エクアドル初の女性メダリスト ネイシ・ダホメスとは

言われてみれば暗い話が多かったので、オリンピックを交えて素敵な話をしようと思う。TOKYO 2020オリンピックが開催されている。そこではLGBTQを公表し参加する選手が過去最多160人を超え多様性ある大会になっただけでなく、今まで成し得なかった偉業も次々と達成されている。私がひいきにしているエクアドル選手団からも歴史を塗り替える結果が出た。

実はエクアドル、過去のオリンピックで女性がメダルをとったことがない。そんな中8月1日、2日と2日連続で女性メダリストが誕生することとなる。

1人目はパスタサ(Pastaza)出身のネイシ・ダホメス(Neisi Patricia Dajomes Barrera)、1998年5月12日生まれの彼女はウェイトリフティング女子76キロ級で金メダルを取った。記録はスナッチ 118キロ、クリーン 145キロの合計263キロだった。もう1人のタマラ・サラサル(Tamara Salazar※)23歳は87キロ級で銀メダルを獲得た。なんとスナッチ 113キロ、クリーン 150キロと合計 263キロを持ち上げた。エクアドル人女性が初めて五輪に参加した1968年から53年もの月日が経過してからのことだった。

「スナッチ」「クリーン&ジャーク」といわれてもわからない人もいるだろうから簡単に説明をしておこう。スナッチとは、バーベルを床から一息で頭上まで持ち上げ立ち上がる競技を言う。他方のクリーン&ジャークとは2つの動作のコンビネーションとなる。第一段階として肩までバーベルを持ち上げ(クリーン)、その後肩から頭上へ一息にバーベルを持ち上げる(ジャーク)。

今回のオリンピックでは女性以外、男性も大活躍した。自転車男子ロードレースに参加したリカルド・カラパス(Richard Carapaz)は南米選手団の中で金メダルの取得第一号となった。彼の金メダルもまた1996年のアトランタ大会ぶりで、実にエクアドル史上2人目のメダリストと言うことだった。

 

本ブログでは、女性初の金メダリストのストーリーを見ていこうと思う。

 

ネイシ・ダホメスはコロンビアでのゲリラやパラ・ミリタリルの暴力から逃れてきた難民である両親のもとに生まれた。アマゾンのパスタサ県メラ州のシェル教区で生まれ育ち、姉アンジー・パラシオス・ダヨメス(Angie Palacios Dajomes)もまた重量挙げの選手だ。母方の家系はアフリカのダホメー・アマソナス(Amazonas de Dahomey)の末裔と言われている。

ダホメー・アマソナス(ダホメー・マザー)とは西アフリカでヨーロッパの植民地化と戦った伝説の女性戦士の集団を言い、その強さと勇敢さで知られていた。彼女たちは、現在のベニン共和国の沿岸部に位置するダホメー王国を守るために訓練された女性兵士のエリート集団だった。手にライフル、スティック、ナイフを持ち、猛烈な勢いで、容赦なく敵を攻撃する女たちの軍隊は、18世紀から19世紀の約200年、数々の戦争で王国に大きな功績を与えた。当時のダホメーは、大陸西部の大部分を占める民族であるヨルバ族と、その他の民族が居住していて複雑で不安定な状態にあった。王国では絶対君主制と伝統や神々の意思を尊重していた。社会は自由民や農民、職人などのカーストとともに、貴族もいるなど高度に階層化されていて、他民族との戦争で獲得した奴隷とその家族を農奴とし、社会基盤を築いていた。

ダホメー・アマソンの登場は繰り返す他国との戦争による。この王国の男たちの人口は戦いや捕虜として取られた奴隷によって減った。それゆえ、国を守るために女性たちが武器を取る必要ができたと言うわけだ。軍は4,000人から6,000人の女性で構成され、彼女たちは王の妻とされ、独身を強いられた。これらの家族は最も強くて運動能力の高い娘を軍役へ送り、また、奴隷や奴隷の娘たちも参加させられた。ダホメー・マザーは敵の首を切り落としては、その血を飲んだとも言われていて、その激しさは想像に絶する。ダホメー王国で行われていた人身御供にも、男性と同様積極的に参加していたし、

王国が制圧されて入植者との結婚を余儀なくされた女性戦士の中には、夜、夫が眠っている間に夫の首を切り落とした者さえいた、と言うのは「Amazone」という芸術プロジェクトを立ち上げたフランス人アーティスト Yz Yseultだ。彼女もまたこの女性戦士たちに触発された1人だ。2003年に初の大規模な都市プロジェクト「Open your eyes」を開催したYz Yseultはアートと都市、肖像画と歴史の関係を探求し続けている。アマソナスの大きな肖像画はセネガルのダカールやムブールなどの街中でみることができるという。ダホメー・アマソンは当初国王を守るために仕えた女性たちは、次第にフランスと戦うようになった。そしてこの女ばかりの軍隊は王国の滅亡まで続く。

 

