ベネズエラへの経済制裁停止を求めて動く米議会

米国議会で下院議事運営委員会の議長ジム・マクガバン(Jim McGovern)が大統領ジョー・バイデン(Joseph Robinette Biden Jr.)に対しベネズエラへの経済制裁を終了させるように要請した。彼はマサチューセッツ州選出の民主党議員である。

この手のキャンペーンは米政府の命令に従わなかった国に対し、何らかのレッテル、おおよそテロ国家と言うもの、を貼り相手を悪者にすることから始まる。悪い敵を倒すためには経済的苦痛を課すことが正当であると巨人は考えておりベネズエラやキューバがその対象だ。

国内にいるそれら政府を転覆させるためにいるテロリストたちは野放しだ。いや、むしろ国からの支援を受け様々な策を企てている。それは何度となく内部告発と言う形で暴かれてきたし、特定の人のみならず多くの人が認識していることである。

これらの制裁は米国が主体者になるのみならず、ベネズエラと取引している企業にも2次制裁が科せられる。例えば、金融機関であれば米ドルを使用できなくなるのみならず巨額の罰金を支払わされることになる。ベネズエラへの海外資金の流入を根絶しなければならないからだ。去年8月のニュース報道でも米司法省が原油や石油製品を積んでべネズエラに向かっていたイランのタンカー4隻を拿捕・押収が報じられていた。

 マクバン議員は特定の指導者の行動のために全国民に影響が出るような制裁をするべきではなく、反抗する者を服従させるために武器も使ってはならない、としている。

 

ワシントンのこのような域外強制措置は国際組織や専門家たちからも集団的懲罰であり非人道的だと非難を浴びている。今年2月にも国連人権問題特別記録官アレナ・ドウハンは米国と欧州連合(EU)による一方的強制措置は解除すべきだと会見し、この国での食料不足や健康状態の著しい悪化は、他国からのこうした強制措置にあり、人権蹂躙だと批判した。また政権に対する在外資産凍結も人権蹂躙に繋がるとして、英国とポルトガルの銀行に対し、凍結中の資金の返却を求めた。

1つの産業、ベネズエラで言う石油産業に依存している経済には各種議論もあることだろう。石油価格も自分たちでコントロールすることもできないし、その貴重な天然資源を輸出することができなくなったらどうなるのかと言う話ももちろんある。でもコアとなる別の産業はすぐには育つわけではないし、現時点においては仕方ないことでもある。

そんな中、6月15日に大統領のニコラスマドゥーロは国営テレビを通じ、その国で過去14カ月にわたり、原油を一滴も輸出していないことについて触れ、原因は米国の制裁にあるとした。事実外貨がないから石油の発掘だってできていない。トランプ前政権から続く経済封鎖は国庫への歳入に著しく影響を与えている(2013年度比99%減)。経済学者のフランシスコ・ロドリゲス(Francisco Rodríguez)もまた2020年の調査で2017年から2019年にベネズエラ経済に対する金融制裁の損失は年間約170憶ドルが失われたと推定している。

国にお金がなければ社会主義が大切している医療や福祉、国民生活だって守れない。外貨がなければ輸入している生活必需品(食料や医薬品)も入ってこない。それは必需品を一層希少なものにするとともに高額でしか入手できなくなっていることを意味し、ゆえに一般人の手には届かない。経済政策研究センター(Center for Economic and Policy Research:CEPR)は制裁がによる人命へのインパクトを分析、それが非常に深刻な危害を加え続けていることを明らかにした。制裁は2017年から2018年まで推定40,000人以上の死亡原因となったとしている。

なお米国が人権擁護やテロ支援の観点から行っている封鎖は、ベネズエラのみならずキューバなども対象としている。もちろん正しく判断されるべきではあるが、非人道的なもの、米国による自己中心的なものは排除されるべきだと考える次第だ。

米財務省は2月2日、ベネズエラの港湾空港業務取引禁止を解除した。国交断絶中の両国関係の和解に向けた取り組みのように見えた。(ただ、ベネズエラが最も欲している重質油を軽質油に変える希釈剤の取引をはじめとした重要物資の輸出入は認められていない。)ただ現実はそうではなく、2021年3月3日、バイデンはExecutive Order 13692を2日付で1年間延長している。これは2015年3月8日にもともと振り出されたものでベネズエラ政府による人権侵害、政敵の迫害、報道規制、暴力の使用、反政府抗議に対応する人権侵害と虐待、反政府抗議者の恣意的逮捕と拘留があり、政府腐敗も悪化したためであり、また、ベネズエラが米国の安全保障において並外れた脅威であることもその理由とされている。Executive Orderの期間延長以外にもバイデンは非常事態も発動した。

Executive Order 13692の延長や非常事態宣言は2022年に訪れる米国の中間選挙をも視野に入れてのことだとされている。真実はわからないが、いずれにしても極貧状態、それこそ非常事態の中にあるベネズエラ国民が一人でも救済されるような方策を考えてほしいものである。

これらの制裁に対しては2020年2月にベネズエラ自身も人道に対する犯罪として国際刑事裁判所(ICC)に提訴、キューバも避難を繰り返し実施しており、制裁を断固跳ね付けるとしている。

制裁が続く一方で、米国によって行われた極右グアイド(Juan Gerardo Guaidó Márquez)に対する国有資産1億5000万ドルの提供をマドゥーロは糾弾している。グアイドは米国とともに政権転覆を狙っている。

ベネズエラにおけるCOVID-19の感染者はわかっているだけでも248,820人、死者数2,797人でワクチン接種3,300,000回の状態だた。

 

参考資料:

1. Notice on the Continuation of the National Emergency with Respect to Venezuela
2. A Letter on the Continuation of the National Emergency with Respect to Venezuela
3. Sanctions, Making Venezuela Scream: A Conversation with Alexander Main (Part I)
4. Sanctions, Deadly Instruments of Economic Warfare: A Conversation with Alexander Main (Part II)
5. Economic Sanctions as Collective Punishment: The Case of Venezuela

 

 

2 Comments

  • miyachan 06/22/2021 at 01:01

    アメリカは弱いものイジメのジャイアンみたいで、日本はその子分のスネ夫か。傲慢な大国を諫める国に、日本は成れないものだろうか。
    それにつけても心配なのは、ベネズエラの庶民の生活。困窮の極みなのか。それも随分前から。マデュロは軍ばかり優遇する悪い政治家か。グアイドも腰抜けだと、誰かが言ってた気がする。自然あり、音楽ありの素晴らしい国。安心して旅行できる国に、早く戻るといいね。

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    • MARINA 06/24/2021 at 13:03

      キューバは決して弱い国だとは思いません。他の国々も。自分の言うことを聞かないなら制裁って、なんだかちょっと違いますよね。

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