チリ制憲議会選挙:無所属・左翼の圧倒的勝利は未来を変えられるか

5月15日、16日制憲議会選挙が行われた。これは改憲のための会議参加者を問うものであり、COVID-19の影響で密を避けることを目的とした2日にわたる投票は、なんと155議席のうち約8割を無所属と左翼派議員とが占めるという過去に例をみない結果に終わった。

2019年サンチアゴで大規模な抗議運動がおきた。そこで国民が求めていたのが社会における不平等の解消であり、アウグスト・ピノチェト軍政(1973-1990年)が作った憲法(※)の改正だった。現在の憲法は新自由主義的で古臭く時代にそぐわないし、また、ピノチェトの非合法な軍事なクーデターとその政権に正当性を持たせることを目的に制定されたものであった。なお、2020年10月25日に行われた国民投票により78%の支持を得て改憲実施は決定されている。

 

今回の制憲議会はちょっとユニークだ。もしかしたら現代的と言ってもいいのかもしれない。というのも、会議を構成するメンバーの要素が当初より決まっていたからである。議席155を議長を除く154人で取り合う。ただし154人の構成は男女半々ずつで、かつ、うち17議席が先住民席として割り当てられていた。様々な立場の人間の意見を聞き憲法を作っていこうという意気込みが見向けられる。

開票結果を具体的に見てみると、政権党連合(保守・右翼)37人に対し、無所属48人、左翼連合(共産党・拡大戦線)28人、中道・中道左翼(キリスト教民主党、社会党など)25人、先住民17人となっている。

繰り返しにはなるが現在の右派政権が議席の3分の1(52議席)を取れなかった。これは過去脈々と続いてきた偏った憲法への改正にストップをかける力を現野党が持たないことを意味する。(改案にあたっては議会の3分の2の承認が必要)
昨年国民が求めた現代に見合う、不平等が少しでも減るような社会を支えるそんな憲法をみんなで作っていってほしい、そう強く願う。

なお、今回勝利した人の中で特徴だった人もいるので見ていこう。
まずは憲法学の弁護士で数十年に渡り1980年憲法を批判してきたフェルナンド・アトリア(Fernando Atria Lemaitre)。
新憲法は今後の繁栄とより良い生活を目指せるような経済モデルの基礎の上にあるべきで、また開発も環境へのインパクトや天然資源の回復なども加味されるべきとしている。また、輸出に際しても多くの人の利益のために行われるべきとしている。

 

著作”Historia secreta de Chile”が大ヒットしたホルヘ・バラディ(Jorge Marcos Baradit Morales)。
国内での軍事行動禁止を訴えた。軍隊は人道的解決のための手段ではないとしている。

個人的な話をすれば私は彼の描く先住民 Selk’namに関する話とアジェンデの話に深く興味を持っている。

https://twitter.com/baradit/status/1394122497138831361

 

ポケモン大好き、ヒオバンナ・グランドン(Giovanna Grandon)。
彼女はどのような抗議活動においてポケポンと化している。著作権については知らない。この動画みたいにピカチューがこけないことを願う。

 

俳優のイグナシオ・アチュラ(Ignacio Jaime Achurra Díaz)。
新憲法が持たねばならない3つの軸について彼は次のように語っている。まず、基本的な社会的権利(健康、教育、年金、住居、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)、文化的権利など)の確保、そして民主主義、さらに戦力的に自然を回復させていくこととした。

 

ちなみに今回の選挙においては、右派x独立系というコンテキストで語れる人々もいる。たとえば「反政治家」の演説で有名になった無所属テレサ・マリノビチ(Teresa Margarita Marinovic Vial)やRenovación Nacionalのクリスティナ・モンケベルグ(Cristián Monckeberg Bruner)がそうだ。

どのような人がいるかは CONOCE TU CANDIDATO/A #CHILEELIGE2021でよくまとまっているから、是非見てみてほしい。

 

ちなみに同時に行われた統一地方選挙は全16州で行われ、知事とともに市長345人、そして同市議会委員2,252人を選ぶものであった。ここでも今回初めて共産党からの候補イラシ―・ハスレル(Irací Hassler Jacob)が首都サンティアゴ市長に着任するなど、今までとは違った景色が見れている。

従来、州知事は大統領による任命制だったが、この改訂はミチェレ・バチェレ(Verónica Michelle Bachelet Jeria)第2期政権で強く推進されたものだった。色々と変わりつつあるチリを見ることができた貴重な2日間だったように思う。

 

なお、チリにおける今年の選挙はこれが最後ではない。11月21日には2022年からの4年間国を率いるリーダー、大統領を決める選挙が待っている。こちらも注視していきたいところだ。

※2019年のデモの結果アジア太平洋経済協力会議は中止となった。
 

参考資料:

1. A new Chile’: political elite rejected in vote for constitutional assembly
2. Los chilenos castigan a los partidos políticos en sus elecciones constituyentes
3. Chance for Chile to forge new path in vote to scrap Pinochet-era constitution
4. Nómina completa actualizada de candidatos a la Convención Constitucional
5. Los 12 de Kast: quiénes son Teresa Marinovic y los otros candidatos republicanos a la Convención Constitucional

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