ペルー大統領選2021:決選投票は6月6日

18人もの候補者がひしめいたペルー大統領選挙はla Oficina Nacional de Procesos Electorales (ONPE)によると開票が全て終了し、決選投票に進む2名が確定した。得票率19.099%を得た急進左派の党から出馬したペドロ・カスティジョ(Pedro Castillo)(51)が1位、右派ポピュリストのケイコ・フジモリ(Keiko Fujimori)が得票率13.368%で2位となった。ちなみに得票率3位の右派実業家ラファエル・ロペスアリアガ(Rafael López Aliaga)は得票率が僅差(11.699%)であることから再集計を求めるも、受け入れられなかった。

ペルーの大統領選挙について簡単に説明すると、第1回目投票で誰かが得票率51%を獲得できない場合、得票率上位2名が決選投票に進むこととなっている。ケイコは3回目の大統領選挑戦ということ、長年ペルーを統治したアルベルト・フジモリの娘ということもあり知名度は抜群。一方のペドロ・カスティジョは選挙前調査で5位以内にも入らないほどの候補者だったというから大躍進である。

ただペドロ・カスティジョは左翼ゲリラとの関係が指摘されているし、ノーベル文学賞受賞の作家バルガス・ジョサ(Vargas Llosa)は民主主義への可能性の観点からケイコへの支持を表明しているというから、一騎打ちとなるとケイコに有利に働くのではないかとの見方もある。ただし、ケイコ自身も過去2回の大統領選におけるブラジル建設企業オデブレヒト(Odebrecht)からの不法献金で起訴されているのも事実であり混迷を極めるというのが、正しい表現なのではないかとさえ思えてしまう。

 

さて決選投票に際して、最も重要な公約を見ていこう。

まずペドロ・カスティジョ(1995年から小学校教師を務める)が得意とする教育について。 ペドロ・カスティジョの所属するPerú Libreは地域文化や価値観を尊重しつつも新国家カリキュラムの導入を主張。また、教育分野における予算をGDPの10%まで増加させる。高校、大学への入学金を無償化するとともに、公立大学の新設を発表。

一方ケイコが属するFuerza Popularは自文化や環境保護のための社会的連帯や敬意を持った行動を取れる人を育成できるようなカリキュラムの策定や、自宅学習(Aprendo en Casa)に関するイニシアティブを持つこと、さらに農村地域への教師支援や高等教育の品質保証システムの見直しを主張した。

次に医療分野。ペドロ・カスティジョは高度医療の無償提供と、医療分野へ割り当てる予算をGDPの10%に増やすことを公約とし、また身分証明書の提示で国民はどの医療機関でも治療が受けられることとし、予防医療の観点からも2,500人の住民ごとに1人の医師を割り当てると主張。中絶の非犯罪化にも言及した。

ケイコは医療財源を増やすとともに、COVID-19の早期解決に向けたインフラの整備(食料援助や感染者隔離含む)と、医療機関をカテゴライズすることで病院への混雑を解消することを訴えた。

経済対策はというと、ペドロ・カスティジョは社会の構造改革を主張し、具体的には鉱業、ガス、石油などのセクターを戦略的に国有化するとともに、多国籍企業の創造する利益の分配方法について再検討、法整備を行うとする。また、雇用機会の平等化を目指すとした。

ケイコは農村部のインフラ整備に伴う短期雇用創出と、税制・金融システムの簡素化に伴う中期的な雇用を創出を目指す。課税システムのシンプル化とともに民間投資を奨励することを目的とした税制上の優遇措置制限の撤廃を行うとした。

 

少々長くなってきてしまったので、反汚職、犯罪に対する取り組みをまとめて書くと以下の通りである。

ペドロ・カスティジョは腐敗に対しては経済的集中と汚職の間には正比例の関係があるとし、経済、財政、税の地方分権化を主張。中央政府はその政策において年間国家予算の70%を割当てる。政治キャンペーン時の資金調達を禁止する。FTAと法律契約を公開し国民がチェックできる状態とする。民間企業のための会計監査制度の強化についても触れた。また、銃の所持について違法性を宣言するとともに武器を放棄した者に恩赦を与える。

ケイコが所属するFuerza Popularは以下を公約とする。腐敗防止を目的とし、地方政府においては予防タスクだけでなく、腐敗の行為に影響を与える要因または原因の調査タスクを実行させる。警察のそれにおいては内部調査能力を持つとともに制裁を加えたり、正直に報告させるようにする。誠実さと腐敗の防止のための国家計画2018-2021の遵守を促進する。また、会計などで取得した情報はシステムを通じトレーサビリティを行えるようにし、事案によって制裁を実行する機能設置する。また、警察署を強化し、街中犯罪現象のための地区プログラムを策定。警察の質とレベルも向上させる。違法なコカ栽培の根絶。刑務所が犯罪者のための学校になるのを防ぐこと、また、過密回避のため新刑務所を建設するとした。

 

つばの広い帽子がトレードマークになったペドロ・カスティジョ、元大統領アルベルト・フジモリの長女で世襲議員であるケイコ・フジモリ。 都市部と北部海岸地帯が支持基盤となっているケイコに対して、ペドロのそれは農村地域、アンデス地域をの人々と、全く異なった支持基盤、考え方を持つ候補者同士の熾烈な戦いは6月6日まで続く。はたして国民はどのような結論を出すのだろうか。

なお、第1回目投票の結果は、有効票 14,369,119(81.402%)に対し白票 2,184,381(12.375%)、無効票 1,098,478(6.223%)となった。つまり白票と無効票は全体の約20%もあるわけだ。あまりにも対極の二人であること、汚職などの絡みからどちらも信じられない、選びたくないという人も多くいるのだろう。とは言え、候補者からすれば、これらの人を取り込めるかが、大統領選の鍵になることは明白である。

 ※スペイン語勉強中、ペルー選挙に精通していないため、誤認識の可能性あり。ご了承願いたし。

 

大統領選全立候補者

政党/候補者(年齢)
Acción Popular/ Yonhy Lescano(62)
Alianza para el Progreso/ César Acuña(68)
Avanza País/ Hernando de Soto(79)
Democracia Directa/ Andrés Alcántara(61)
Frente Amplio/ Marco Arana(58)
Fuerza Popular/ Keiko Fujimori(45)
Juntos por el Perú/ Verónika Mendoza(40)
Partido Morado/ Julio Guzmán(50)
Partido Nacionalista Peruano/ Ollanta Humala(58)
Partido Popular Cristiano/ Alberto Beingolea(56)
Perú Libre/ Pedro Castillo(51)
Perú Patria Segura/ Rafael Santos(52)
Podemos Perú/ Daniel Urresti(64)
Renacimiento Unido Nacional/ Ciro Gálvez(72)
Renovación Popular/ Rafael López Aliaga(60)
Somos Perú/ Daniel Salaverry(48)
Unión por el Perú/ José Vega(63)
Victoria Nacional/George Forsyth(38)

 

参考資料:

1. El Comercio: Keiko Fujimori y Pedro Castillo: ¿En qué se diferencian sus principales propuestas? (16 de abril de 2021)

2 Comments

  • miyachan 04/23/2021 at 01:25

    詳しい解説ありがとう。R大学ラテンアメリカ政治学の講義並みの高い水準の内容です。さて、どちらが勝つんでしょうか?2回落ちて3度目の挑戦に同情票が集まらないか。個人的にはケイコがんばれ!それから平和的に選挙、政権移行して欲しいね。米国のような混沌にならないように願ってます。

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    • MARINA 04/23/2021 at 15:12

      カスティージョ優勢説はありますが、最後の最後までわかりませんね…

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