コトパクシ(Cotopaxi)のいくつかの地方教区で約80頭もの羊の惨殺死体が見つかった。その死体には、無秩序な攻撃パターンが見られ、いくつかの部分は引き裂かれていた。この事件はその残忍さから先週ソーシャルメディア上で話題になった。エクアドルの環境・水・生態系移行省(Ministerio del Ambiente, Agua y Transición Ecológica de Ecuador:MAATE)はこの事件は野良犬によるものであると発表した。
野良犬とは飼い主がなく、人家の周りをうろついて残飯などを食って生きる犬で、もともとは人に飼われていたものである。人間が犬を外飼いしたり、去勢をすることなく放し飼いにした結果野良犬は生まれている。つまりエクアドルにおいては人間の怠慢が故にこのような憂慮する事態が発生している。エクアドル野生生物保護協会(Wildlife Conservation Society Ecuador:WCS)のガロ・サパタ(Galo Zapata)によれば、飼い犬であっても、適切な餌を与えられず、ワクチンや避妊手術を受けておらず、特に農村部では野放しになっているため、問題の一因になっている。
犬は野生種と縄張りや獲物を争っており、ジステンパーや疥癬などの病気を媒介することもある。また、小型の肉食動物や哺乳類、爬虫類、両生類も襲う。ちなみに野犬は生まれた時点で人から離れて山野に住み着いていて鳥獣を捕食し暮らしていて、飼い主のもとで飼われた経験がない。エクアドルでは、野犬がコンドルなどの野生動物の腐肉を食べていた。
農耕動物が襲われると、ピューマなどが犯人として疑われ狩猟が始まるなど、農村社会が混乱する。野生のネコ科動物は生息地の減少や破壊で餌が身近になくなったことによりにより、羊を襲うことはある。ただ農耕動物を襲う犯人の多くは犬である。コトパクシの襲撃事件でもSNSや一部のメディアが流した偽情報によって、ピューマが犯人だとエクアドル人は信じ込まされてしまっていた。
https://twitter.com/radio_pichincha/status/1507345666003157000
犬によるこの手の問題を察知し、毒入りの肉を用いて殺そうという地域住民もいる。しかしこの方法はコンドルのように絶滅の危機に瀕している野生動物のリスクにっており、大いに疑問視されている。
サパタは、2009年から同国で野良犬に関するいくつかの調査を行っているが、人間の人口増加に伴い、犬の数も増えてきたという。「問題は、人々が家畜の世話を適切にしないことだ。鶏、牛、羊でさえもだ。檻も厩舎もなく、放し飼いにされている動物たちは、犬でも野生動物でも、捕食者の格好の餌食になってしまう」と彼は言う。10年前、サパタと彼のワーキンググループは、国内のある地域で100平方キロメートルに及ぶ野良犬の個体数の推定を行った。その結果、1平方キロメートルあたり1.1頭の犬がいることがわかった。
エクアドルでは、農村部や都市周辺部での犬の遺棄に加え、コトパクシやアンティサナなどの国立地域に犬を連れて行く人が多いことも確認されている。たとえ犬が十分に世話をし他の動物を狩らないとしても、尿や糞を通じて野生種に病気を移す可能性がある。犬は高地だけにとどまらず、グアヤキルのセロ・ブランコ(Cerro Blanco)保護林などの海岸地域や、ヤスニ国立公園の北やクヤベノ保護区など、アマゾンの辺境地域でも目撃されている。「犬の密度はどこでも一定であるものの、犬にとって住みやすい場所とそうでない場所があるはずで、今は羊を襲い問題視されているものの、明日になればインドのように犬の集団が人を襲うという事態が起こるかもしれない。何とかしてコントロールしなければならない」とサパタは付け加える。2018年、インド北部で6人の子どもが野犬の群れに殺される事件が発生し、この年十数人の幼児が犬によって怪我をした。WCSチリは世界には約10億頭の犬が存在し、少なくとも7億頭が監視されずに徘徊しているという推計を2014年に発表した。エクアドルの場合、都市部では7人に1匹、農村部では3人に1匹の割合で犬がいると推定されている。
「現在、アンデス地域の監視されていない捨て犬や野良犬の存在は、その地域に住む人々の安全や、共存する野生動物や家畜に対する最も深刻な脅威の一つとなっている。」そう述べるのは国立アンデスコンドル作業グループ(Grupo Nacional de Trabajo del Cóndor Andino:GNTCA)だ。同団体は、野良犬の個体数がこれらの山岳地帯の主要な肉食動物になっていると主張している。アンデスコンドルのようなゴミ漁りをする種にとって、野良犬はその保護に対する主な脅威ともなっている。
環境・水・生態系移行省は、野生種の駆除と家畜飼育の技術化に取り組んでいると断言しているが、GNTCAは、野犬が他の家畜や野生動物の生命だけでなく、農村の人々の生命をも危険にさらすとして、この問題に取り組むための公共政策の生成のための優先順位と提案を検討する国家技術ラウンドテーブルを創設するよう呼びかけている。グスタボ・マンリケ(Gustavo Manrique)環境大臣は、コトパクシのような「痛い」状況が起こらないよう解決策を見つけなければならないとし、「まだ詳細は決まっていないが、管理計画に取り組んでおり、来週には話をしたい」と述べている。
ペットのケアに関する住民教育が行われ、農村部と都市部の両方で犬のワクチン接種、不妊手術、飼い主情報を追跡するチップの導入まで進んではいる。ただ野良犬の数は減らさなければならないと述べている。それはこれらの犬は、捕獲してリハビリし、里親を探すことができないことによる。人間の無責任さの犠牲者となり、安楽死させられてしまうのは非常に残念なことだ。しかしこれらの犬が生態系に大きな影響を与えているのは確かだ、そう述べた。最も効率的で残酷でない方法は、ガラパゴスのヤギの減殺に使われたのと同じように、チームで射殺することであろう、そう語った。
参考資料:
1. Perros ferales en Ecuador: Ahora atacan a ovejas o animales silvestres, luego será a personas si no se los controla
2. Perros ferales fueron los que atacaron a ovejas en Cotopaxi, confirma Ministerio del Ambiente
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