(photo by Australian Olympic Committee)
オリンピックと先住民ネタを続けよう。TOKYO 2020は今まで以上に多様性のある祭典となったことはこちらでも少し触れた通りだ。それは性別の観点だけでなく、民族の観点でもそうだった。
オーストラリアオリンピック委員会(AOC)はTOKYO 2020に先立ち、年次総会を開催。そこで新たな1ページを開いた。まずそこでは、委員会には以降アボリジニとトレス海峡諸島民の代表を少なくとも1名ずつ加えると言う修正案を可決した。
これらのメンバーは、夏季・冬季大会に出場するアスリートから選出されるが、先住民のアスリートが選出されなかった場合は、AOC先住民諮問委員会(IAC)からの助言を受けてAOC執行部が直接任命することとなる。
今回の決定に先立ちAOCは布石を引いていた。2015年、AOCはまず会則を改正、ファースト・ネーションの人々の重要性を認識した上で、組織のガバナンスと戦略的開発に大きな変更を加えることで、和解に向けた実践的な支援を行うことを約束した。2020年、パトリック・ジョンソン(Patrick Johnson)を委員長とするIndigenous Advisory Council (IAC)、別名Prime Minister’s Indigenous Advisory Councilを設立し、先住民によるオリンピック選手の役割を認識、称賛し、スポーツを通じた和解を促進し、次のキャシー・フリーマン(Cathy Freeman)を発掘するための道筋を整えた。
パトリック・ジョンソンは、2003年に日本で行われた100m走で9秒93を記録したこの二重国籍のオリンピック選手でオーストラリア人としては史上最速の選手だ。1973年2月16日生まれのキャシー・フリーマンは、クイーンズランド州生まれ、アボリジニーの血を引く。2000年開催のシドニーオリンピックの400mで金メダルを獲得した。金メダル確定後のフリーマンはアボリジニの旗とオーストラリアの国旗の2つに身を包み、トラックを一周。物議を読んだ。それは通例として自分の所属する国の旗を持つものとされてきたことによる。アボリジニは1788年からのイギリスによる植民地化を通じて、居住地区も制限されたり、常に差別の対象となっていた。1975年に人種差別禁止法が制定されるも差別は残り、1998年にもシドニー大会に出場する可能性のあるアボリジニ選手たちにオリンピックをボイコットしろという声が上がっていた。そんな状況の中参加したキャシーは最終聖火ランナーを務めるとともに、メダリストとなるなど時の人となった。ちなみに彼女はバハーイー教を信仰している。
オーストラリアオリンピック委員会はまた「Reflect」和解行動計画(Reconciliation Action Plan:RAP)を発表。組織が国家における和解運動を支援するための枠組みを提供を開始した。先住民の遺産、文化、歴史を組織のあらゆるレベルで認識するようにも務める。
東京オリンピックでは16人のアボリジニとトレス海峡諸島民の選手が11の競技に出場した。これは、オーストラリアのオリンピックチームに選ばれたファーストネーションのアスリートの中で、最も多い人数となった。
テニス競技にはンガリゴ(Ngarigo)族のスーパースター、アッシュ・バーティ(Ash Barty)が出場。本競技初の先住民アスリートとなった。25歳のアッシュ・バーティは、オリンピックデビューではあるものの、現在世界ランキング1位。期待されるも残念ながらスペイン代表サラ・ソリベストルモに初戦で敗れた。
射撃代表のトーマス・デレク・グライス(Thomas Grice)もまたこの競技初のアボリジニー。12歳の頃から熱心に射撃に取り組んできた。結果は男子トラップ個人 25位、混合トラップ団体 6位だった。
モネロ・ンガリゴ(Monero Ngarigo)とユイン(Yuin)の女性、アンジェリー・ブラックバーン(Angeline Blackburn)も、今年の陸上競技に出場し、オリンピックデビューを果たした。残念なんがら女子4×400mリレーは予選敗退した。
モーリス・ロングボトム(Maurice Longbottom)とディラン・ピエッチ(Dylan Pietsch)は、男子ラグビーセブンズチームの一員だ。ウィラジュリ出身のピエッチは、10代の頃から7人制ラグビーのランクを上げ、2017年にウェリントンでラグビーセブンズデビューを果たした。ダラワル出身のロングボトムは、2017年のセブンズデビュー戦でトライラインまで長い距離を走り、振り向きざまに回避したことで「魔術師(the magician)」というニックネームをつけられた。本大会における結果は7位だった。
ブランドン・ウェケリング(Brandon Wakeling)はウォナルア出身。、オリンピックに出場する2人目の先住民の重量挙げ選手。1人目は2000年シドニー大会に出場したアンソニー・マーティン。男子73kg級に出場し13位の成果を挙げた。
