日本でも大量の雨が急激に降り河川の氾濫や土砂崩れが発生したり、体温さえも上回るような猛暑日になったりと、今まで考えられなかったことが次々と生じている。これらの異常気象は気候変動に起因し、化石燃料の利用による二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの放出が、直接的に地球温暖化を招く。世界で「脱石炭」が叫ばれているのは、気候危機回避には化石燃料の早期利用停止が必要で、その中でも最もCO2排出量が多いのが石炭火力発電だからだ。でも今回のテーマとなっている「石炭」が抱える社会課題は気候変動以外にもありそうだ。
コアウイラ州はメキシコで3番目に大きい州で国内の石炭埋蔵量の9割が集中している。故にここの主要産業も石炭鉱山に依存している。多くの人が従事する一方、鉱山における事故は後を絶たず、1969年3月31日には153人、2006年2月19日にも65人が炭坑内でのメタンガス爆発による炭鉱への閉じ込めで命を落とした。
2006年の事故を招いたグルーポ・メキシコ社の安全対策は極めて杜撰だった。以前より労働当局の監査による安全措置実行命令があったにも関わらず改善は何ら行われてこなかった。社員1万9143人のうち75%が鉱山労働者、それらの当時の平均週給は約400ペソと低水準だった。多くの利益の源泉は不当な扱いをされながらも働かざるを得ない労働者、なんの安全も確保されない中仕事に従事しなければならなかったこれら炭鉱労働者の命によるものと言っても過言ではない。なお同社2005年の売上高51億9300万ドルと前年比で23.5%増と言う莫大な進捗を見せた。
炭鉱における児童労働の話もしなければならないだろう。闇の部分も多いから正式な数はわかっていないものの、この土地における炭鉱の18%が児童を労働力としているとされている。子どもは小柄であることから、容易に坑道に簡入ることができるし、長時間労働させても(8時間〜12時間/日)成人の3分の1以下の給料でしかない。監査がくれば口笛の合図一つで簡単に隠れることもできる。超低賃金、超ハイリスクの下、さらには勉強の機会も奪われ働くこれらの子どももまた、生活困窮ゆえ、ここで働かざるを得ない。
人々は毎日が賭けのような人生を送っている。事故リスクとは常に隣り合わせだし、ヒ素、硫酸、水銀などの化学物質で構成される鉱毒は人体を蝕みつづける。膝、肺はすり減り手にはたこがあるのが常だ。小さい頃から炭鉱で働いていれば、それだけ体が悲鳴をあげる日も近くなる。毎日酷使しても得られるのは日給180ペソ(約1000円)。家も持てないし、財産を築くこともできない。それでも”Trabajas para vivir, y vives para trabajar. Es lo que pasa siempre.”であり、家族を養うための他のオプションを彼らは持っていない。
石炭に依存した生活を続けることは容易だ。なぜなら何も変える必要がないから。でも社会システムの変更なしでは、いつまで経っても炭鉱労働に関する負のスパイラルからは抜け出せない。健康、人権ともに彼らには戻らない。
傷んでいるのは人間だけではない。この土地もまた傷んでいるのだ。それでもまだ変われる可能性もある。
広大な土地を活用した太陽光発電の設置や、すでに開発し尽くされ何も残っていない土地を活用した農業への期待である。
経済・産業における脱石炭は全てにおいてWIN-WINの関係になれる。だからこそ、いつかやるではなく、コミュニティのみんなが協力しすぐに着手していく必要がある。
なお、第56代大統領フェリペ・カルデロン(※)は、2007年「気候変動個別プログラム(PECC)2008-2012」で気候変動への対策として、温室効果ガスの排出を2000年比で2030年には11.2%削減,2050年には47.3%削減するという目標を設定した。化石燃料の代替には大規模水力を除く再生可能エネルギーの利用を掲げ、それによる発電を2012年までに総発電量の7.6%まで拡大させるとした。
カルデロンの後任エンリケ・ペニャ・ニエトも2015年12月24日エネルギー転換法を公布し、大口需要家のクリーンエネルギー調達率を規定。2018年から消費電力の5%以上の電力をクリーンエネルギーとすることを求めている。この比率は段階的に引き上げられるとした。
その後大統領になったアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador:AMLO)は電力供給の安定化においては、現在未だ効果を検証しきれていないとし再生可能エネルギーなどに軸を置くのではなく、石炭など化石燃料に頼ったエネルギー生成が必要だとしている。
気候変動に対するアクションが3年以内に必要とされている中でのこの決定、専門家含め物議を醸している。今一度AMLOには考えて欲しいと切に思う。気候変動のみならず石炭からの脱却が国民生活をも救うと言うことを。
(※)カルデロンの任期は2006年12月1日〜2012年11月30日。2006年7月2日の大統領選で現大統領AMLOを僅差で破り着任。
参考資料:
1. Niñas, niños y adolescentes víctimas del crimen organizado en México
2. Para los niños mineros de Coahuila, ganar $800 semanales es una fortuna crimen
3. TRABAJO INFANTIL EN SECTOR MINERO DEL CARBÓN
4. La negra vida de los hombres que iluminan México
5. 2011, EL AÑO CON MÁS MUERTOS EN MINAS DE CARBÓN EN COAHUILA DESDE 2006
6. EL CARBÓN ROJO DECOAHUILA:AQUÍ ACABA EL SILENCIO
7. Millones de niños trabajan como mineros esclavos en México
8. El trabajo infantil y su trasfondo
9. DESARROLLO RURAL 2018-2023
10.AMLO apuesta por energías fósiles
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