エクアドルの先住民、村人たちとともにシェブロン社(Chevron Corporation)と戦っていたスティーブン・ドンジガー(Steven Donziger)に実刑判決が出た。証拠隠滅(証拠提出をの拒否)、6つの侮辱罪で有罪になったことに基づく。判決は2021年7月26日月曜日、ロレッタ・プレスカ(Loretta A. Preska)米連邦地裁判事によってなされた。
スティーブン・ドンジガーはシェブロンがアマゾンの熱帯雨林を故意に汚染してきたこと、さらにその結果として多くの人物に危害を与えてきたことを指摘、シェブロンと戦い続けてきた。事実、多くのエクアドル人が皮膚病、先天性異常、流産といった病を抱え正義を待ちながら死んでいる。
95億ドルの歴史的な判決を受けて敗訴したシェブロンはエクアドルビジネスから撤退したものの、エクアドルの被害者やシェブロンを打ち負かすのに貢献した弁護士たちを攻撃するために、自らが雇った弁護士やPR会社に10億ドル以上を支払い、攻撃をし続けている。なお、支払いを命じられている95億ドルの損害賠償についてはドンジガーとエクアドルの司法機関による衝撃的なレベルの不正行為があったと主張し、義務を果たしていない。シェブロンは、ドンジガーがエクアドルの裁判官を買収し、このような判決を出させてと批判している。もちろんドンジガーはこれを激しく否定していた。なお、連邦政府の検察官はこの事件を取り上げること自体断念しており、シェブロンの弁護には以前より取引のあった民間の法律事務所を採用している。
エクアドルアマゾンにおける環境汚染についてはシェブロン自体も故意で毒物を投棄したことを認めていている。160億ガロンの有毒汚染物質は、アマゾンの熱帯雨林に今も残っており、毎日のように川や小川に毒を流し続けている。シェブロンのCEOであるマイク・ワース(Michael Wirth)は、シェブロン自身が仕組んだ2014年のRICO(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations)法に基づく判決の影に隠れて、エクアドルでの正義を求める株主たちをもまた無視し続けている。
今回の5日渡る裁判を迎えるにあたって、ドンジガーは2019年8月から650日に及ぶ自宅軟禁を余儀なくされている。それはこの容疑者がエクアドルとの重要なつながりを持っていて頻繁に旅行していることから逃亡の危険性があるからという理由だ。2016年、シェブロンはドンジガーとその仲間たちが詐欺を行い、エクアドル判事を脅迫しシェブロンに不利な判決を出させたと訴えを起こしていた。この裁判においてルイス・カプラン(Lewis A. Kaplan)判事はドンジガーとその訴訟チームが2011年の判決前に強要や贈賄、資金洗浄などの犯罪行為に関与していたとの判断を下していて、それに対し弁護士たちは反訴していていたのだ。弁護士は判決も出ていない中、自宅軟禁という扱いを受けている。また、カプランが承認したシェブロンへの同弁護士のパソコンや携帯電話などの電子機器の押収の許可も機密の顧客情報を正当な根拠なしに提供することはしないとし、命令を無視していることに対しても侮辱罪を課している。なお、2016年の裁判ではエクアドルの元裁判官アルベルト・ゲラ(Alberto Guerra)が、当時の裁判でゴーストライターを務めていたことを認めている。
BREAKING: @Esquire just published a deep-dive interview with me about the Chevron forces driving my 600-day house arrest without trial.@NYTimes and other major media outlets: your silence is becoming a statement.
Read: https://t.co/iaCvs0po7A pic.twitter.com/MbDMfapsdG
— Steven Donziger (@SDonziger) March 18, 2021
ニューヨークのアパートに監禁されたドンジガーの足首には「黒い爪」と彼が呼称する監視ブレスレットがまかれている。逃亡しない党にとのことだ。連邦裁判制度で犯罪歴のない弁護士が軽犯罪の罪で公判前に拘留される事例は今までない。石油によって環境を破壊されたアマゾンの先住民のための和解案を勝ち取った後、ドンジガーは常にシェブロンから狙われていた。カプラン判事による裁判も「私は公正なプロセスで起訴されなかったし、陪審員もいなかったし、シェブロンがこのすべての背後にいると思う」とドンジガーは語っている。
アマゾンでの汚染をめぐる最初の訴訟には陪審員がいないエクアドルの裁判所で行われた。2011年にシェブロンがドンジガーに対して提起したRICO訴訟では、当初600億ドルの損害賠償を求めていた。このような損害賠償請求訴訟では、被告は陪審員を得ることができるが、シェブロンが裁判の2週間前に金銭的請求を取り下げたから、結果的に陪審員の出席を伴わな異ものとなった。裁判を監督しているロレッタ・プレスカ判事は8月、ドンジガーの求める陪審員出席要求を拒否、裁判のビデオ配信もまた拒否した。
「抑圧的な裁判官をたくさん見てきたし、不正な裁判制度もたくさん見てきた。しかし今回のような不正な裁判は、ニューヨーク特有のものであり、驚くべきものだ」と語るのはネルソン・マンデラ(Nelson Rolihlahla Mandela)、ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg)、シーザー・チャベス(Cesario Estrada Chavez)の代理人を務めてきたガルバスは今回の裁判を見てそう語った。
この裁判において陪審員がいれば無罪になるだろうと語るのは専門家のみならず、本事象を見ていた他の弁護士たちだ。なお、カプラン判事自身、連邦検事に対しドンジガーを侮辱罪で起訴するよう求めていた。その要求を連邦検事のジェフリー・バーマン(Geoffrey Berman)は拒否している。
