チリ:3月11日 ガブリエル・ボリッチによる政権の誕生

保守派のセバスチャン・ピニェラ(Sebastián Piñera)現大統領とガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)次期大統領は、3月11日(金)サンティアゴから約120km離れた海岸沿いの都市バルパライソの議会議事堂で指導者交代式を行った。

下院議員だった左派のガブリエル・ボリッチは学生運動の指導者あり、チリ最年少の大統領となった。36歳のボリッチの就任にあたっては多くの来賓が国を訪れた。前日の木曜日はピニェラ、ボリッチともに大統領府(La Moneda)に集まった来賓への対応を行なっていた。

日本からの来訪者は特色だった行動をとったこともあり、メディアはそれを取り上げた。チリを訪れた小田原潔(Kiyoshi Odawara)外務副大臣は手土産にポケットモンスター(通称ポケモン、Pokemon)」のゼニガメのぬいぐるみを持って行った。「スクワートル(Squirtle)」として知られるそれは、ボリッチのお気に入りのキャラクターだ。スクワートルの名前の由来は、英語のsquirt(潮吹き)とturtle(亀)からきている。2021年9月、ボリッチはTwitterによる質問でポケモンGOをするときは決まって「毎回、スクワートルを選ぶ」と答えており、何よりもそれがお気に入りであるという。このプレゼントには大いに喜んでいる姿がTwitterにもアップされた。

 

「すべての国民を前に、(憲法と法を尊重して職務に励むことを)誓う」と宣言したボリッチはシャツとジャケットのみでネクタイなしで現れた。チリの男性大統領としては異例なことだったが、彼はそれ以外でも多くの違いを見せるとされる。30年前にアウグスト・ピノチェト将軍の流血の独裁政権を経て民主化されて以来、政治に最も大きな変化をもたらす可能性すらあるとされている。ピノチェトは1973年に軍事クーデターでアジェンデ大統領を追放、自殺に追いやった。そんなアジェンデの遺志をボリッチはたびたび讃えてきた。

元大臣で新大統領のメンターだった81歳のルイス・マイラ(Luis Maira)は、「この50年間でチリに誕生した若い政治家の中で最高の世代だ」。「ボリッチは間違いなく、チリの歴史の新しい章に我々を導いてくれる」と言う。その言葉を反映する一面が彼の式典では見て取れた。スーツや軍服に身を包んだ人々とともに、チリの伝統的な服装を身につけた先住民族の代表たちも参加していた。先住民族アイマラ(Aymara)族のセシリア・フローレス(Cecilia Flores)は、議会でロイターに対し「包括的な政府になることの表れだ」と述べ、各先住民族の代表が就任式に出席するのは初めてのことだと付け加えた。史上最多の女性閣僚(24省庁のうち14省庁が女性閣僚)を擁する政府をつくったのもボリッチの意思の表れだ。内務大臣にはイスキア・シチェス(Izkia Siches)を据えた。このポジションを女性が務めることはチリにおいて初めてのことだ。彼女はパンデミックとの戦いにおいてチリ医師会を率いてきた。ボリッチは現在の大統領官邸に住むつもりはなく、ダウンタウンのバリオ・ユンガイに住む予定で、「フリーダム」と「ホープ」という名の通りに挟まれた場所にある。低層の住宅が折衷的に立ち並び、落書きされたファサードが石畳の通りに並んでいる。前大統領の大富豪セバスチャン・ピニェラは、サンティアゴ北東の裕福な郊外に大きな家を持っているが、それとは大違いである。彼はチリ国民に普遍的な社会権を保障することを目指している。そのために、資本に対する増税、利益に対する免税措置の縮小、富に対する新たな課税を要求している。国連機関によると、人口の1パーセントが富の25パーセントを所有しているこの国で、貧しい人々のアクセスを促進するために、チリの年金と医療制度を改革すると公約しているのだ。専門家は彼はベネズエラやニカラグア政府と距離を置いた、新しいラテンアメリカの左派を示すものだと述べている。事実「ベネズエラは失敗した経験であり、その主な証拠は600万人の強力なベネズエラ人ディアスポラである」と1月に述べていたり、ロシアのウクライナ侵攻とニカラグアにおける野党人物への弾圧を非難している。

https://twitter.com/gabrielboric/status/1502344512416321538

 

チリは2019年、不平等、汚職、不十分な社会福祉をめぐる数カ月の騒乱に揺さぶられた。抗議者たちの要求の多くは、ボリッチと同世代の人々であり学生運動への参加者だった。彼らは国民の懸念を核にチリを再建することを要求していた。彼の目の前には解決せねばならない事実犯罪、移民、先住民の権利などの問題が山積しているし、その明確な解決法はなく手探りの状態で進めていく必要がある。右派と左派に二分された議会では、ボリッチが考えるように物事が進まないことも考えられる。それでも彼は選挙戦で述べていたように「チリがラテンアメリカにおける新自由主義(貧困層や労働者階級を見捨てたと考えられている)の発祥地であるならば、その墓場」とするよう努めていくだろう。彼らの掲げる理想を実現の方向に導く手助けとなるかもしれない改憲も現在進んでいる。

 

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式典には、エクアドルのギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)大統領、ドミニカのルイス・アビナダー(Luis Abinader)大統領、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス(Alberto Fernandez)大統領、スペインのフェリペ6世(Felipe VI)、ペルーのペドロ・カスティージョ大(Pedro Castillo)統領、ウルグアイのルイス・ラカジェ・ポー(Luis Lacalle Pou)大統領、ボリビアのルイス・アルセ(Luis Arce)大統領、ハイチのアリエル・ヘンリー(Ariel Henry)首相、米国政府代表のイザベラ・カシージャス(Isabella Casillas)など、国家元首や著名人を含む500人近くが出席した。特筆すべき参加者としては作家で元ニカラグア副大統領のセルジオ・ラミレス(Sergio Ramírez)などが挙げられるあろう。彼への招待状には「私たちの国にとって新しい時代の始まりに際して、他の国や国々から、より高い尊厳と正義、そしてすべての人の幸福のための現在と未来を築こうと努力している旅人たちと共有したいと思います」と手紙には書かいてあった。この作家は、反体制派への弾圧を強化するダニエル・オルテガ(Daniel Ortega)政権下で、共謀罪や憎悪扇動罪で告発されており、その姿が物議を醸していることは記憶に新しい。

 

ピニェーラ前大統領は政権交代における最後の演説で「今後の政権の成功を祈る」と述べるとともの、アイデンティティ・ポリティクス、司法の弱体化、犯罪などの懸念を挙げた。

ボリッチに関してはこちらも参照のこと。

 

なお、今回のチリ訪問に際してギジェルモ・ラッソ大統領は、オープンビジネスフォーラムで160人以上のチリのビジネスマンに対しエクアドルの投資ポートフォリオを紹介している。エクアドル政府にとっては、炭化水素、鉱物、通信、エネルギー、インフラ、観光などの分野で、約300億ドルの投資の可能性があるからだ。

 

参考資料:

1. Gabriel Boric asume como nuevo Presidente de Chile
2. En Chile, presidente Guillermo Lasso presenta portafolio de inversiones y se reúne con sus pares de República Dominicana, Perú y el mandatario entrante, Gabriel Boric
3. ¿Por qué Gabriel Boric se puso tan contento cuando le regalaron un Squirtle?
4. Las preferencias gamer y otaku de Gabriel Boric
5. Leftist Gabriel Boric sworn in as Chile’s president in sharp political shift

 

 

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