サルバドール・アジェンデ元大統領は、1973年9月11日にその命を絶った。
人民連合による政府が軍事クーデターにより転覆させられると、暴力を伴う恐怖の時代が始まることとなる。アウグスト・ピノチェトによる独裁政治はアメリカ合衆国の政財界、チリ国内の保守層や軍部の支援を受けながら、1990年3月までの16年間続くこととなる。
アジェンデはなぜモネダ宮で武器を取り、自らの命を絶たねばならなかったのか。
彼が人民に伝えたかったこととは。
ここに、彼の最後の言葉を記す。
間違いなく、私にとってこれが皆様にご挨拶する最後の機会になるでしょう。空軍がラジオ・ポルタレスとラジオ・コルポラシオンのタワーを爆撃しました。私は恨みの言葉は申しませんが、失望はしています。私の言葉が、誓約を裏切った人々に対する、道徳的懲罰となりますように。チリの兵士たち、名ばかりの最高司令官、自らを海軍司令官に任命したメリノ提督、そして昨日政府への忠誠を誓ったばかりの卑劣な将軍、自らをカラビネロス[国家警察軍]長官に任命したメンドーサ。こうした事実を前に、私がなすべきことは、労働者の方々にこう申しあげることです。私は辞任しない!
歴史的変遷の場に置かれた私は、国民への忠誠として、自らの命で償います。そして、何千人ものチリ人の素晴らしい良心に、私たちが植えた種子は、永遠にしぼんだままではいないと確信していることを国民に申しあげます。彼らには武力があり、私たちを支配することができるでしょうが、社会的な過程というものは、犯罪や武力によって押しとどめることはできません。歴史は我々のものであり、人々が歴史を作るのです。
わが国の労働者の皆さん。公正さに対する偉大な熱望を単に翻訳するだけの人間、憲法と法律を遵守するとお約束し、その通りにしただけの人間を、常に確信してくださった、皆さんの誠実さにお礼申しあげたく思います。この決定的な瞬間に、私が皆さんにご挨拶できる最後の瞬間に、皆様には教訓を生かして頂きたいと思います。外国資本と帝国主義者が、反動主義の連合をくみ、シュナイダー将軍が教え、アラヤ将軍が守った軍隊の伝統を、破らせる状況を作りだしました。二人の将軍は、この同じ社会階層による犠牲者となりました。この階層は、今日、外国の支援を得て、自分たちの利益と特権を守る権力を奪い返そうと望んで、家にこもっています。
誰よりも、わが国の慎ましい女性たち、我々を信じてくれた農婦、我々が子供たちを気づかっていることを知っていた母親たちに呼びかけます。資本主義社会の優位性を擁護する専門職の協会、階級差別的な協会が支援する暴動教唆に反対し続けている、チリの専門職の人々、愛国的な専門職の人々に呼びかけます。
歌を歌って、喜びと闘争の精神を与えてくれた若者たちに呼びかけます。チリの男性たち、労働者、農民、知識人、これから迫害されるであろう人々に呼びかけます。なぜならわが国には、既にファシズムが何時間も続いているからです。行動すべき義務を持つ人々の沈黙を前にしての、テロ攻撃、橋の爆破、鉄道線路の切断、石油とガス・パイプラインの破壊です。
犯罪が犯されたのです。歴史が彼らを裁きます。
確かに、ラジオ・マガジャネスは沈黙させられ、私の確信ある冷静な声は、もはや皆さんには届かないかもしれません。かまうことはありません。皆さんは私の声を聞き続けるでしょう。私は常に皆さんとともにいます。少なくとも私は、祖国に忠実であった品格ある人間として記憶されるでしょう。
国民は自らを守らねばなりませんが、自らを犠牲にしてはなりません。国民は銃弾によって、殺されたり、蜂の巣にされたりしてはなりませんが、屈辱を受けさせられてもいけません。
わが国の労働者の皆さん、私はチリとその運命を信じています。裏切りが優勢になろうとしているこの暗くつらい時期を、チリの他の人々が乗り越えてくれるでしょう。より良い社会を建設するため、自由な人々がそこを通るように、立派な大通りが、意外に早く、再び開かれるだろうことを忘れないでください。
チリ万歳! 国民万歳! 労働者万歳!
これが私の最期のご挨拶ですが、私の犠牲は無駄にはならないと確信しています。少なくとも、重大な罪や臆病や裏切りを懲罰する、道徳的教訓になると確信しています。
サンティアゴ・デ・チレ
1973年9月11日
サルバドール アジェンデ
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彼の大統領としての業績・評価はさておき、死の直前にこれだけの長いそして理路整然とした冷静な言葉が残せるのは、なかなかできることではない、と思う。そして、その愛国心にチリの人々は涙を流したのか。