5月30日夜7時に中部都市アレキパ(Arequipa)のサン・アグスティン大学(Universidad Nacional San Agustín :UNSA)で大統領候補2名による最後のディベートがその名に恥じることなく始まった。
5月1日に行われたカハマルカ州チョタ市(カスティージョの生地)で行われた第1回目の討論会はケイコが大遅刻したこと、さらにカスティージョの支持基盤での票集めに躍起になっていたケイコが強烈に交戦を仕掛けてきたこともあって70分に及ぶ討論会は、討論と言うよりはディスリスペクトとともに、5つのテーマ(COVID–19対策、教育、経済回復、治安対策、腐敗撲滅への対応)について自分の意見を主張する会となっていた。
テーマ:
1. Perú del Bicentenario(200周年のペルー(国に対するビジョン))
2. Salud y manejo de la pandemia(健康とパンデミックへの取り組み)
3. Economía y promoción del empleo(経済と雇用促進)
4. Educación, ciencia e innovación(教育、科学、イノベーション)
5. Lucha contra la corrupción e integridad pública(汚職と公平な公共政策)
6. Derechos humanos, políticas sociales y atención a poblaciones vulnerables(人権、社会政策、弱者への対策)
1. Perú del Bicentenario
本来であればペルーのビジョンについて語られるはずだったが、両者ともその内容に関する言及はしていない。カスティージョは自身の24年に渡る教師としての経験やRondero(ロンデロ※)だったことを投票者と共有し、自分は市民と同じ目線であり、何が起きているかを知っているということを皆と分かち合うことに時間を裂いた。
一方のケイコは石を手にもしながらその時間の半分をカスティージョへの批判に使った。昨日アレキパにケイコが到着した際に起きたFuerza Popularへの投石行動を事例に挙げながら、今一度カスティージョを共産主義、暴力と結びつけを行った。
2. Salud y manejo de la pandemia
フジモリはパンデミックへの対策として医療専門家が負っている負債を5億ソル以上を肩代わりすることや、1日に7万件のPCR検査の実施、100に及ぶ医療機関新設とそこへの酸素濃縮器の配布(10,000台)、さらに年中に国民全員へのワクチン接種を完了させることを約束した。
カスティージョは18 歳以上の全国民の年内の予防接種完了を約束。また科学技術省の創設、保健所の新設やICUにおける ベッドの増床(1,000床 )を全国レベルで行うとした。また機能していない医療センターの改善とともに、訪問看護5000人を通じ、病人自体を積極的に見つけに行くとした。
3. Economía y promoción del empleo
ペドロは零細企業や小規模企業に対する融資の促進や不安定な状態にある人々の負債の買い入れを行い、さらには電気料金低減のために企業と話し合いを持つとした。
4. Educación, ciencia e innovación
カスティージョは教育を受ける権利は憲法で定められるべきとするとともに、大学の入学金無償化を提示。また、教育カリキュラムはボトムアップで検討されるべきで例えば知識のない閣僚がその内容を指示、現場が対応に追われるようなことがあってはならないとした。
5. lucha contra la corrupción e integridad pública
Fuerza Popularからの代表は政治から離れた人で構成されるalto comisionado(高等委員会)の設置、Perú Libreの代表は自身を長とするConsejo Nacional Anticorrupción(国家汚職防止評議会)の創設を発表、ただし、これについて専門家の意見を借りるとすでに類似の “Comisión de Alto Nivel Anticorrupción (CAN:高レベル汚職防止委員会) “が存在し違いがわからないという。
ケイコはスピーチの中で腐敗が長く続いてきたこと、父親政権もまたそれに攻撃された、これは惨劇であるとした。この防止のためにも共和国の会計検査院に制裁能力を持たせ、汚職を防止できるように再編することを提案した。また、調達の見える化も解いたが、専門家によると会計検査院の権限は近々で拡大されたし、情報の見える化はすでになされていることだと指摘している。また、内部告発者の保護も合わせてといたが、これもまたPedro Pablo Kuczynski (PPK) 政府が作った申立人保護の規制がすでにあり、むしろこれを機能させるにはどうしたら良いか、どのように告発を促進させるかを説いた方がよかったのではないかと専門家は分析した。
カスティージョはまた、腐敗防止を専門とする検察組織の強化と権限拡大を宣言。専門家は必要ではあるものの、具体的な言及がなく、詳細の確認が必要とした。また、腐敗を起こした人間に対しては資格の永久剥奪など強固な対策を打ち出すとした候補に対し、専門家は全ての罪を一括りにするのは極端だとの指摘している。
汚職関連ではないが、このスロットの中でカスティージョは大統領の給料を教師の給料と同等にすること、側近の給料も抑えることを再度宣言した。これに対して専門家は扇動的な考えであり、それで本当に有能な人材が集まるのかと実効性について疑問視した。
6. Derechos humanos y políticas sociales
カスティージョは人権を優先し、差別を非難し、機会均等を促進することを保証する新しい憲法の作成を提案した。また、既存の社会プログラム(Pensión 65、Juntos、Vega 18 など)の強化とともに “Barriga llena, corazón contento(お腹いっぱい、胸いっぱい)”プログラムを開始させ、困窮者に対する食料を無償提供(炊き出し)の範囲を教育機関に拡大させるとした。合わせて女性リーダーによる企業でのローンやトレーニングなどを新プログラムCreditが支援するとした。
なお、前回討論会の締めくくりに当たってケイコが連呼した”No te corras Pedro, no te corras.( カスティージョ、逃げるな。)”は印象的だったが今回は見られなかった。ちなみに、その連呼に対してカスティージョはあなたの父親がしたように逃げることは私はしないし、今日は死刑執行人ではなく、人民の中から人を選ぶ日だとして締めくくっていた。
今回のおもしろポイントは、COVID-19の蔓延は古くて腐敗した国家の不安定さを露呈させ、その直接的な原因はアルベルト・フジモリ政権にあったとしたくだりだ。その際には健康を憲法上の権利と認めていなかった一方で、今回ケイコはサンタクロースの如く多くの提案をもたらしているとしたことだろうか。
※ronderoとはRonda(ロンダ)という農民や民族によって作られた農村地区における独自の自警団に所属する人のこと。1993年憲法Rondaは共同体内で発生した紛争解決のための権限を付与されている。なお、Rondaは1970年代にChotaで誕生した。
※SUNEDU(National Superintendence of Higher University Education)は大学設置認可や教育サービスの質の監督、公的資金の用途管理を行う。
※Programa Nacional de Asistencia Alimentaria (PRONAA)
※Juntosプログラムは、2005年4月に設置された最貧困層を直接支援するプログラム。 目的は農村部の子供の栄養改善や貧困削減。14 歳以下 の子供を持つ女性が主対象。5 歳以下の子供がいる女性は優先される。栄養、保健、教育など基本的権利に関する活動に参加することで毎月 100 ソルの現金が支給される。現金の使い道は自由。
日本では、どこよりも、早く、詳しい、ペルー大統領選挙情報ありがとう。勉強になる。
いよいよ、あと一週間。平和的に投開票が実施されることを願っています。少なくとも、今回のアメリカの選挙よりも模範的に、そしてケイコ頑張って欲しい。
どうなるでしょう。もともとどっちに転ぶかわからないと言われていましたが(ペドロ・カスティージョが決選投票に進んだこと自体驚きでしたし)、尚更にわからなくなりましたね。