モンテレイには王の山(Monte Rey)という意味がある。シエラマドレ山脈(Sierra Madre)の麓に位置し、周囲を山に囲まれていることもあり山々の町 (La Ciudad de las Montañas)とさえ呼ばれるほど、そこは自然と密着した土地である。 米国国境が近いことでもたらされる外資系企業からの恩恵と、山があるからこその採掘業の発展は、メキシコ第3の都市としてモンテレイを有名にする。さらに、工業化はこの土地を最も大気汚染が進んだ場所として国際的に知らしめた。有毒なガスが街を包み、その素晴らしい風景は影に隠れた。
モンテレイでは毎日650万リットルのガソリンが消費され、2400万トンの二酸化炭素が排出されている。世界規模で問題になっている化石燃料の乱用もここでは発展の代償として正当化されてしまう。逆に、大気汚染による人体への健康被害については語られてこなかった。
この土地の気象は1年のうち305日が普通でないという。採掘場での活動、土壌の侵食、大規模建設が生み出すはPM10、PM2.5は体内に容易に侵入し、血流を通じて臓器に渡る。そしてその蓄積は癌や心筋梗塞の原因となる。
世界保健機関(WHO)によると、健康維持のために許容されているこれら有害物質の許容量は1立方メートルあたり年間10マイクログラム(メキシコ公式基準)で、モンテレイでのそれは最大27マイクログラムと約3倍の曝露が確認されている。ちなみに首都メキシコシティ・第二の都市グアダラハラは最大25マイクログラムとされている。
ここでは大気汚染が日常で、それを理由に子どもを含む多くの人が命を落としている。その数はCOVID-19のケースよりも多いと言うから、どれほどの危機と隣り合わせで生活しているかわかるだろう。ここまでの事実を突きつけられても未だ対策がないのは主導者がいないこと、さらに地元議員が乗り出さないのは、自らの利権による理由からだろう、そう語るのは現メキシコ経済事務局長であるタチアナ・クロウティエ(Tatiana Clouthier)である。また、彼女はこのドキュメンタリーの中で汚染を引き起こしている要素としてPEMEX(国営のカデレイタ製油所)、Cadereyta、そしてその他企業や公共交通の名をあげた。この土地が抱える環境汚染とその状況はあまりにも醜い。ここに住む人もまたじわじわと汚染され、一歩ずつ死の階段を登っているかのようである。
でも未来がないわけではない。モンテレイを取り巻く山々、川はそれを壊してきた人間を救える可能性を持っているのだ。2010年この街を襲ったハリケーンアレックス(ALEX)。サンタ・カタリーナ川(el rio de Santa Catarina)は全てを流し去った。街は水浸しになり壊滅状態となり、人々は落胆した。でもアレックスがもたらしたものもある。それは、エコシステムの回復だ。川の再生は動植物へ有利に働くのみならず、街に防御機能を装備させ、森に力を与え、結果として酸素供給量が微弱ながら増えたという。 人間による工夫と努力はもちろん必要だ。でも自然が持つ治癒力にも期待したい。大いなる自然に守られてきた土地なのだから。
参考資料:
1. Con marcha, niños exigen aire limpio para Monterrey
2. Contaminación de Monterrey, “la muerte lenta” de los regios
3. Contaminación de refinería de Cadereyta aumenta casos de enfermedades: estudio
4. Mugre y muerte fluyen por el río Santa Catarina que atraviesa Monterrey
5. ProAire 2016-2025(SEMARNAT:Secretaria de Medio Ambiente y Recursos Naturales)
6. Calidad del aire(INECC : Instituto Nacional de Ecología y Cambio Climático)
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