先住民の平和デモに警察はまた武器を持ち出す

ブラジルの国会では今、土地取得法案の改正を討議している。それは先住民が長い歴史や戦いを経て勝ち取った土地の権利を脅かし、また、彼らの住む自然保護区が商業的に使われてしまうリスクを作るものだと、先住民は懸念している。このことから全国の先住民族は首都ブラジリアに集結しLevante Pela Terra(大地のために立ち上がれ)運動を6月10日にスタートさせた。参加者は続々と増え、6月21日時点でその数は850人(47民族)にも及ぶ。

平和理に始まったデモで求めているものはPL490の阻止、先住民が占有する土地に対する憲法解釈変更の反対、さらには一向に止まない先住民居住地への不法侵入と鉱物の不法採掘の取り締まりだ。

6月22日、突如として連邦議会前で先住民デモ隊と警察官が衝突することとなる。裸の先住民は弓矢を、一方での警察官は催涙ガスや、スタングレード(威嚇用手榴弾)など近代的な武器をその手に取った。

議会広報によるとデモ参加者が議会侵入しようとし、さらには矢を用いた攻撃を仕掛けていたという。そのため警察官はそれに応じざるを得なかった。一方のデモ隊は平和的に行われた抗議活動を警官隊が暴力的に制圧してきたと言う。双方の意見は食い違いをみせる中、攻撃により各々負傷者が出した。ブラジル先住民協会の発表によると先住民2名が重傷を負い、12人の子供、高齢者、女性が軽症を負った。この事態を受け議会下院は先住民保護区の規定変更のための法案PL490の審議を一時中断した。

農村連盟が擁護するこの法案は、1988年の連邦憲法によって保障された先住民の持つ領土権に修正を加え、先住民が既に保有している土地の区画整理を不可能にし、再定義された区画に則り土地を開放するというものだ。わかりづらいのでもう少し具体的に言うと、1988年10月5日の連邦憲法発布以前に先住民がその土地を占有していたと言うことを証明することで、その土地の権利を保有することができる。この仕組みを「テンポラリー・ランドマーク」と呼んでいる。以前に区画された土地を拡大することも禁止している。現在、法律では、地域を画定するためには、国立先住民保護財団(Fundação Nacional do Índio:FUNAI)で行政手続きを行う必要があり、手続きに則りその後、学際的なチームが境界線を確定する。一方、特定の日に所有していたことを証明する必要がないことも特徴だ。ブラジル・アマゾンには約100ほどの孤立した民族がいて、自分たちのコミュニティ以外との接触を持っていない。彼らは常に土地侵入や土地開発の脅威にさらされているが、本法案は成立後は彼らの土地になおさらに近づきやすくことをも暗示させる。

農村連盟は経済発展と言う名の下に、先住民の持つ土地を農業、鉱業、水力発電ダムの建設などのために、使いたくてしかたがないのである。先住民と土地の関係は強固で、この法案が変更されれば、民族全体に死の宣告をも意味する、そんな法案なのである。そもそもPL490は2009年の人権委員会で否決されていたものだ。それを下院でかつ農村コーカスのメンバーであるアーサー・マイア(DEM-BA)が引っ張り出し再び審議対象とした。

一時審議停止となっていた本法案も23日、下院の憲法・正義・市民委員会(Comissão de Constituição, Justiça e Cidadani:CCJ)は、ブラジルにおける先住民族の土地の画定プロセスを変更することを目的とした議案を、40票対21票で承認され、次のプロセスに進むことになった。

 

先住民選挙評議会(Assessoria Jurídica do Conselho Indigenista Missionário:Cimi)も指摘する。この法案は多数の違憲条項に加え、連邦最高裁判所(Supremo Tribunal Federal :STF)の判決や国際労働機関(Organização Internacional do Trabalho:OIT)の第169号条約をことごとく無視していると。

この事実に対し、グアラニも25日、サンパウロのバンデイランテス高速道路約20キロを早朝2時間占拠することで抗議の意を示した。ボルソナロを追い出せの掛け声とともに行われたこの死の法案への反対運動は、ジョアキム・アルバロ・ペレイラ・レイテ(Joaquim Álvaro Pereira Leite)が新たに環境大臣に就任したことを受けたものでもあった。新大臣は作戦の捜査対象の1人で、不法伐採や違法木材の輸出疑惑への関与、環境監視機関の活動妨害、マネーロンダリングなどの嫌疑がかけられている。グアラニ・ムビア族とニャンデバ族の先住民534人が住むサンパウロのジャラグア先住民地の一部をめぐる紛争では必ず名前が上がるし、自然保護活動などを制限したり、妨害するような行動をとってきたことでも知られる。嫌がらせのターゲットはブラジル環境・再生可能天然資源院(Instituto Brasileiro do Meio Ambiente e dos Recursos Naturais Renováveis:IBAMA)や生物の多様性保全のためのシコ・メンデス生物多様性保全研究所(Instituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade :ICMBio)などである。一方、具体策を見せない中で環境保護のための資金工面を他国に訴えるなど、海外からもすこぶる評判が悪い。また、人権蹂躙についても国際社会で強く批判されている。レイテは法案改正を強力に推し進めるSRBの市議会メンバーとして23年間務めてきた。