ネイシ・ダホメスはそんな最強に強い女性の血を引いている。頭に巻いたターバンがアフリカにルーツを持つこと、そして女性の持つ力強さを物語っていた。彼女の金メダルの背景に母親と兄弟がいた。彼女の母は2019年に亡くなり、兄も2018年に他界した。ダホメスの左手のひらには「Mamá y hermano」と書かれていて、今回の勝利を家族に捧げたいと言った。

母親であるサンドラ・ダヨメス(Sandra Dajomes)が彼女のアスリートとしてのキャリアを支え、兄のハビエル・パラシオス(Javier Palacios)がウェイトリフティングを始めるきっかけをくれた。

ネイシは母親が亡くなった数日後にトレーニングを再開させた。心の痛みは消えていなかったが、それを脇に置いて自分を奮い立たせた。そして直後、リマで開催されたパンアメリカンゲームで金メダルを取った。弟のハビエル・パラシオスを失った後も、エクアドルオリンピック委員会に「私がここにいるのは彼のためであり、私のすべての功績は彼の記憶に捧げられている」と語った。

ネイシ・ダホメスが11歳の時、兄のトレーニングを見に行ったところ、トレーナーから「あなたもやってみたら」と言われたことから彼女の人生が変わる。最初は技術を習得のためにホウキを使った練習、翌週には10キロのバーベルを使った。彼女の急速な成長は、皆の注目の的となったと語るのは彼女のコーチ メイラ・ホヨス(Mayra Hoyos)である。

小さい頃から頭角を見せた彼女の道のりは、それでも決して楽ではなかった。ウェイトリフティングは女性のためのスポーツではなく、彼女の体を男性的にしてしまうのではないかという意見もあったという。一方で、ホヨスのサポートはネイシにそうではないことを納得させる働きをした、と国際オリンピック委員会はウェブサイトに記載した。

 

ネイシ・ダホメスは今回大会で初めてクリーン&ジャークで145kgを挙げた。「本当に嬉しくて、誇りに思いまう」、今回の結果は「トレーニングのおかげで、すべての競技で余裕のある強さを手に入れることができた」と彼女は語った。大統領のギジェルモ・ラッソもメダル授与後、すぐにテレビ会議を通じて祝辞を述べた。

https://twitter.com/LassoGuillermo/status/1421830704384577544

 

東京大会の重量挙げ76kg級で金メダルを獲得したダホメスは、2021年8月4日午後にエクアドルに帰国した。首都キトのホテルではオリンピック渡航のために留守番を余儀なくされたペットと再会、レセプションで最も感動的な瞬間を過ごした。スペインでの最終合宿へ渡航して以来家族に会えていなかった小さな犬は大興奮だったという。

彼女のファッションについて少し話を戻そう。彼女の履く靴について目を向けた人はいるだろうか。ピンクとイエロー、左右異なるものを履いている。実はこれ、片方がアンジー・パラシオス(Angie Paola Palacios Dajomes)のものだ。アンジーもまた重量挙げ選手で、今大会64kg級で出場していた。オリンピックではディプロマを獲得している。ネイシは1人で戦っていたのではなく、妹からのサポートもあり輝くメダルを手に入れたこととなる。シンプソンの靴下も可愛らしい。

 

オリンピック出場選手帰国後のエクアドルは大盛り上がりである。

 

ネイシに興味を持った人は下記動画も。生い立ちなども気分けてわかりやすくなっている。

※タマラ・サルサルに関する記事はこちら(後日公開)から。

 

参考資料:

1. Las Amazonas de Dahomey, el ejército de sólo mujeres que atemorizaban a los conquistadores europeos en África Occidental
2. Amazonas de Dahomey… y de África
3. Mino, las temibles amazonas guerreras del Reino de Dahomey
4. Tokio: “Mamá y hermano”, la emotiva dedicatoria de la medalla de oro de la pesista ecuatoriana Neisi Dajomes a los familiares que perdió 
5. Las amazonas de Damohey, el legendario ejército de mujeres que se enfrentó a los colonizadores europeos en África (y qué queda de ellas)
6. Ecuador’s Neisi Dajomes Barrera wins historic women’s weightlifting 76kg gold
7. ¿Por qué Neisi Dajomes y Angie Palacios tenían zapatos impares en los Juegos Olímpicos?

2 Comments

  • miyachan 08/08/2021 at 01:13

    MARINAさんらしい切り口の深い話。エクアドルも金メダルで盛り上がってるんですね。待望の明るいテーマも、途中の女性戦士の話は男にとっては、かなり怖い!その辺もMARINAさん流ですか。日本のマスコミのステレオタイプの英雄譚と一味違うエクアドルのヒロインのストーリー、面白かった。

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    • MARINA 08/08/2021 at 19:19

      確かに女性戦士の話は怖かったかも・・・。ダホメーに関する知識を持っていなかったので、調べる良いきっかけをくださったmiyachanさんには感謝です。

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