7月26日の裁判の中でプレスカ判事は245ページに及ぶ判決文の中でドンジガーが裁判所の命令を「繰り返し、故意に」無視してきたこと、さらに「訴訟の当事者が裁判所の命令に従わなければ刑事罰を受ける危険性があるというのは基本的な原則」であり「今こそ罰を受ける時だ」と述べ、懲役刑を匂わせた。自らの弁護のための証言をしないことを選んだ人権派弁護士のスティーブン・ドンジガーは「法の支配、民主主義、そして地球にとって悲しい日」とし、控訴すると述べている。
なお、ドンジガーらはプレスカ判事とシェブロンの関係を繰り返し指摘している。同判事がシェブロンから資金提供を受けている保守系法律団体フェデラリスト・ソサエティのメンバーであるからだ。ちなみにこの地区裁判官はカプランによって厳選され、シェブロンが主要な支持者である右翼連邦主義協会のリーダーだ。
一連の事象に対して数十の人権・環境団体、68人のノーベル賞受賞者、法学者、法学生、伝説的な芸術家、活動家のリーダー、そして今や米国議会の議員までもが、声を上げ出した。シェブロンの犯罪を暴くために団結をしようとするものだ。
コリ・ブッシュ(Cori Bush)下院議員、ジム・マクガバン(Jim McGovern)下院議員、ジャマール・ボウマン(Jamaal Bowman)下院議員、ジェイミー・ラスキン(Jamie Raskin)下院議員、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)下院議員などは司法省にドンジガーの訴訟への介入を要請している。それはシェブロンによる米国司法の操作が、エクアドルの判決を「違法に無効化」しようとしていること以外の何物でもないからだ、と議員たちは語る。
なお、シェブロンによる攻撃は続いていてる。YouTobeの「AmazonPost」チャネルには弁護士に関する100本以上の動画がポルトガル語、英語、スペイン語で登録されている。Twitterでも@AmazonPost を通じ執拗以上に批判を繰り返す。キャンペーンを通じドンジガーを悪者に仕立て上げ、ドンジガーの信用を傷つけることに勢力を注いでいて、とあるキャンペーンにおいては軽快な音楽に乗せ「スティーブン・ドンジガーは、大手石油会社を訴えることで金持ちになると思っていましたが、結局、米国地方裁判所の判決は、詐欺、賄賂、そして最も重要なことに真実を明らかにしただけだった」というメッセージを流すほどだった。また、シェブロンに関する悪い報道をしないように地元の記者に圧力もかけているという。
Unbelievable. Email from @Chevron executive outlines plan to kill a 2-minute local news story about oil spills on Indigenous lands.
Chevron CEO planned to call Fox CEO Roger Ailes directly if pressuring the local reporter failed.
Corporate intimidation at its worst. pic.twitter.com/JVa9Af2PNA
— Steven Donziger (@SDonziger) January 27, 2021
2020年9月、全米弁護士組合(National Lawyers Guild)と国際民主法律家協会(International Association of Democratic Lawyers)は、ドンジガーに対するカプランの扱いについて、過去10年間のカプラン判事の発言と行動は、彼が目の論争を裁く判事の役割ではなく、シェブロンの弁護士の役割を担ってきたと主張し、苦情を申し立てている。上述の通りカプランがシェブロンと関係を持っていること、ドンジガー裁判にあたって標準的な無作為割り当てプロセスを無視し、彼自身が選んだ弁護士事務所Seward & Kisselを選び、さらに彼がよく知っている人物米国地方裁判所のロレッタ・プレスカ判事を起用厳選したことによる。なお、この法律事務所もまた石油・ガス関連の業務を行っており複数のシェブロン関連企業と広範なつながりがあると語るのはドンジガーだ。
ちなみに、シェブロンとエクアドル先住民の法廷闘争では、米地裁のみがシェブロン側の勝訴とした一方、米上級審、カナダ裁判所でも全てエクアドル先住民側が勝利している。
ドンジガー自体の最終弁論は2週間後に書面で提出される。
シェブロンによってもたらされた被害についてご存知ない方は下記もどうぞ。スティーブン・ドンジガーを自由に(Free Steven Donziger)というキャンペーンへの署名はこちらから。
参考資料:
1. The Chevron-Ecuador Case Is Critical to the Climate Justice Movement
2. Steven Donziger Describes Contempt Case As a “Charade” As Trial Comes to a Close
3. What you Think you Know About Chevron and Steven Donziger is Wrong
4. Lawyer Steven Donziger found guilty of withholding evidence in Chevron case
5. Former Ecuadorean judge testifies to bribery in Chevron case
6.【エクアドル】憲法裁、シェブロン対先住民裁判で先住民側勝訴。
7. Ecuador y la “mano sucia” de Chevron
8. CHEVRONTOXICO
シェブロン社の悪事もドンジガーという米国に正義の弁護士が居る事も、恥ずかしながら全く知りませんでした。米国は政治ばかりではなく司法も、ラテンアメリカの「悪癖」に共通する所があるのか!善人ぶっているだけより悪質かもしれない。「国益こそが正義」と思う国民が多いのが米国か。
五輪中にブログ更新、ご苦労様です。五輪がらみの明るい話題も欲しいなあ。米国が凋落し中南米やラテン系も頑張っている。
日本では報道されづらいこともあり、ご存知の方も少ないかもしれませんね。私がLago Agrioに行った時にもデモが行われていました。ちなみに「クルード ~アマゾンの原油流出パニック~」と言う名の映画にもなっていますよ。私も久しぶりに先日見ました。