ヌーガー族出身のアレックス・ウィンウッド(Alex Winwood)は男子フライ級(48-52kg)でオリンピックデビュー。10代でボクシングを始めた24歳の彼は、2016年のリオの選抜を惜しくも逃した後、今年の大会で自分のストライプを獲得する準備をしていた。ザンビアのパトリック・チニエンバ(Patrick Chinyemba )に敗退した。
29歳のウリウリ(Wulli Wulli)の女性タリカ・クランシー(Taliqua Clancy)はマリアフェ・アルタチョ・デル・ソラールとともにビーチバレーボールに出場。2016年のリオ大会では5位に入賞だったが、本大会では銀メダルを獲得した。
パティ・ミルズ(Patty Mills)は2008年の北京、2012年のロンドン、2016年のリオと過去3大会に出場。今回もユヌンガ出身の彼が、東京のバスケットコートに戻ってきた。ミルズは、スポーツの世界ではもちろんのこと、子ども向けの本を出版するなど、コートの外での活動でも注目を集めている。銅メダルを取った。
トレス海峡諸島出身のレイラニ・ミッチェル(Leilani Mitchell)は5×5に出場。アメリカで育ちだが、2014年にオーストラリアのチーム「Opal」でデビューする。オーストラリア代表としては、2016年のリオ大会以来、2度目のオリンピック。結果は8位だった。
ブルック・ペリス(Brooke Peris)とマライア・ウィリアムズ(Mariah Williams)は、2016年のリオ大会で女子ホッケーチームでオリンピックデビューを果たし、今年もゲームに戻ってきた。ウィラジュリ出身のウィリアムズは4歳の頃からホッケーをしており、オーストラリア代表として2度目の出場。ペリスは、ダーウィン生まれのアスリート、元オリンピックホッケールーの金メダリストであるノバ・ペリス(Nova Peris)のいとこ。結果は5位。個人的にホッケーは見たかった競技の一つ。
オーストラリアのソフトボールチームには、カミラロイ出身の女性2名が参加。2度のオリンピック出場経験を持つステイシー・ポーター(Stacey Porter)と、オリンピックデビューを果たしたターニ・ステプト(Tarni Stepto)が登場。ポーターは、2004年のアテネ大会で銀メダルを獲得、2008年の北京大会では3位入賞。本大会は残念ながら5位だった。
女子サッカーチームにはキア・サイモン(Kyah Simon)とヌンガーの血を引く リディア・ウィリアムズ(Lydia Williams)が登場。両者とも2016年のリオ五輪を経験。今大会では4位とメダルを逃した。
オリンピックはスポーツの祭典であるとともに、その国や今まで、そして今も虐げらててきた人々を知る良い機会でもある。だからこそ、多様性が必要とされるし、自らのアイデンティティに誇りを持って参加できる大会でなくてはならないと思う。いつか難民選手団というものがなくなり、先住民だから、LGBTQだとスポットライトがあえて当たらなくなるような時代が来ることを願う。
なお、オーストラリア選手団において今回注目すべきはファースト・ネイションでボクシング選手のポール・フレミング(Paul Fleming )がデザインしたユニフォームについてである。ユゲラ国のワッカ・ワニュル・マジェイ出身で2008年の北京オリンピック出場者したポールは、AOCからオリンピックチームのための2つのアート作品を依頼されていた。2つの作品についてフレミングは以下のように述べる。大きい方の作品では「オリンピック・リングが中央にあるが、ストーリーはむしろ、そのリングにたどり着くまでのすべての過程を描いている」。小さい方の作品では「オリンピックでは世界中のあらゆる色、宗教、背景を持つ人々が同じ目標に向かって競い合うので、出会いの場を表す中央の作品に焦点を当てている」。そして「私たちは皆、アスリートであり、どこから来たかは関係ない」と。
また、オリンピックに2度出場したハードル選手のカイル・バンダー・クイップ(Kyle Vander-Kuyp)も、アスリートサービスの一環として、チーム初の先住民渉外担当者に任命されていた。
参考資料:
1. アボリジニの差別問題でフリーマンにボイコットのプレッシャー
2. Olympic boxer Paul Fleming connects to culture through Aboriginal art
3. Tokyo 2020 will see the largest Indigenous contingent in Australian Olympic history
4. Meet the 16 First Nations athletes heading to the Tokyo Olympics
5. AOC release ‘Reflect’ RAP to recognise First Nations people at every level of the organisation
6. AOC Amends Constitution to Provide Enduring Indigenous Voice on Athletes’ Commission – AGM 2021
7. Indigenous athletes to be guaranteed seat on AOC Athletes’ Commission
No Comments