なお、既存の土地に関する法案を変えの動きはこれだけでない。5月中旬にも政府は2009年6月に提出されたPL11953/2009の改正版として法案PL510/2021を通そうとしていた。これは、不法な行為の正当化と、その促進を政府が促すもののように見えた。具体的に言うと、国有地で森林を不法伐採した者に、その土地の所有を国が認めるとするもので、不法伐採、不法開発を国が促進する法案としか見えなかった。先住民当事者のみがそう感じたのではなく、部外者にすらそう映った。結果とし、万一対象法案が通った場合にはブラジル産品の購入や販売を停止する意向を英国スーパーマーケットの経営者たちが表明、政府は検討中断という状態に陥った。

そもそも政府が実施しようとすることには無理がある。なぜなら、憲法で認められ自らの土地化している領土を再定義しようとするものであるし、また、政府が犯罪を推奨しているからだ。

6月14日、ボルソナロはブラジル・アマゾンの先住民族保護区への治安部隊の派遣を許可した。これは数週間違法採掘者による侵入や攻撃がこの土地で発生していたから、5月末ヤノマミ族との間で先住民が望まない限り彼らの土地での採掘は行わないと約束したことにもよる。

 

初めて先住民の気持ちに寄り添ったかと思えば、すぐこれだ。

4月23日に気候サミットで語った「2030年までに違法な森林伐採を排除しなければならない」と言う言葉すら、今回の違法犯罪の合法化のための法案策定につながっているのではないかとすら思わせる。

ボルソナロは大統領当選当初より食糧確保のためのアマゾン開発や、先住民居住地での鉱物採掘を容認しており、それは皆の知るところだし、森林伐採や森林火災の増加、政府方針をもきっかけとした環境破壊と人権蹂躙は誰がみたって許されるべきことではない。

先住民だけの抗議にも限界がある。ブラジル国民はもとより、国際社会が立ち上がる時も来ているのではないだろうか。なお、ヤノマミの発表によると2020年と2021年3月時点で違法採掘のため伐採されたヤノマミ居留地の総面積は2400ヘクタールに及ぶ。

 

参考資料:

1. Indígenas y policías chocan, con flechas y gases, frente al Congreso en Brasilia
2. Bolsonaro pledges to keep mining out of Yanomami reservation in Amazon
3. Brazil leader promises Yanomami no unwanted mining on their lands
4. PL 490 ataca direitos territoriais indígenas e é inconstitucional, analisa Assessoria Jurídica do Cimi
5. Ex-assessor de ruralistas, novo ministro do Meio Ambiente é ligado a disputa de terra indígena
6. ‘We will not leave Brasilia defeated’: Brazilian Indigenous groups mobilize to defend land rights 
7. Repressão à manifestação indígena em Brasília deixa três feridos e dez pessoas intoxicadas com gás 
8. Entenda o substitutivo ao PL 490/2007 sobre demarcações de terras indígenas no Brasil

 

特定非営利活動法人 熱帯森林保護団体(RFJ)
https://rainforestjp.com

2 Comments

  • miyachan 06/29/2021 at 02:27

    弓矢の先住民と治安部隊。奇妙な違和感があり、21世紀の映像と思われない。ビックリした。アマゾンの先住民は、文明から隔絶している部族から、急激に文明化し世代間の軋轢の生じている部族まで多様であると聞いたことがあります。また部族間でも争いが絶えない所がある。サンパウロの先住民地の人たちは、普段どんな生活をしているのだろう。衣食住は?弓矢で狩をしているのだろうか?知らないことばかり。ブラジル先住民の基礎知識と主な問題等について、初心者むけの書籍(日本語)を教えて欲しい。

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    • MARINA 06/29/2021 at 08:49

      攻撃を目的とし弓を持ってブラジリアに来たわけではないと思います。あくまで表象の一つではないでしょうか。もちろん武器としても使えるので、何かがあったので今回使用せざるを得なかったのではないでしょうか。もしかしたら気持ちが高揚し使った可能性もあるかもしれませんが、詳細は出てこないのでわかりません。竹で作ったシールドも持っていましたね。私自身も「先住民」と一つの単語を使って表現してしまっていますが、ブラジルに限らず各民族、コミュニティによって生活スタイルも外部接触具合も様々だと思います。ブラジルは国自体も広いですしね。過去オーストラリアのアボリジニーの方がオリンピックに出るということで、話題にもなりましたよね、確か。ブラジル先住民の一般的なことがわかる本・・・。あるのかしら。7月5日に私の敬愛するMark J. Plotkin博士の本を紹介しますが(あくまで予定、ニュースが発生したらずれるかも)そういうのから入ってもいいかもしれません。

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