ecuador)」の中でも、降雨パターンの変動で水力発電能力が大きく変動すること、その結果エクアドルの川の流れも変化する可能性があることを警告している。「エクアドルの水力発電の設計では、気候変動に対する脆弱性が十分に考慮されていない」と述べた。

パラはPlan Vのインタビューで、2009年末の干ばつが水力発電の能力に深刻な影響を与え、停電にまで至ったことを振り返った。パウテ水力発電所は降雨不足で稼働が不可能になったことを当時のエネルギー当局が発表している。

2019年1月、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)とナショナル・ポリテクニック・スクール(National Polytechnic School)の研究チームも「水力発電、脱炭素、気候変動に関する高い不確実性:エクアドルの電力セクターパスウェイモデル(Large hydropower, decarbonisation and climate change uncertainty: Modelling power sector pathways for Ecuador)」という研究で、エクアドルの水力発電所について同様の警告を発している。

気候変動は世界的な問題であり、決して他人事ではない。1960年から2010年までの降雨量と気温の歴史的推移が、それを証明している。国内の4つの地域(コスタ、シエラ、オリエンテ、ガラパゴス)全てで平均気温の上昇を記録している。海岸では0.6℃、高地では1.1℃、アマゾンでは0.9℃、最も上昇したのはガラパゴス諸島の1.4℃であった。同様に、4地域のうち3地域で降水量が増加しており、沿岸部では33%、高地では13%、ガラパゴスでは66%である。アマゾンのみ降水量が1%減少している。

エクアドルでは過去の大雨により合計40,860㎢にも及ぶ広大な地域が浸水した。これは国土面積の15.9%に相当する。2019年第1四半期には「過去の平均値」を大きく上回る降雨量を記録しグアヤス(Guayas)県、エル・オロ(El Oro)県、サントドミンゴ・デ・ロス・ツァチラ(Santo Domingo de los Tsachilas)県、エスメラルダス(Esmeraldas)県が洪水喚起地域となった。また今年2月にも大規模洪水がピチンチャ県で発生し、大きな被害が出た(詳細はこちら)。

一方、激しい干ばつも発生しており、農業面積は203万ヘクタール、国の総農業面積の66.7%が影響を受けている。干ばつの影響を受けた耕作牧草地は210万ヘクタール、全牧草地の53.7%を占めている。

 

エネルギー政策にあたっては、経済発展のみを考えることなく生態系とのバランスをとることが必要だ。

10基の水力発電所設置に向けた取り組みは、大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)が発布した政令238号のガイドラインに沿って、官民パートナーシップ(PPP)のもと行われる予定だ。政令238号は昨年一時物議を醸していた。電力システムの民営化を政府は目指すのではないかと市民社会が考えたからだ。

ラッソが当時説明したところによるとあくまで本政令は電力システムの統合でより多くの電力生産を目指そうとするためのものである。なお同国のエネルギー開発の将来ビジョンは政令238号と239号で規定されている。

 

 

参考資料:

1. Se actualiza la evaluación del Potencial Hidroenergético del país después de 40 años
2. Mandatario Guillermo Lasso emite decreto con reformas a reglamento de ley del servicio público de energía eléctrica
3. El presidente Guillermo Lasso aclara que no pretende privatizar el sector eléctrico y explica algunos detalles del decreto 238
4. Gobierno invertirá en 10 nuevas centrales hidroeléctricas
5. Hidroeléctricas en Ecuador: ¿a espaldas del cambio climático?
6. Large hydropower, decarbonisation and climate change uncertainty: Modelling power sector pathways for Ecuador

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