(photo by Jose Pereira – Creative Commons (CC BY-NC-ND 2.5))
こちらでも紹介した通り、チリにおける新憲法制定のための制憲議会はその定員155議席中154席を男女同数で構成し、かつそのうちの17議席をこの土地に昔からいる先住民へ割り当てると言う今の時代にあった、それでいてどこも実行できていない画期的な考えに基づいている。そんな議会は7月4日日曜日に新たなる一歩踏み出した。
サンティアゴ市内の旧国会議事堂の庭に設置された特設会場。そこでチリ制憲議会における議長選挙が行われた。ここで選ばれたのがエリサ・ロンコン(Elisa Loncón、58歳)、先住民マプーチェ(※)の女性である。
上述の通りこの会議における先住民の割り当ては17議席。その中でも最大規模を誇るのがマプーチェ(7議席)だ。この国で先住民が先住民として政治参画できることは珍しい。というのもこの国では人口の12.8%をそれが占めているにもかかわらず、現憲法では先住民の存在が認められておらず(※)、今まで見えないものとされてきたからだ。マプーチェ以外で本会議を構成するのはアイマラ族(2議席)、その他1議席ずつのカウェスカル族、ラパ・ヌイ族、ヤガン族、ケチュア族、アタカメーニョ族、ディアギータ族、コッラ族、チャンゴ族だ。
ロンコンが選ばれたのは、疑いようもなく政権与党である右翼が弱体化し、また、無所属(主に進歩派)が議席の1/3程度(48議席)を占めることができたからだ。先住民でかつ女性がこのような場で活躍できる日がついに来たのだ。
代表選の最終候補者は4人いた。右翼が擁立するハリー・ユグウェンセン(Harry Jurgüensen)、Frente Amplio(PS)が推すロンコンとPC支持のイサベル・ゴドイ(Isabel Godoy)、そして旧コンセルタシオンと非中立独立派の各部門がパトリシア・ポリツァー(Patricia Politzer)を推薦していた。第一回投票でも得票数が最も多かったロンコンは、第二回投票でも圧倒的なる支持を得た。絶対多数のである78票を達成しただけでなく、なんと96もの支持を得て圧勝したのだった。
¡Arriba los pueblos! Arriba las naciones originarias! Este esun sueño de nuestros antepasados, es posible refundar Chile y una nueva relación. ¡Libertad y vida a los que resisten! pic.twitter.com/fp68HTzy7I
— Elisa Loncon – Constituyente Mapuche (@ElisaLoncon) July 4, 2021
マプドゥングン語で始まった彼女のスピーチは人々の心を動かした。
先住民の権利、母なる大地の権利、支配体制に抗して歩んできた女性たちの権利、そして子どもたちの権利を守るために、新憲法策定においては全国民の意見を招集するとともに民主主義や議論への参加を拡大させ、そして素案策定のためのプロセスを透明化させる必要があると説き、「マプーチェ、先住民、そしてこの国を構成するすべての国との間に新しい関係を築くことは可能である」とスピーチを締めくくり、団結を呼びかけた。
母親であり、教師であり、先住民の言語的権利の擁護者である彼女は、アラウカニア州マレコ県トライグエンのコミューン、マプチェ族コミュニティ レフウェルアンで生まれた。母語としてマプドゥングン語を話、スペイン語と英語も話すことができる。独裁政権時代、トライグエンの小中学校に通い、テムコのフロンテラ大学に入学し、英語を専攻して教師の資格を得て卒業。大学の寮に住みながら、休日にはホームアドバイザーとして大学を支援していた。その後、メキシコの自治大学で言語学の修士号、オランダのライデン大学で人文科学の博士号、チリのカトリカ大学で文学の博士号を取得し、また、ハーグの社会問題研究所(オランダ)とレジーナ大学(カナダ)の大学院を博士課程で修了している。そんな人物がロンコンである。
憲法会議の議長は交代制になっている。ただ現時点ではそれぞれの任期がいつまでなのかはまだ決まっていない。7月4日、街ではデモ行進やセレモニーなど象徴的な行事が行われた。デモ隊への警官隊の攻撃は一時会議を中断させねばならないほどの事態にも至ったが、無事代表も決まった。会議に先立ち、マプチェはサンタ・ルシアの丘(Cerro Santa Lucía)で儀式を行い、アイマラ族はパラシオ・ペレイラ(Palacio Pereira)で儀式を行った。
新憲法においては重要となる議題の一つに先住民族の権利のあり方(※)に関するものがある。それは領土の保証、独自文化や言語への国家レベルでの承認、さらには多民族国家化への検討などだ。今回の憲法制定はチリの歴史上、完全に民主的なプロセスを経て行われる。
現在のマグナカルタはピノチェト独裁政権(1973年〜1990年)から引き継がれたもので、新自由主義的な性質を持ち、水道、教育、年金などの基本的なサービスを民営化していると多くの分野で指摘されている。155名は力を合わせ草案を作り、2022年にその内容を国民投票の形で再度問う。長くて一年のプロセス、是非みんなで見守っていければと思う次第だ。
(※)マプーチェ(Mapuche)は、チリ中南部からアルゼンチン南部に住む先住民でマプチェ語で「大地」(Mapu)に生きる「人々」(Che)を意味する。
(※)チリ以外のラテンアメリカではウルグアイも憲法で先住民を定義していない。
参考資料:
1. Una indígena mapuche presidirá la convención constituyente que tendrá que escribir un nuevo Chile
2. Chile elige a los primeros candidatos indígenas de su historia
3. La medición de fuerzas en la CC
4. Mujer, mapuche y doctora en Humanidades: quién es Elisa Loncón, la primera presidenta de la Convención Constitucional
5. Quién es Elisa Loncón, la profesora mapuche elegida presidenta de la Convención Constituyente de Chile
エリサ・ロンコンはご自身の公式ホームページも持っている。気になる方はこちらを参照とのこと。
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